バカな元外交官の暗躍

ジャーケイ

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第二章 日本編一

青山オフィス 新たなる挑戦

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「中田社長、彼らが、ページとタヨです。生の容姿はご覧のと通りです」

 私は間を開けずに、微笑んで言った。「こちらが中田社長。私も中田社長も少し年はとっているけど、決して悪い大人ではありません」

「初めまして、ページです」

「タヨです。よく大正っぽい名前って言われます」

「こちらこそ、初めまして。私も大正がどんな時代か最近の漫画くらいでしか知りませんが。どうぞよろしく。将生さんは、東京でのレコーディングが予定より長引いて少し遅れています」

 5人が揃う初めてのミーティングは青山にある中田社長の会社AT・ミュージックで行うと決めていた。中田社長とは、外務省時代からの知り合いなので、もう随分と長い付き合いになる。

 レゲエに引き込んでしまい、大変なご苦労を背負わせてきた。音楽業界に顔が広い重鎮だ。中田社長のことは、既に詳しく彼らに伝えておいた。この空間には何の違和感も漂っていない。

 「カズさんから、よく中田社長のこと聞いています。こうしてお会いできて大変光栄に思います。既に勝った同然だ、こんな気がしています」ページは大人に合わせた会話が出来るが、まだ若干21歳だ。

「カズさんといい、中田社長といい、まだまだ感性お若いですね」タヨは軽く微笑んだ。

「海外のことは分からないけど、国内は何とか力になれると思います。風通しをよくする意味からも、今回みたいに小さなチームの方が絶対いいと思う」

「カズさんと将生さんにはグラミーの票固めと制作の両方で動いてもらいましょう。もちろん僕も制作には口を出すけど」

 ここにはまだ来ていない将生さんも含めて、誰もが中田社長がチームのリーダー的存在で問題はないと思っている。将生さんが来るまで、それなりに雑談が続いた。みんなしっくりきている。高速を降りたと電話が来て十分もしないうちに、将生さんが現れた。
 「面白そうな顔ぶれになりましたね。東郷将生です。どうぞよろしく」お互いに一通り挨拶を交わした。

 「いや~、彼らのルックスだけでも日本のメジャー、どこでも即サインでしょう。僕も徹底的に絡んでいきます。もうこれから先半年の仕事は全てキャンセルします」将生さんは超売れっ子の作曲家、マルチクリエイターだ。グラミーハンターとしても、かれこれ十年になる。

 今回は制作の中心人物の一人でもある。今回はある意味裏方になるが、これまでグラミーのノミネートを目指して自分自身名義のアルバムも数枚リリースしてきている。

 私のプロデユースアルバムにもバンドメンバーとして参加してもらい、この時にはグラミーにノミネートされた。レゲエに加えるポップスのさじ加減もよくわかっている。今回のプロジェクトには最適な人物であると言えた。

 「皆さんのご意見はいかがでしょうか?最初からどこか日本のレコード会社絡んでもらいますか?」この部分について詳しくは、ページ、タヨとはあまり話をしていなかった。

 先ほど将生さんが言ったように、私も日本のどこのレコード会社でも、こちらこそ喜んで、と受け入れてもらえるだけの自信はある。

 レゲエというジャンルってとこが引っ掛かるが、歌はうまい、ルックスもいい、その上大きな病院の跡取り息子、その病院のナンバーワン看護師とのコンビネーション、制作費の心配はない、タネは十分すぎるくらい揃っている。

 間違いなくどこでも即決だと思うが、私は、プロジェクト自体に最初から緩い期待を持たせるのはどうかと思っていた。

 「そうだね、話をするとしたらソニーかユニバーサルあたりだと思うけど。カズさん、海外のメジャーはどう?」中田社長が具体的な話に入るように口火を切った。

 「最近はBTSみたいに、東洋人が世界で活躍するようになりましたが、現実的には、まだ一枚もリリースしていない新人がメジャーとサインするのは難しいと思います」

 「彼らは可能性に賭けるだけのギャンブル感覚でサインはしないと思います。ただ、彼らが本気になると、こちらで用意できている二億円をはるかに凌ぐお金が動きます」

 「最初に日本のレコード会社と契約すると、終わりのないミーティングと長い決定プロセスで制作にも時間がかかりすぎる可能性が考えられます」

 「そうなると、グラミーに間に合わなくなってきます。それに方向性もレコード会社の考えが優先される可能性もあるのではないでしょうか。我々だけでプロジェクトをスタートさせて、その過程で徐々に外部にも絡んでもらうようにしませんか」

 将生さんも考えを述べた「一応1年限定のプロジェクトですよね。スピードが大切だと思います。いずれにせよ、どこかの段階で日本のレコード会社も飛びついてくると思います」
 
 「ただ、日本のマーケットも考えると、全曲でないにしろ日本語の曲はマストです。カズさんが前にやったように、日本人のアーティストに日本語で歌ってもらってレゲエのジャンルでノミネートされたじゃないですか」

 「今回も一曲は日本語も入れませんか。正解を視野に入れると、経済的にも大きな目標につき進めると思います。日本の市場も捨てたものじゃないです。ただ、国民的なヒット曲が必要ですね」異を唱える者は誰もいなかった。

 「僕たち二人は、いわゆる帰国子女で、英語はネイティブに話せます。もちろん歌もですが。ただ、世界は確実に変わってきている様に思えます」

 「僕らが小さいころ住んでいたアメリカでネイティブ以外が歌う英語の曲はラジオから全く流れてなかった。トップ40を流すラジオからです。でも今は、普通に韓国語で歌った曲がビルボード一位になれるのですから、日本語でも可能性はあると思います」
 
 中田社長がスピード感をもって話を進めた。

「では、早速私達だけで実務的な話を始めましょう。時間に限りもあるし、カズさんと君たち二人で話し合ったように、六曲のアルバム、余裕があればもう一曲」場を仕切るように口火を切った。

「将生さん、どう思う?」
 
 「実績をみても今までのカズさんのやり方でいいと思いますが、もう少し日本の音楽制作の厳しさを持つというか、ジャマイカの曖昧さを半分にして、プロジェクト臨みませんか」

 「つまり、デモを作る、みんなが話しあってテンポ、コード進行を決める、一つ一つのトーンにも意見を出す、みたいな。まあ、妥協を少し少なくするってことでしょうか」

 私には将生さんが言わんとすることを良く理解できた。ジャマイカでは、大体のプロジェクトにデモは存在しない。打ち込みであれ、生であれ一度レコーディングしたら、それがほぼほぼ最終となる。

 例えばドラム、ベース、ギター、キーボードでリズム録りをする場合、まあ大体三時間もあれば、そのレコーディングセッションは終了する。

 余裕があればオーバーダビングもその場でやってしまう。七,八年前になるが、エルトン・ジョンの企画アルバムがあった。ブロードウェイで上演されるミュージカルのテーマソングをスティングがジャマイカのレゲエで歌う。こんな話が持ち込まれた。エルトン・ジョン自身が歌っていたレゲエのデモを持って、スライ&ロビーに、これを君らのレゲエにしてくれと依頼してきた。

 スライとロビー、関係者、何の関係もない者、みんなでこのデモをスタジオのモニターで聞いた。誰の耳にもエルトンのデモは完全な最終バージョンにしか聞こえなかった。スライとロビーでさえ、「これ以上のレゲエはできない。どうしてやり直すのだ。このトラックでスティングが歌えばいいじゃないか」と言った。

 結局、ジャマイカでブラックウフル風なレゲエに作り変えられたが、かかった日数は二日。一日目にトラックのレコーディングが終了し、二日目にスティングのヴォーカルレコーディング。

 2度テイクし、数か所パンチで修正して、すべての制作日程が終了。デモではなく最終形。確かミックスはロンドンかニューヨークで白人のエンジニアが行ったと聞いた。余談になるが、スティングのジャマイカでの移動は25年落ちでクーラーの効かない白いカローラだった。

 私も具体的に話を進めたいと思った。「ジャマイカではデモの概念が無いと思ってください。レコーディングが始まれば、すべてが本番です」

 「ですから日本では常識でしょうが、出来るだけこちらで私たちの考える方向性を形にしたデモ制作を行い、ジャマイカに向かいたいと思います。それに沿ったものにジャマイカのエッセンスを加えましょう。ページ、タヨ、こちらでも現地でもどんどん意見を述べてください」

 「まあ、今日の所は顔合わせの意味もあるから、これから食事に行こう、中華でいいよね、みんな」やはり仕切りは中田社長が一番だ。
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