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自在剣篇
9.赤い人
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午後17時30分。
バジルが黒ずくめの男たちに連れてこられたのは、アパートから約8分――新川学園のすぐ近くにある雑居ビル。外見から非日常を感じることはないが、何分初めての場所だったため、バジルの身体は緊張で震えている。
「さあ、遠慮せず入りなさい。みんなが待っているから」
先頭の男性の指示に従って、全員はビルの中へ。
ガラス製の扉を開けてすぐのロビーは、とても質素な雰囲気。本当に、ただ受付を行うだけというような作りで、今は職員もいない。恐らく「みんな」の中に含まれているのだろう。
そしてタイルカーペットを奥へと進んでいくと、かなり歩いたところで男たちの足が止まった。
「あ、ここだから。会議室」
指で差されたほう、左側を振り向くと『ConferenceRoom』と書かれた、そこに至るまでの部屋の中で最も大きな部屋に辿り着く。
小学校の音楽室並みの鉄扉を開き中に入ると、バジルにとって思わぬ光景が広がっていた。
「あれ、日和……黒崎さん、江洲さん……暁月も、なんでいるの……?」
すると彼の反応をかき消すように、凛とした声が響き渡る。
「ようこそお越しいただきました、楠森くん」
「――どちらさん?」
「あれ、僕のことご存じでない? もう少し名前が知れていても良かったんですけど、自惚れでしたね」
仰々しい登場をしたわりに、案外すっきりと空気が変わった。それを表すように、会議室にいる人々の視線が前方のモニターへと集まり、照明が消え――スライドが現れる。
バジルに声をかけた少年は、自身の自己紹介を省いた。
ただ、胸元に下がる名札の入ったケースをひらひらと揺らすだけで……しかし名前は見えない。大きく「LORENCE」と記してある。意味はわからなかった。
「今から、プレゼンもとい概要説明を開始します。説明の途中で質問等がありましたら、最後に時間を取りますゆえ、そちらで一気にお願いしますね」
爽やかな笑顔を浮かべる真っ赤な髪の少年は、バジルを一番手前――黒い髪を後ろでまとめた、黒崎麻衣似の少女の隣に座らせ、スライドによる説明を始める。
――だがスライド以前に、彼の第一声は凄まじいものだった。
『まず、我々は新人類です』
「……は?」
「まずはそこからですね。我々「新人類」という存在は、一口に言えば純地球生まれの人類であり、今現在地球に生息している人類とは別物です。しかし、外見や総合的な能力にそれほど差異はないため、我々は彼らを「旧人類」、もしくはどの派閥にも所属していない「無所属」と称呼しています。今説明したように、我々にはいくつもの派閥が存在しており、その規模は「新人類」の全人口に比例するためあまり大きくはありませんが、世界各国に分布しています。その中には僕を含める「LORENCE」のように、自国から他国へ移動した派閥も存在します。どうしてそれぞれ派閥に分かれているのか、それは誕生した地区や環境によって「新人類」の特性も異なるためです。詳しい説明は省かせていただきますが、今楠森さんの周囲にいる人々は「恵光派」という日本出身の派閥と、英国出身の「ローレンス」にそれぞれ所属しておられます。どちらもそれほど違いはありませんが、楠森さんは一応「恵光派」所属とさせていただきます。次に、我々「恵光派」と「ローレンス」の目的をお話しいたしますね。まず先に――双方の派閥は「新人類」と「無所属」の共存を望んでいません。ただ、そうは言っても、なんの前触れもなしに大量殺戮を行う気もありません。いずれ我々は「新旧大戦」という大きな作戦を実行に移します。名前のとおり「新人類」と「無所属」が正面から衝突し、今後の種の存続を争うというものです。ですが、すでに我々の勝利は確定していると断言いたします。我々には、兵器と呼ぶに相応しい力を持ちながら、地球環境に一切の害をなさない武装が存在し、聞こえはたいへん悪いですが『武力行使』という形で日本国内の「無所属」を殲滅しようと考えています。そしてこれから楠森さんに使用していただく武装は、少々扱いづらい兵器です。それは楠森さんのように特異な力を持つ人間しか使用できない……いえ、使用はできますが、今後長期戦も考えられる「新旧大戦」に全く向いていません。そのため、我々はあなたの類い稀な能力を欲している……つまり、我々の同志になっていただきたいのです」
――少年が口を噤んだのと同時にモニターの画面が黒くなり、次第に部屋に明かりが灯る。
「ご清聴、感謝します。ちなみに僕はヴォルカンと申します、以後お見知りおきを」
ヴォルカンは手本のような一礼をして、バジルに質問の権利を手渡した。
「まあ、えっと……今のところはないです」
バジルにとって、ヴォルカンと名乗る少年の話はまさにB級映画のようなものだった。
つまり今の話のとおりだと、今バジルの周囲にいる人々は、バジルとは全く別の人類だということになる。外見や総合的な能力にほとんど差異がないとも言っていたので、隣に座る麻衣がごく普通の少女に見えることにも納得がいった。
あまりに浮世離れした話だが、ヴォルカンの一言でバジルの戸惑いは消えた。
「ちなみに、僕たちは巷で噂される『赤い人』と同じ人種ですが、我々は関与していません」
「――な、なるほど」
「はい、だからご安心を」
ヴォルカンの微笑のあとに麻衣を一瞥し、バジルは「最後に」と前置きをして、
「要は、その……いずれ俺は、沢山の人を殺す――殺人鬼になるんですか」
「否定はしません。あなた一人の背中に全てが懸かっている、ということは決してありませんが。『無所属』の立場に立った時、確かにあなたは殺人鬼と呼ぶに相応しい人物であることに間違いはありません」
「……無意味ですけど、拒否権は?」
「申し訳ないですが、楠森くんには力になっていただきますよ」
バジルの言葉に、脅迫紛いの回答を述べるヴォルカン。
今日は一時解散となり――バジルは足早に、ビルをあとにした。
バジルが黒ずくめの男たちに連れてこられたのは、アパートから約8分――新川学園のすぐ近くにある雑居ビル。外見から非日常を感じることはないが、何分初めての場所だったため、バジルの身体は緊張で震えている。
「さあ、遠慮せず入りなさい。みんなが待っているから」
先頭の男性の指示に従って、全員はビルの中へ。
ガラス製の扉を開けてすぐのロビーは、とても質素な雰囲気。本当に、ただ受付を行うだけというような作りで、今は職員もいない。恐らく「みんな」の中に含まれているのだろう。
そしてタイルカーペットを奥へと進んでいくと、かなり歩いたところで男たちの足が止まった。
「あ、ここだから。会議室」
指で差されたほう、左側を振り向くと『ConferenceRoom』と書かれた、そこに至るまでの部屋の中で最も大きな部屋に辿り着く。
小学校の音楽室並みの鉄扉を開き中に入ると、バジルにとって思わぬ光景が広がっていた。
「あれ、日和……黒崎さん、江洲さん……暁月も、なんでいるの……?」
すると彼の反応をかき消すように、凛とした声が響き渡る。
「ようこそお越しいただきました、楠森くん」
「――どちらさん?」
「あれ、僕のことご存じでない? もう少し名前が知れていても良かったんですけど、自惚れでしたね」
仰々しい登場をしたわりに、案外すっきりと空気が変わった。それを表すように、会議室にいる人々の視線が前方のモニターへと集まり、照明が消え――スライドが現れる。
バジルに声をかけた少年は、自身の自己紹介を省いた。
ただ、胸元に下がる名札の入ったケースをひらひらと揺らすだけで……しかし名前は見えない。大きく「LORENCE」と記してある。意味はわからなかった。
「今から、プレゼンもとい概要説明を開始します。説明の途中で質問等がありましたら、最後に時間を取りますゆえ、そちらで一気にお願いしますね」
爽やかな笑顔を浮かべる真っ赤な髪の少年は、バジルを一番手前――黒い髪を後ろでまとめた、黒崎麻衣似の少女の隣に座らせ、スライドによる説明を始める。
――だがスライド以前に、彼の第一声は凄まじいものだった。
『まず、我々は新人類です』
「……は?」
「まずはそこからですね。我々「新人類」という存在は、一口に言えば純地球生まれの人類であり、今現在地球に生息している人類とは別物です。しかし、外見や総合的な能力にそれほど差異はないため、我々は彼らを「旧人類」、もしくはどの派閥にも所属していない「無所属」と称呼しています。今説明したように、我々にはいくつもの派閥が存在しており、その規模は「新人類」の全人口に比例するためあまり大きくはありませんが、世界各国に分布しています。その中には僕を含める「LORENCE」のように、自国から他国へ移動した派閥も存在します。どうしてそれぞれ派閥に分かれているのか、それは誕生した地区や環境によって「新人類」の特性も異なるためです。詳しい説明は省かせていただきますが、今楠森さんの周囲にいる人々は「恵光派」という日本出身の派閥と、英国出身の「ローレンス」にそれぞれ所属しておられます。どちらもそれほど違いはありませんが、楠森さんは一応「恵光派」所属とさせていただきます。次に、我々「恵光派」と「ローレンス」の目的をお話しいたしますね。まず先に――双方の派閥は「新人類」と「無所属」の共存を望んでいません。ただ、そうは言っても、なんの前触れもなしに大量殺戮を行う気もありません。いずれ我々は「新旧大戦」という大きな作戦を実行に移します。名前のとおり「新人類」と「無所属」が正面から衝突し、今後の種の存続を争うというものです。ですが、すでに我々の勝利は確定していると断言いたします。我々には、兵器と呼ぶに相応しい力を持ちながら、地球環境に一切の害をなさない武装が存在し、聞こえはたいへん悪いですが『武力行使』という形で日本国内の「無所属」を殲滅しようと考えています。そしてこれから楠森さんに使用していただく武装は、少々扱いづらい兵器です。それは楠森さんのように特異な力を持つ人間しか使用できない……いえ、使用はできますが、今後長期戦も考えられる「新旧大戦」に全く向いていません。そのため、我々はあなたの類い稀な能力を欲している……つまり、我々の同志になっていただきたいのです」
――少年が口を噤んだのと同時にモニターの画面が黒くなり、次第に部屋に明かりが灯る。
「ご清聴、感謝します。ちなみに僕はヴォルカンと申します、以後お見知りおきを」
ヴォルカンは手本のような一礼をして、バジルに質問の権利を手渡した。
「まあ、えっと……今のところはないです」
バジルにとって、ヴォルカンと名乗る少年の話はまさにB級映画のようなものだった。
つまり今の話のとおりだと、今バジルの周囲にいる人々は、バジルとは全く別の人類だということになる。外見や総合的な能力にほとんど差異がないとも言っていたので、隣に座る麻衣がごく普通の少女に見えることにも納得がいった。
あまりに浮世離れした話だが、ヴォルカンの一言でバジルの戸惑いは消えた。
「ちなみに、僕たちは巷で噂される『赤い人』と同じ人種ですが、我々は関与していません」
「――な、なるほど」
「はい、だからご安心を」
ヴォルカンの微笑のあとに麻衣を一瞥し、バジルは「最後に」と前置きをして、
「要は、その……いずれ俺は、沢山の人を殺す――殺人鬼になるんですか」
「否定はしません。あなた一人の背中に全てが懸かっている、ということは決してありませんが。『無所属』の立場に立った時、確かにあなたは殺人鬼と呼ぶに相応しい人物であることに間違いはありません」
「……無意味ですけど、拒否権は?」
「申し訳ないですが、楠森くんには力になっていただきますよ」
バジルの言葉に、脅迫紛いの回答を述べるヴォルカン。
今日は一時解散となり――バジルは足早に、ビルをあとにした。
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