8 / 15
第一章(後)【これがスキルなのか?】
8.俺は誰で、お前は誰だ
しおりを挟む
「あなたは、何者でしょうか」
声の主はそう言った。何者かと言われれば、キノ・ガオルという他ないだろう。俺がそう名乗ると、男は声高らかに笑い始めた。
「なんて滑稽な姿なのでしょうか。その存在を見破られて尚足掻こうというのですか?」
存在を見破られる?何を言っているのか全く分からない。
声の主は、やはりあの人だ。落ち着いた雰囲気の中にどこか不安定な不安が混じる声。それが今は歯車が欠けた時計台のように、不気味な音を出している。
「お前は誰だ?バスの運転手か?」
今度は沈黙。足音一つしない。誰もいないように思えた時、小さな吐息が聞こえた。そして、小さな声は話し始めた。
「先ほどの方。ウルミと言いましたでしょうか」
恐らくは先ほどと同じ人物が話している。しかし恐ろしく冷徹なものに思えた。
「彼は、なぜあなたをここへ?」
その問いに、「質問の意図が分からない」と答えた。俺の体はまだ動かないまま。固定されたように動かない関節の叫びは、悲鳴に変わりつつある。
「彼はなぜここにいないのですか?」
少しの沈黙の後、その声が聞こえた。先ほどより怒りが混じる声。
ドラゴンを討伐しに行ったからと答えると、大きなため息が聞こえた。
「なぜ、そんな意味のないことを聞く?そもそも、お前は俺の敵なのか?」
いまいち状況が整理できないが、これだけははっきりさせないと思って叫んだ。相手はドラン族。大人しいやつだと思っていたが、ついに本性を出したようである。この状態のドラン族は何をしてくるか分からない。せめて、ここに来た目的だけでも分かれば良いのだが……
「私はあなたの敵かどうか。それはあなたが一番分かっているでしょうに。」
語気が荒くなっていく。相手は精神を限りなく制御できていない様子。しかし、意味はやっぱり分からない。
「前にも聞きましたが……あなたは何か、能力を隠しているように思えます。どうでしょう」
やはり、この人はドラン族の運転手だった。そして、また同じ質問をされた。俺はあの時同様に、スキルがないことと、ここにいる理由を話した。
その間、彼は一切話を遮ることなく聞いていた。
話を終えると、彼は「なるほど」と言って指を鳴らす。その瞬間、俺の体は解放されて地面に転がった。
変な体勢で固まっていたために、何箇所も筋肉が捻じれているようである。
痛みに耐えて生黒い感情をなんとか飲み込んで膝を立てる。声のした方を見ると、そこにはあの運転手が立っていた。
俺が問いかけようとすると、視界が紫色に染まった。喉は渇きを通り越し枯れていく感覚。体の芯から吸い取られるような感覚に、耐えられるはずがなかった。
無意識に口が開いて体が捻じれて止まらない。下を見ると指先は落ち葉のように細く砕け散り、腕までもが枯れ始める。
腐った肉の匂いに苦しめられうずくまったところに、ドラン族の男が近づいて来た。
来るな。その声が出せているのか分からない。何も聞こえない。男は剣を振りかざすと、俺の腹目掛けて勢いよく突き落とした。
終わった。そのはずだった。
しかし、意識はまだ残っているようである。視界の色が白に変化して、やがて色が見えるようになった。段々と音も戻り、風を感じられるようになる。
どこかから聞こえる、何かがぶつかる高い音。轟音にも似た咆哮と共に、地面が割れて砕けた。
俺が動こうとすると、誰かに押さえつけられた。驚いて上を見ると女性の姿。
「まだ動かないでください。毒が広がってしまいます」
よく見ると指先からいくつもの枝が伸びて、俺の体を包んでいる。
誰だ……この人。
戦闘の音が少し遠ざかり、昼を照らす赤い光が振り下ろされた。砂埃が激しく舞った中からいくつかの影がこちらに飛んで来る。
光の速さで俺の目の前に着地したのは男だった。目を細めると、その男がウルミだと知る。
涙が出て、止まらなくなる。これはどんな感情だ。安堵か不甲斐なさか、それとも恐怖なのか。
「F級でも、命あることには変わらないからね」
ウルミのそのが懐かしく感じた。
「よく生きてたね」
ウルミの後ろに控える魔女と思われる人が言った。いかにも魔女だと言いたげな被り物に長い赤毛が似合っている。棍棒のような杖の先には大きな赤い石が埋め込まれていた。
「ひどいです!なんでそんなことを!」
そう言ったのは俺を治療してくれているらしい女性。たぶん治癒師だ。人間ではなさそうで、エルフとかに近いと思う。
ガハハと大きく笑っているのは上裸で筋肉がでかい男。巨人族だろうか。筋肉だけでなく、身長も一際大きい。胸から腹にかけてに三日月の刺青が入っているのが見える。背丈を超える大きなハンマーを地面に立てているが、彼はそれを悠々と振り回して戦っているらしい。
「ウルミ……さん」
言葉にできない感情を伝えようとすると、彼は小さく笑って首を振った。
「サリが言うから助けただけだからね?」
彼はそう言って魔女を指差した。当の本人は慌てて否定している。
「君があんな能力持っているなんてね。ま、F級には変わらないけど」
ウルミはそう言うと、踵を返して飛んでいった。
「あいつのF嫌いなんとかならねぇかな」
筋肉はそういうと、「じゃまた会おう、Fくん」と言ってウルミと共に飛んでいった。
砂埃の向こう。何か大きな影が見える。二つの光る点と目が合って戦慄する。
この世の全ての悪を集めたような色の鱗と山岩を飲み込むほど大きな体。
ウルミはあいつと戦っていたのか。初めて顎が震える感覚。
あれが……ドラゴンなのか……
声の主はそう言った。何者かと言われれば、キノ・ガオルという他ないだろう。俺がそう名乗ると、男は声高らかに笑い始めた。
「なんて滑稽な姿なのでしょうか。その存在を見破られて尚足掻こうというのですか?」
存在を見破られる?何を言っているのか全く分からない。
声の主は、やはりあの人だ。落ち着いた雰囲気の中にどこか不安定な不安が混じる声。それが今は歯車が欠けた時計台のように、不気味な音を出している。
「お前は誰だ?バスの運転手か?」
今度は沈黙。足音一つしない。誰もいないように思えた時、小さな吐息が聞こえた。そして、小さな声は話し始めた。
「先ほどの方。ウルミと言いましたでしょうか」
恐らくは先ほどと同じ人物が話している。しかし恐ろしく冷徹なものに思えた。
「彼は、なぜあなたをここへ?」
その問いに、「質問の意図が分からない」と答えた。俺の体はまだ動かないまま。固定されたように動かない関節の叫びは、悲鳴に変わりつつある。
「彼はなぜここにいないのですか?」
少しの沈黙の後、その声が聞こえた。先ほどより怒りが混じる声。
ドラゴンを討伐しに行ったからと答えると、大きなため息が聞こえた。
「なぜ、そんな意味のないことを聞く?そもそも、お前は俺の敵なのか?」
いまいち状況が整理できないが、これだけははっきりさせないと思って叫んだ。相手はドラン族。大人しいやつだと思っていたが、ついに本性を出したようである。この状態のドラン族は何をしてくるか分からない。せめて、ここに来た目的だけでも分かれば良いのだが……
「私はあなたの敵かどうか。それはあなたが一番分かっているでしょうに。」
語気が荒くなっていく。相手は精神を限りなく制御できていない様子。しかし、意味はやっぱり分からない。
「前にも聞きましたが……あなたは何か、能力を隠しているように思えます。どうでしょう」
やはり、この人はドラン族の運転手だった。そして、また同じ質問をされた。俺はあの時同様に、スキルがないことと、ここにいる理由を話した。
その間、彼は一切話を遮ることなく聞いていた。
話を終えると、彼は「なるほど」と言って指を鳴らす。その瞬間、俺の体は解放されて地面に転がった。
変な体勢で固まっていたために、何箇所も筋肉が捻じれているようである。
痛みに耐えて生黒い感情をなんとか飲み込んで膝を立てる。声のした方を見ると、そこにはあの運転手が立っていた。
俺が問いかけようとすると、視界が紫色に染まった。喉は渇きを通り越し枯れていく感覚。体の芯から吸い取られるような感覚に、耐えられるはずがなかった。
無意識に口が開いて体が捻じれて止まらない。下を見ると指先は落ち葉のように細く砕け散り、腕までもが枯れ始める。
腐った肉の匂いに苦しめられうずくまったところに、ドラン族の男が近づいて来た。
来るな。その声が出せているのか分からない。何も聞こえない。男は剣を振りかざすと、俺の腹目掛けて勢いよく突き落とした。
終わった。そのはずだった。
しかし、意識はまだ残っているようである。視界の色が白に変化して、やがて色が見えるようになった。段々と音も戻り、風を感じられるようになる。
どこかから聞こえる、何かがぶつかる高い音。轟音にも似た咆哮と共に、地面が割れて砕けた。
俺が動こうとすると、誰かに押さえつけられた。驚いて上を見ると女性の姿。
「まだ動かないでください。毒が広がってしまいます」
よく見ると指先からいくつもの枝が伸びて、俺の体を包んでいる。
誰だ……この人。
戦闘の音が少し遠ざかり、昼を照らす赤い光が振り下ろされた。砂埃が激しく舞った中からいくつかの影がこちらに飛んで来る。
光の速さで俺の目の前に着地したのは男だった。目を細めると、その男がウルミだと知る。
涙が出て、止まらなくなる。これはどんな感情だ。安堵か不甲斐なさか、それとも恐怖なのか。
「F級でも、命あることには変わらないからね」
ウルミのそのが懐かしく感じた。
「よく生きてたね」
ウルミの後ろに控える魔女と思われる人が言った。いかにも魔女だと言いたげな被り物に長い赤毛が似合っている。棍棒のような杖の先には大きな赤い石が埋め込まれていた。
「ひどいです!なんでそんなことを!」
そう言ったのは俺を治療してくれているらしい女性。たぶん治癒師だ。人間ではなさそうで、エルフとかに近いと思う。
ガハハと大きく笑っているのは上裸で筋肉がでかい男。巨人族だろうか。筋肉だけでなく、身長も一際大きい。胸から腹にかけてに三日月の刺青が入っているのが見える。背丈を超える大きなハンマーを地面に立てているが、彼はそれを悠々と振り回して戦っているらしい。
「ウルミ……さん」
言葉にできない感情を伝えようとすると、彼は小さく笑って首を振った。
「サリが言うから助けただけだからね?」
彼はそう言って魔女を指差した。当の本人は慌てて否定している。
「君があんな能力持っているなんてね。ま、F級には変わらないけど」
ウルミはそう言うと、踵を返して飛んでいった。
「あいつのF嫌いなんとかならねぇかな」
筋肉はそういうと、「じゃまた会おう、Fくん」と言ってウルミと共に飛んでいった。
砂埃の向こう。何か大きな影が見える。二つの光る点と目が合って戦慄する。
この世の全ての悪を集めたような色の鱗と山岩を飲み込むほど大きな体。
ウルミはあいつと戦っていたのか。初めて顎が震える感覚。
あれが……ドラゴンなのか……
9
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる