愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─

櫻井音衣

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あの人との出会い 2

洗濯と掃除、食料品などの買い物や食事の準備まで済ませないといけないのに、さっさとやらないと何時間かかるかわかったもんじゃない。
だけど口出しをするのも気が引けて、気にしないようにしながら勉強を続けていたけれど、いつまで経ってもリビングの掃除が終わらないので、俺はついに黙って見過ごすことができなくなってしまった。

「宮本さん、そんなに丁寧に掃除してると何時になるかわかりませんよ。毎日掃除してる場所はざっと掃除機かけて、2日に1回ほど置いてある物のホコリを取る程度で大丈夫です」

少し偉そうかなと思ったけれど、宮本さんは今日初めてこの家に来たのだから、教えてあげた方が親切というものだろう。
俺に指摘されると、宮本さんは少し恥ずかしそうに頬をかいた。

「あっ、ごめんなさい。こんなに広いおうちは初めてだからつい楽しくなっちゃって……。そうですよね、急いでやります」
「いや、急いでやってくれとまでは言ってませんけど……。でもついでに言うと、2階の一番手前と奥の部屋は掃除しなくていいです」
「わかりました」

気を悪くしたかと思ったのに、宮本さんはそんなそぶりも見せず素直に返事をして掃除を続けた。
急な代役だったようだし、宮本さんがこの家の仕事に慣れるまで、わからないことは俺が教えてあげることになりそうだ。

30分ほど経つと宮本さんは掃除を中断して洗濯物を干し、それが済むと俺に昼食は何時頃がいいかと尋ねた。
朝が遅かったので1時過ぎでいいと答えると、宮本さんは時計を見ながらブツブツ呟いて段取りを考え、また掃除の続きに取りかかる。
宮本さんが2階の部屋を掃除しに行ってリビングに一人になると、俺はようやく緊張から解放されて勉強に集中することができた。

12時半前になると2階の掃除が済んだらしく、宮本さんはまた1階に下りてきて、昼食の準備をし始めた。

「潤さん、苦手なものはありますか?」
「苦手なものは特に……」
「じゃあお昼はオムライスでいいですか?」
「お任せします」

本当は辛い物が苦手だけど、まさか家政婦が激辛料理なんて出したりはしないだろうし、男のくせにと思われそうでなんとなく恥ずかしくて言えなかった。
今になって思えば、男だって辛いものが苦手と言う人はいくらでもいるだろうに、思春期真っ只中だった俺は若い女性に子ども扱いされるのが恥ずかしかったんだと思う。

宮本さんは慣れた手付きで料理を始めた。
手際の良さを見ると料理は得意らしい。
出来上がったオムライスとサラダをダイニングのテーブルの上に置いて、「昼食の準備ができましたよ」と俺を呼ぶ。
俺が席に着くと、宮本さんはグラスに注いだ冷たい麦茶を差し出した。

「これからお夕飯の支度をしますけど……何かリクエストはありますか?」

まだ昼食も済んでいないのに、夕食のことまでは考えられない。
なんでもいいと答えると、宮本さんは目を閉じて大きく首をかしげた。

「うーん……せめて和食とか洋食とか、ざっくりしたことだけでも」

俺は食べる側だから出されればなんでも食べるけど、作る側にとって『なんでもいい』は一番難しいのだろう。
昨日の晩は鶏の唐揚げで、その前はハッシュドビーフだった。
肉料理が続いたので今日は魚にしてもらおうかと考える。

「……じゃあ和食で。魚料理が食べたいです」

俺が答えると、宮本さんは大きくうなずいて満面の笑みを浮かべた。

「わかりました!私、こう見えて和食は得意なんですよ!」

『こう見えて』とは、若い女性は洋食が得意と思われがちだけど、ということだろうか。
家政婦なら和食でも洋食でも、家庭料理は一通りできて当たり前なのでは?
そう思いながらも深くは追及せず、「楽しみにしてます」とだけ答えた。
俺が食事をしている間、宮本さんは使った調理器具を洗ったり米を研いだりしながら、キッチンから俺に話しかけた。
それは家政婦が聞きそうな好きな食べ物とかではなく、学校や部活のことだった。

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