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彼女の素顔 1
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翌日は模試を受けるために自宅の最寄り駅から3駅先にある公立高校に足を運んだ。
会場内はそれぞれの学校の制服に身を包んだ他校の生徒たちで溢れかえっている。
俺と同じ学校の生徒は内部進学する者が多いせいか、その姿はほとんど見かけない。
受付を済ませて指定された席に着き、筆記用具を出そうと鞄の中をあさっていると、底の方に入れた覚えのない小さな箱が入っていることに気付いた。
いやな予感がして、おそるおそる鞄の中を覗いてみると、それは案の定、俺が太一に突き返したはずの避妊具だった。
わけのわからない状況にうろたえ、手のひらにじわりと汗がにじむ。
俺は急いで必要なものだけを取り出して鞄のファスナーをしめた。
なんでこんなものがここに入っているんだろう?
俺は確かに要らないと言って太一に返したはずなのに。
そう思いながら太一が来た日のことを思い返して、これがここにある理由に気付く。
俺はあのとき、こんなものは必要ないと言って太一に返したあと、英梨さんが来て玄関に出た。
きっとその間に太一が俺には内緒でそっと鞄の中に忍び込ませていたのだろう。
どうしてあいつは余計なことばかりするんだ!
おかげで模試にこんなものを持ってくる羽目になってしまったじゃないか!
とにかく今は余計なことに気を取られて注意を欠くわけにはいかない。
このことは一旦忘れて、帰ったら早急に処分することにしよう。
なんとか平常心を取り戻し無事に模試を終えた俺は、電車に乗って帰路に就いた。
太一のお節介のせいで、いつもの模試より倍ほどは疲れた気がする。
電車を降りて駅を出たとき、駅前のスーパーから重そうな荷物を提げて出てくる英梨さんを見かけて声をかけた。
「英梨さん」
「あっ、潤くん。おかえりなさい」
『おかえりなさい』と誰かに言ってもらうのなんて久しぶりだから、なんとなくくすぐったく感じた。
「模試終わったの?」
「うん」
買い物袋の中をチラッと覗くと、米や野菜、牛乳などの重いものばかりが詰まっていた。
「その荷物重そうだね。俺持つよ」
「大丈夫。それにこれは私の仕事だから」
「いいから貸して。俺が食うんだから運ぶくらいするよ」
強引に買い物袋を取り上げると、英梨さんは少し驚いた顔をしたあと、クスッと小さく笑った。
「ありがとう。じゃあお願いしようかな」
並んで歩き出そうとしたとき、英梨さんはスーパーのすぐそばにあるアイスクリームショップを指さした。
「ねぇ潤くん、アイスでも食べて帰らない?」
「アイスかぁ。いいね、行こう」
「よし、今日はお姉さんがおごってあげる。暑い中出かけて模試を頑張った潤くんにご褒美ね」
受験生の俺を労ってくれる気持ちは嬉しいけど、英梨さんのその言葉はものすごく子ども扱いをされているようで、複雑な気持ちになった。
「……俺のこと子ども扱いしてる?」
「してないけど、潤くんより私の方が6つも歳上だから、お姉さんでしょ?おばさんにはまだ早いかなと思うし」
「それはそうなんだけど……」
たとえ歳の差が2つや3つであったとしても、大人の英梨さんにとっては、高校生の俺なんか子どもなんだろう。
昨日吉野を拒んだときには、なんの責任も取れない子どもだと自分で認めていたくせに、歳上の英梨さんに子ども扱いされるのがいやだなんて、矛盾していると思う。
そもそも、『子ども』と『大人』の境界線がどこにあるのかがわからない。
年齢なのか、社会的な地位なのか、それとももっと精神的なものなのか。
大人の男になるには何が必要で、あと何年くらいしたら誰もが俺を大人だと認めてくれるんだろう?
会場内はそれぞれの学校の制服に身を包んだ他校の生徒たちで溢れかえっている。
俺と同じ学校の生徒は内部進学する者が多いせいか、その姿はほとんど見かけない。
受付を済ませて指定された席に着き、筆記用具を出そうと鞄の中をあさっていると、底の方に入れた覚えのない小さな箱が入っていることに気付いた。
いやな予感がして、おそるおそる鞄の中を覗いてみると、それは案の定、俺が太一に突き返したはずの避妊具だった。
わけのわからない状況にうろたえ、手のひらにじわりと汗がにじむ。
俺は急いで必要なものだけを取り出して鞄のファスナーをしめた。
なんでこんなものがここに入っているんだろう?
俺は確かに要らないと言って太一に返したはずなのに。
そう思いながら太一が来た日のことを思い返して、これがここにある理由に気付く。
俺はあのとき、こんなものは必要ないと言って太一に返したあと、英梨さんが来て玄関に出た。
きっとその間に太一が俺には内緒でそっと鞄の中に忍び込ませていたのだろう。
どうしてあいつは余計なことばかりするんだ!
おかげで模試にこんなものを持ってくる羽目になってしまったじゃないか!
とにかく今は余計なことに気を取られて注意を欠くわけにはいかない。
このことは一旦忘れて、帰ったら早急に処分することにしよう。
なんとか平常心を取り戻し無事に模試を終えた俺は、電車に乗って帰路に就いた。
太一のお節介のせいで、いつもの模試より倍ほどは疲れた気がする。
電車を降りて駅を出たとき、駅前のスーパーから重そうな荷物を提げて出てくる英梨さんを見かけて声をかけた。
「英梨さん」
「あっ、潤くん。おかえりなさい」
『おかえりなさい』と誰かに言ってもらうのなんて久しぶりだから、なんとなくくすぐったく感じた。
「模試終わったの?」
「うん」
買い物袋の中をチラッと覗くと、米や野菜、牛乳などの重いものばかりが詰まっていた。
「その荷物重そうだね。俺持つよ」
「大丈夫。それにこれは私の仕事だから」
「いいから貸して。俺が食うんだから運ぶくらいするよ」
強引に買い物袋を取り上げると、英梨さんは少し驚いた顔をしたあと、クスッと小さく笑った。
「ありがとう。じゃあお願いしようかな」
並んで歩き出そうとしたとき、英梨さんはスーパーのすぐそばにあるアイスクリームショップを指さした。
「ねぇ潤くん、アイスでも食べて帰らない?」
「アイスかぁ。いいね、行こう」
「よし、今日はお姉さんがおごってあげる。暑い中出かけて模試を頑張った潤くんにご褒美ね」
受験生の俺を労ってくれる気持ちは嬉しいけど、英梨さんのその言葉はものすごく子ども扱いをされているようで、複雑な気持ちになった。
「……俺のこと子ども扱いしてる?」
「してないけど、潤くんより私の方が6つも歳上だから、お姉さんでしょ?おばさんにはまだ早いかなと思うし」
「それはそうなんだけど……」
たとえ歳の差が2つや3つであったとしても、大人の英梨さんにとっては、高校生の俺なんか子どもなんだろう。
昨日吉野を拒んだときには、なんの責任も取れない子どもだと自分で認めていたくせに、歳上の英梨さんに子ども扱いされるのがいやだなんて、矛盾していると思う。
そもそも、『子ども』と『大人』の境界線がどこにあるのかがわからない。
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