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第二章【及第点の空】
15.これが……俺のスキルなのか?
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体が粒状になる感覚の後、すぐに水に浸されたような感覚になった。
気がつくとそこは豪華絢爛な部屋で、一人の女性と向かい合っていた。
華奢なその女性は高貴なお方ように見える。一体誰だろう。
「お久しぶりですね」
女性がそう言った。全く身に覚えがない状況に心がざわつく。
「どちら様でしょうか」
そう聞くと、女性は再び微笑んで、ミクリと名乗った。
ミクリ。その名前は俺の記憶にない。お久しぶりの言葉は、一体何だったのだろう。
俺も自分の名前を伝えると、彼女はまるで知っているかのような態度をとった。やはり、何かがおかしい。しかも、スコットが学長であるはずで……ミクリは誰なんだ?大学関係者?いや、そもそもここは大学なのか?
見た感じ、俺はどこかに転移したよう。鐘が合図だった……
「ここはどこですか?ついさっきまで時計台にいたはずなのですが」
状況を把握したいので、率直にそう聞いた。
高い天井には何か、大きな魔物の骨格標本が浮かんでいて、その周りに白い光が漂う。少し下に目を映してみると、2話の蝶々が遊んでいる。色は黄色。だが、青や赤色に変わることもある。床は大理石で、俺とミクリの間に大きな絨毯が敷かれている。
彼女が座るのは複雑に絡み合う、木の根で作られた椅子。宝石がはめ込まれて、時々それが光に反射する。
彼女はまた静かに笑うと、まっすぐ俺の目を見て言った。
「ここは聖域です。エンリから話は聞いております。何でも、スキルを獲得した可能性があると」
もう本題に入るのだろうか。不意に彼女が、何か重大なことをいう気がして背筋を伸ばす。
気になったのは聖域という言葉と、エンリから聞いているという言葉だ。しかし、俺はひとまずミクリの質問に何も言わず頷いた。
「そうですか。実は、先ほどあなたを鑑定させていただきました。すでに結果が出ておりますが、お伝えしてよろしいですか??」
直後、俺の目は点になった。伸びた背筋の力が抜けて、息と一緒に変な声が出る。
何を言うのが正解だ?思考が回らない。はい、いいえの二択問題?いや、文章で解答するべきなのか?
混乱のまま、何かヒントはないかと彼女を見てみる。彼女の目ははもう笑っていなかった。その眼光は俺を貫くほどに真剣で、もう逃げることはできないのだと悟った。
鑑定した?先ほどの儀式のような時間とあの感覚は、鑑定していたからなのか?
冷や汗が止まらない俺は、脇の下がぐっしょりと濡れていた。粘り気のある感情が喉を渦巻いて気持ちが悪い。耳も遠くなりそうで、そ!をなんとか耐えている。
伝える?おれに?何を……鑑定結果?俺にスキルがあるか分かるのか?
俺の人生はどうなる?キューレたちを手伝う……でも……もし、俺がスキルを獲得していたら?もう一度冒険者として……
訳が分からない。なぜこのタイミングなんだ?……俺が望んで、来たから。
なぜ俺はここに来ようと思った?……何か、変えられると思って。
結果を知って何が変わる?……時間はもう、戻らない。何も変わらない。
スキル獲得は怖いか?……怖い……あれほど望んでいたのに。
「どうしましたか?沈黙は沈黙でしかありません。声を出さなければ、何も変わりませんよ?」
声を出さなければ……何も変わらない……
変わりたい。俺の人生が、スキルのない今までの人生を否定することになっても、俺は変わりたい。
じゃあ何をする?……声を出す。
俺はミクリに目を真っ直ぐに見た。
そして、今までの人生の代表者としてミクリに言った。
「鑑定結果を、教えてください」
「分かりました」
静かに頷くミクリ。手元の紙に目を落とす。それから俺の目を見ると、優しく笑いかけた。
「おめでとう。あなたはスキルを獲得しています」
目元が熱くなっていく。感情が溢れるよりも先に、涙が溢れた。
ミクリは一呼吸おいてから続けた。
「あなたが授かったスキル。それは、【エレベーター】です」
俺のスキルは……【エレベーター】?
なんだそれ。
気がつくとそこは豪華絢爛な部屋で、一人の女性と向かい合っていた。
華奢なその女性は高貴なお方ように見える。一体誰だろう。
「お久しぶりですね」
女性がそう言った。全く身に覚えがない状況に心がざわつく。
「どちら様でしょうか」
そう聞くと、女性は再び微笑んで、ミクリと名乗った。
ミクリ。その名前は俺の記憶にない。お久しぶりの言葉は、一体何だったのだろう。
俺も自分の名前を伝えると、彼女はまるで知っているかのような態度をとった。やはり、何かがおかしい。しかも、スコットが学長であるはずで……ミクリは誰なんだ?大学関係者?いや、そもそもここは大学なのか?
見た感じ、俺はどこかに転移したよう。鐘が合図だった……
「ここはどこですか?ついさっきまで時計台にいたはずなのですが」
状況を把握したいので、率直にそう聞いた。
高い天井には何か、大きな魔物の骨格標本が浮かんでいて、その周りに白い光が漂う。少し下に目を映してみると、2話の蝶々が遊んでいる。色は黄色。だが、青や赤色に変わることもある。床は大理石で、俺とミクリの間に大きな絨毯が敷かれている。
彼女が座るのは複雑に絡み合う、木の根で作られた椅子。宝石がはめ込まれて、時々それが光に反射する。
彼女はまた静かに笑うと、まっすぐ俺の目を見て言った。
「ここは聖域です。エンリから話は聞いております。何でも、スキルを獲得した可能性があると」
もう本題に入るのだろうか。不意に彼女が、何か重大なことをいう気がして背筋を伸ばす。
気になったのは聖域という言葉と、エンリから聞いているという言葉だ。しかし、俺はひとまずミクリの質問に何も言わず頷いた。
「そうですか。実は、先ほどあなたを鑑定させていただきました。すでに結果が出ておりますが、お伝えしてよろしいですか??」
直後、俺の目は点になった。伸びた背筋の力が抜けて、息と一緒に変な声が出る。
何を言うのが正解だ?思考が回らない。はい、いいえの二択問題?いや、文章で解答するべきなのか?
混乱のまま、何かヒントはないかと彼女を見てみる。彼女の目ははもう笑っていなかった。その眼光は俺を貫くほどに真剣で、もう逃げることはできないのだと悟った。
鑑定した?先ほどの儀式のような時間とあの感覚は、鑑定していたからなのか?
冷や汗が止まらない俺は、脇の下がぐっしょりと濡れていた。粘り気のある感情が喉を渦巻いて気持ちが悪い。耳も遠くなりそうで、そ!をなんとか耐えている。
伝える?おれに?何を……鑑定結果?俺にスキルがあるか分かるのか?
俺の人生はどうなる?キューレたちを手伝う……でも……もし、俺がスキルを獲得していたら?もう一度冒険者として……
訳が分からない。なぜこのタイミングなんだ?……俺が望んで、来たから。
なぜ俺はここに来ようと思った?……何か、変えられると思って。
結果を知って何が変わる?……時間はもう、戻らない。何も変わらない。
スキル獲得は怖いか?……怖い……あれほど望んでいたのに。
「どうしましたか?沈黙は沈黙でしかありません。声を出さなければ、何も変わりませんよ?」
声を出さなければ……何も変わらない……
変わりたい。俺の人生が、スキルのない今までの人生を否定することになっても、俺は変わりたい。
じゃあ何をする?……声を出す。
俺はミクリに目を真っ直ぐに見た。
そして、今までの人生の代表者としてミクリに言った。
「鑑定結果を、教えてください」
「分かりました」
静かに頷くミクリ。手元の紙に目を落とす。それから俺の目を見ると、優しく笑いかけた。
「おめでとう。あなたはスキルを獲得しています」
目元が熱くなっていく。感情が溢れるよりも先に、涙が溢れた。
ミクリは一呼吸おいてから続けた。
「あなたが授かったスキル。それは、【エレベーター】です」
俺のスキルは……【エレベーター】?
なんだそれ。
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