オールダンニュー・グレートウォー

屋鳥 吾更

文字の大きさ
10 / 51
自在剣篇

 9.赤い人

しおりを挟む
 午後17時30分。

 バジルが黒ずくめの男たちに連れてこられたのは、アパートから約8分――新川学園のすぐ近くにある雑居ビル。外見から非日常を感じることはないが、何分初めての場所だったため、バジルの身体は緊張で震えている。

「さあ、遠慮せず入りなさい。みんなが待っているから」

 先頭の男性の指示に従って、全員はビルの中へ。
 

 ガラス製の扉を開けてすぐのロビーは、とても質素な雰囲気。本当に、ただ受付を行うだけというような作りで、今は職員もいない。恐らく「みんな」の中に含まれているのだろう。
 そしてタイルカーペットを奥へと進んでいくと、かなり歩いたところで男たちの足が止まった。

「あ、ここだから。会議室」

 指で差されたほう、左側を振り向くと『ConferenceRoom会議室』と書かれた、そこに至るまでの部屋の中で最も大きな部屋に辿り着く。
 小学校の音楽室並みの鉄扉を開き中に入ると、バジルにとって思わぬ光景が広がっていた。


「あれ、日和……黒崎さん、江洲さん……暁月も、なんでいるの……?」


 すると彼の反応をかき消すように、凛とした声が響き渡る。

「ようこそお越しいただきました、楠森くん」

「――どちらさん?」

「あれ、僕のことご存じでない? もう少し名前が知れていても良かったんですけど、自惚れでしたね」

 仰々しい登場をしたわりに、案外すっきりと空気が変わった。それを表すように、会議室にいる人々の視線が前方のモニターへと集まり、照明が消え――スライドが現れる。
 バジルに声をかけた少年は、自身の自己紹介を省いた。
 ただ、胸元に下がる名札の入ったケースをひらひらと揺らすだけで……しかし名前は見えない。大きく「LORENCE」と記してある。意味はわからなかった。

「今から、プレゼンもとい概要説明を開始します。説明の途中で質問等がありましたら、最後に時間を取りますゆえ、そちらで一気にお願いしますね」

 爽やかな笑顔を浮かべる真っ赤な髪の少年は、バジルを一番手前――黒い髪を後ろでまとめた、黒崎麻衣似の少女の隣に座らせ、スライドによる説明を始める。
 ――だがスライド以前に、彼の第一声は凄まじいものだった。


『まず、我々は新人類です』


「……は?」

「まずはそこからですね。我々「新人類しんじんるい」という存在は、一口に言えば純地球生まれの人類であり、今現在地球に生息している人類とは別物です。しかし、外見や総合的な能力にそれほど差異はないため、我々は彼らを「旧人類きゅうじんるい」、もしくはどの派閥にも所属していない「無所属むしょぞく」と称呼しています。今説明したように、我々にはいくつもの派閥が存在しており、その規模は「新人類」の全人口に比例するためあまり大きくはありませんが、世界各国に分布しています。その中には僕を含める「LORENCEローレンス」のように、自国から他国へ移動した派閥も存在します。どうしてそれぞれ派閥に分かれているのか、それは誕生した地区や環境によって「新人類」の特性も異なるためです。詳しい説明は省かせていただきますが、今楠森さんの周囲にいる人々は「恵光派えこうは」という日本出身の派閥と、英国出身の「ローレンス」にそれぞれ所属しておられます。どちらもそれほど違いはありませんが、楠森さんは一応「恵光派」所属とさせていただきます。次に、我々「恵光派」と「ローレンス」の目的をお話しいたしますね。まず先に――双方の派閥は「新人類」と「無所属」の共存を望んでいません。ただ、そうは言っても、なんの前触れもなしに大量殺戮を行う気もありません。いずれ我々は「新旧大戦オールダンニュー・グレートウォー」という大きな作戦を実行に移します。名前のとおり「新人類」と「無所属」が正面から衝突し、今後の種の存続を争うというものです。ですが、すでに我々の勝利は確定していると断言いたします。我々には、兵器と呼ぶに相応しい力を持ちながら、地球環境に一切の害をなさない武装が存在し、聞こえはたいへん悪いですが『武力行使』という形で日本国内の「無所属」を殲滅しようと考えています。そしてこれから楠森さんに使用していただく武装は、少々扱いづらい兵器です。それは楠森さんのように特異な力を持つ人間しか使用できない……いえ、使用はできますが、今後長期戦も考えられる「新旧大戦」に全く向いていません。そのため、我々はあなたの類い稀な能力を欲している……つまり、我々の同志になっていただきたいのです」
 
 ――少年が口を噤んだのと同時にモニターの画面が黒くなり、次第に部屋に明かりが灯る。

「ご清聴、感謝します。ちなみに僕はヴォルカンと申します、以後お見知りおきを」

 ヴォルカンは手本のような一礼をして、バジルに質問の権利を手渡した。

「まあ、えっと……今のところはないです」

 バジルにとって、ヴォルカンと名乗る少年の話はまさにB級映画のようなものだった。
 つまり今の話のとおりだと、今バジルの周囲にいる人々は、バジルとは全く別の人類だということになる。外見や総合的な能力にほとんど差異がないとも言っていたので、隣に座る麻衣がごく普通の少女に見えることにも納得がいった。
 あまりに浮世離れした話だが、ヴォルカンの一言でバジルの戸惑いは消えた。

「ちなみに、僕たちは巷で噂される『赤い人』と同じ人種ですが、我々は関与していません」

「――な、なるほど」

「はい、だからご安心を」

 ヴォルカンの微笑のあとに麻衣を一瞥し、バジルは「最後に」と前置きをして、

「要は、その……いずれ俺は、沢山の人を殺す――殺人鬼になるんですか」

「否定はしません。あなた一人の背中に全てが懸かっている、ということは決してありませんが。『無所属』の立場に立った時、確かにあなたは殺人鬼と呼ぶに相応しい人物であることに間違いはありません」

「……無意味ですけど、拒否権は?」

「申し訳ないですが、楠森くんには力になっていただきますよ」

 バジルの言葉に、脅迫紛いの回答を述べるヴォルカン。
 今日は一時解散となり――バジルは足早に、ビルをあとにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...