バカな元外交官の暗躍

ジャーケイ

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第二章 日本編一

デモ 於いて青山中華街

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 料理がテーブルに並ぶ間にも話が盛り上がった。

 「本来なら少なくとも20曲くらいのデモを作って、この中から六曲選ぶというのがまあ最低ラインでしょうが、とにかく時間の制約が厳しいので、六曲のみのデモを制作したいと思います」

 「まず決めたいのが、テンポとスタイル、ワンドロップかダンスホールか。提案ですが、4曲は早めのテンポでダンスホール、2曲を少し遅めでワンドロップ。具体的にはBPM100,110,120,130でダンスホール、80,90でワンドロップ」

 「一曲目は早めのダンスホール、テンポは120でどうでしょうか。ドラムの引き算足し算は二度目のジャマイカでスライに無理やりでもやってもらいましょう。アルバム収録曲のバランスはこれでいいと思いますが、みなさん、どうでしょう?」これから、効率よくプロジェクトを進めて行くための第一歩を踏み出した感じがした。

 「日本の市場を考えると、レゲエがどうやってZ世代の間でバズれるかSNSを駆使したマーケティング考えると、先ずは速いテンポで言葉の多い曲が必要です」一番若いタヨからの提案であった。普段からこんなことも考えているのかとみんなを驚かせた。なかなか順調な滑り出しだ、と私は思った。

 「タヨも知っているように言葉が多いのもダンスホールの特徴です。この辺もスライに伝えてプログラミングしてもらいます」

 「本来このテンポの領域はダンスホールというよりダンスです。でもスライの得意分野でもあるのでいいものができると思います。ダンスホールのキックは四拍ストレートでいいですね」

 「デモの段階はもちろん打ち込みですが、本番はライブドラムでダンスホールも可能です。結構かっこいいですよ」現実味のある制作の打ち合わせは実に楽しい。この段階では中田社長も将生さんも意見は述べないが、問題なしと何度も頷いていた。

 「ワンドロップはそんなに多くのパターンを作れないし、テンポの幅も狭いから、70と85あたりがいいかと思います」と、私は続けた。

 「そうですね、こんな感じで抑えておくとグラミーのエントリーもレゲエ部門で問題ないと思います」将生さんもグラミー周りは詳しい。

 「僕もこのバランスでいいと思う。今の時代を考えると、日本語の一曲はやはりダンスホールかな。いきなりどレゲエが一曲目だときついかも..ページ、タヨはどう思う?」中田社長も積極的だ

 「僕もタヨも経済的に困ってないし、売れるよりレゲエが出来る事の方がうれしいです。もちろん売れればそれだけたくさんの人にレゲエを聴いてもらえる。でもこの決定のプロセスというかこのスピード感、いいですね」

 「ワクワクしています、私」タヨの存在は、何とも頼もしい限りだ。

 「現地ではレゲエのいい加減さを自分自身で経験することになります。ジャマイカを巻き込んでの制作です。ブラザーみたいな仲間たちとの仕事ですから、苦しみよりも楽しみの方が勝りますが、将生さんが言っているとおりそのいい加減さ、曖昧さを半分にして臨みましょう」

 「早速ですが、将生さん、予備曲分も含めて七曲分のコード進行と曲の構成を一緒に考えてもらえませんか」もう過去数年将生さんと一緒にレゲエの制作を行ってきている。彼にジャマイカ音楽の全てがインプットされているわけではないが、今の音楽との融合は問題ないと思われた。

 「また私から少し提案ですが、一曲ダンスホールで王道のカノン進行やってみませんか。きれいなレゲエっぽいメロディーが出来るかどうか、ただ普通のいい曲が出来るかどうか」

 「いいね。どう将生さんは?」中田社長も賛成だ。

 「ページはクラシックやってきたんだよね。微妙な化学反応が起こるかもしれません。いいと思います」

 「ダンスホールでカノンですか。ロビーのベースライン、ぞくぞくします。いままで、ヘッドホンでしか聴いてこなかったスライ&ロビーが、自分達のレコーディングに参加してくれる、アイリ―です」ジャマイカやレゲエに関心のない人達には、少々理解不可能な会話であった。アイリ―とはとってもハッピーな気分のことだ。
 「ジャマイカって、実際どんなところ?私もニューヨーク時代クイーンズにたくさんジャマイカ人の友達がいたけど、まあいい加減な人たちが多かったな」タヨも全くジャマイカ人を知らないわけではない。

 「確かに生活してみないとわからないこともあります。一言でいえば常に緊張を強いられる国です」

 「誰でも伝手をたよれば殺し屋にたどり着けます。殺されたくなければ、本当に気を付けて行動する必要があります」

 「ちょっとした恨みでも、狙われたらなかなか逃げ切れません。二人は医療の知識があるので、普通の人よりは、少し気を抜けるとは思いますが。それから、なぜか詐欺と誘拐はほとんどありません」

 一応何かあっては誰の為にもよくないので、これからジャマイカでレコーディングを行う二人に、予め危険回避を心がけてもらえるように、少々荒いイントロにしておいた。

 初めてジャマイカの地に立つクォーターのページには、良い事も悪い事も、すべて含めて興奮の対象になるだろう。実際危険な目にあう確率はそう高くないはずだが、私自身も改めて戦地に赴くソルジャーの気持ちを持つことが必要だと自分に言い聞かせた。

 「あら、ほんとに怖そうですね」まあ、私は大丈夫というようにタヨはむしろ会話を楽しんでいた。

 「スライとロビーの仲間たち、という括りの中では悪さをしてくるものはいません。経験則です。以前ロビーからお前は守られているから心配するなと言われたことがあります」

 「随分と悪い人たちを紹介されたものです」私は続けた。
 「話は少し長くなりますが、今回作家とゲットー案内人として参加してもらうスキャンタナというアーティストについてお話します。知り合ったのは、彼らがゼンロックという九人の男女混成グループで音楽を作っていた頃でした」
 「スキャンタナがリーダーで、ヒップホップ寄りのレゲエをやっていました。グループのプロデューサーが殺されて、代わりを探していた時に知り合いました。九人のうち五人がアメリカで麻薬密売人をやっていたそうです。中にはその元締めもいましたね」

 「彼はロスに住んでいたころ麻取りに自宅を急襲されて、その場で逮捕されたそうです。その家で現金三億円ほどを隠していたのが見つかり、高級自動車など全ての財産が没収され、その後連邦の刑務所で数年間の収容です」

 「ジャマイカに強制送還後はずっとゲットーでの生活を送っていました」

 「メンバーの中にはブジュ・バントンの実の妹もいました。歌が大変上手でした。これまでに九人のうち三人のメンバーが何らかの理由で、ジャマイカ国内で殺されたそうです」

 「そのスキャンタナですが、彼はインテリな密売人で、高校生の時国連本部メイン会議場でディベートに参加したそうです」

 「その後お決まりのように麻薬売買に手を染め、七年間の刑務所暮らし、強制送還後も手にしたのは自由だけだと言っていました。私は、彼と二人で長い間音楽制作に時間をかけました」

 「スライとロビー以外にも彼がいなかったら私もジャマイカにそう長くはいなかったと思います。長い刑務所暮らしも含めて人生の大半をアメリカで過ごしてきたので、純粋なレゲエファンからは受け入れてもらえなかった」

 「でも彼の書くメロディーと歌詞はものすごくキャッチ―です。今回もきっと音楽でも、他にもいろいろとお世話になると思います。本当のジャマイカを知るには彼のように地場に顔の利く人が必要です。楽しみにしていてください」

 タヨが気を引き締めるように「はい、ジャマイカの闇の部分は話に聞くだけでは、本当に感じたとは言えませんね。ちょっと怖いけど、楽しみです。カズさんと、ロビーと、そのスキャンタナがいれば完璧ですね」

 「カズさん、怖い話はそのへんにして、ジャマイカの音楽状況、ブリーフィングしてみたら」と、中田社長。

 「はい。ここのところレゲエは、のんきなラブソングと下ネタが主流です。週刊誌と一緒で、聴いてもらえなければ売れません。殺す、殺され的なものばかりをやっても、観衆に受けませんから」

 「売れるためという観点から見るとアメリカのミュージックシーンから受ける影響が多いのでしょうね。私もアーティスト、作家に対してもっと普遍性のある、もっとカジュアルな話題で、曲を書いてくれと言ってきました。」

 ページの分析によると「売れている音楽全般を見渡してみると、日本のことですが、日常自分の周りに起こっている経験に基づいたラブソングが多いと思います。下ネタはメインストリームの中にはそうそう出てこないですね」ということになる「ジャマイカではどうですか、カズさん?」

 「アメリカに準じています。ラジオでの放送コードがはっきり規定されているので、直接の表現部分は歌詞を替えたり、ピーを入れてミックスしたりせす。ただ、ライブではもちろん下品であればあるほど受けます」

 「普段はとてもまじめで、敬虔なキリスト教徒のアーティストがステージでは一変して下ネタ爆裂です。君達も一曲ライブ用の曲を用意してみましょうか。この容姿で、あのリリックかよ、って一気にスターダムです。冗談ですが」

 「カズさん、あんまり下品なのは止めようよ」中田社長もそうだが、みんなある程度は常識の範囲をちょっと外した位が程よいと思っているみたいだ。

「そうですね。ではここで少々ジャマイカでのヒット曲の発生過程について講義します、聞いてください。大きく分ければ、ナチュラルヒットとお金を使ったヒットの二つが有ります」

 「先ず、どこからヒットが生まれるかというと、今も変わらず中心はラジオです。ディスクジョッキーがどれだけ数多く、そして長い期間、曲をかけてくれるかが全てです」

 「たくさんのディスクジョッキーが自分の意志でかけ続けてくれてヒットするのがナチュラルヒットで、これは世界的ヒットにつながる場合も無い事はありません」

 「もう一つが、アメリカでは法律で禁じられているペイオーラといって、まあ、お金でディスクジョッキーを買収して曲をかけてもらうヒット曲です」

 「かけてくれる回数、期間、ディスクジョッキーの知名度と時間帯により値段が変わってきます。額によっては、この曲こそが今世紀最大のレゲエヒット曲になる、くらいは軽く言ってもらえます」

 「お金が続けば、そこそこのヒットは見込めますが、たいていの場合長続きはしません、ただし誰もが聞いていい曲だと認められれば別です」

 「このペイオーラはジャマイカでも規制されていますが、アーティストとの個人的関係でお金を受け取っているディスクジョッキーもまだまだ多いです」

 「大昔の話になりますが、マイアミに住んでいたころ、あるアメリカの音楽プロモーターと知り合いになりました。ローリング・ストーンズを最初にアメリカでプロモートしたという伝説的なイタリア系の方でした」

 「当時のアメリカではお金、ドラッグ、女がヒットを作るファクターだと聞きました。もちろん大きなプロモーションの一環として、今回の私達のプロジェクトでもディスクジョッキーとの接触は何らかの形で必要になってきます」

 「楽曲を世界的に広める目的でアメリカからプロモーションを仕掛けるとします。この場合アメリカでかかる費用と、これと同じような仕掛けをジャマイカ発で行う場合には、その費用対効果は比べ物にならない位ジャマイカ発の方がいいです」

 「いいものが出きて、かつ、ジャマイカでバズれば、欧米からレゲエクレイジー達の目がジャマイカに向きます」

将生さんが続けた。「僕もアメリカに住んでいて、アメリカの音楽業界で仕事をしてきたのでわかるけど、メジャーが本気になると、シングルのプロモーションに最低でも二十万ドルはかけますね、あくまでラジオプロモーションだけの金額です」

 「今回の私たちの動きですが、何せ必要なものは、ヒット曲です。ジャマイカ発でどでかいキャンペーンやりましょう。ラジオ、テレビ、新聞に出まくり、インタビュー絡みでコマーシャルの時間も買い取ります」

 「Tシャツ、ホッディー、キャップばらまきでジャマイカ人が見たことのない一大キャンペーンです。今回これに二千万円くらいかけてみませんか」
 
 「効果としてはアメリカでやる二億円分くらいの価値はあると思います。普通ジャマイカでの大きなプロモーションで最大二百万円くらいなので、これはジャマイカ史上最大になります」私は、これだけのキャンペーンを行う作業過程を頭の中でイメージしてみた。

 「カズさん、ちょっと早いんじゃない。まだ、曲も何もできてない段階で」中田社長が、少しブレーキをかけてくれた。

 「中田社長、もし、お金もことだったら心配しないでください。ここはガンガン行ってください。。僕にとって、こんなに恵まれた環境の中でも、一生に一度のワンチャンな出来事になるでしょうから」ページは正直、構えたくなかったしお金を惜しむ気も全くなかった。ラッパーっぽい口調になった。

 「私は夢を見れる女になれそうですね。押せ押せで、行ってください、みなさん」タヨは揚げたカニの爪を口に運んだ。

 「ページ、タヨ、明日僕のスタジオ来られるかな? 二人が歌う音程の範囲を知りたいから。とりあえずのコード進行決めてもいいですか?音程とテンポに合わせて七曲分考えてみますよ。カズさんとの付き合いで分かってきたけど、ジャマイカでは、トラックありきで、それを基にアーティストや作家が曲を書くんですよね」

 「はい。今回の制作順序ですが、まず将生さん、コード進行、曲の構成は比較的簡単だけど少し一般的レゲエより進化したような、何と言うか、Aメロとコーラス、日本語でいうところのサビ、とブリッジ、大サビですか?の繰り返しがジャマイカの一般的な曲構成ですが、例えばこれにBメロを追加するような、そんなこと考えてみてください」
  
 「あんまり複雑になりすぎると、今度はジャマイカでは受けにくくなります。ダンスホールでも、良いメロディーに越したことはありませんが、ノリも大変重要です。ちなみにジャマイカではトラックのことを単にリズムと言います」

 「カズさん、スライのライブドラムも入れようよ。ワンドロップとダンスホールそれぞれ一曲ずつ」中田社長からのリクエストであったし、誰もが望んでいた。

 「もちろんです。打ち込みとライブドラム半々でもいいくらいです。二つシンプルなダンスホールは打ち込み、一つは少しコード感のあるダンスホール、こちらの方をライブドラムで。ワンドロップは二曲ともライブドラムで、どうでしょうか」

 「僕にとっては、それ最高のコンビネーションです。タヨも問題ないよね?」
 
 「大変結構です。ライブレコーディング立ち会えますよね。プロジェクトが終わるまでにどこでもいいからスライ&ロビーでライブやりたいです」タヨの心はもうジャマイカに飛んで行ってしまっている。

 「中田社長、将生さん、一曲は日本の大きな大学の階段状の講堂みたいなところで、ゼロからの制作現場にお客さんを入れて、公開レコーディングをやってみませんか」

 「もちろん、ページとタヨにもロビーのダイレクションでレコーディングのままに歌ってもらって。その場で編集、ラフミックスまでやって、その場でお客さんに配信。大体五、六時間くらいでしょうか」

 「できれば最高だね。でも、お金かかるよ。ま、お金の心配はないとして、例えばテレビ局にドキュメンタリーとして撮ってもらうとか。そうだね、明日の将生さんの所から一応カメラ回しておこう。大丈夫?」返事を確認する前に中田社長は事務所に電話を入れ手配を始めた。
 「僕は大丈夫ですが、ページとタヨの方はどうですか?」

 「二人とも最初から顔出しで大丈夫です、な、タヨ」ページとタヨはプロジェクトが仮にうまく行かなくても、経済的に追い込まれる心配がない分余裕が見えた」

 スピリチュアル・フォーティテュード、日本語に訳せはハングリー精神ということになるだろうか。ページとタヨは経済的にはこれが無い。でもレゲエに関しては大きな精神の渇きを持っている。

 「では、明日正午僕のスタジオで今回のプロジェクトがスタートってことでいいですね。7曲のコード進行と曲構成、一曲ずつ進めるとして、みなさん出来るだけ時間を空けて参加してください。僕は24時間大丈夫です」

 「後で、デモ用に過去のスライのドラムパターン、メールしておきます」
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