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同じ痛みを持つ人
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「男って甘えたい生き物だからねぇ。子供ができると、奥さんの愛情独り占めってわけにはいかなくなるから。足りなくなった分の愛情を他の女で補うのかなぁ」
「あれでしょ?昔はかわいかったとか痩せてたとか、結婚前の若かった頃のままの姿をやたら求めるよね。それで若い女に興味がいくのよ。自分も同じように歳取ってる自覚がないんじゃない?」
「そりゃあね……子供産んだら骨盤緩んでどんどん太りやすくなって……。芸能人でもセレブマダムでもないし、自分のことなんか二の次になるわ」
「痛い思いして旦那の子を産んで、睡眠時間削って育ててさ……。子供の発達なんかで悩んだりするのはいつも私ばっかりなのに、旦那は平気で私に、太っただの老けただの……なんであんなことが言えるんだろ?」
どうやら、夫の子供を産んで育てている妻への理解やいたわりがないことが、彼女たちの一番の不満のようだ。
そんな会話を聞きながら、紫恵は逸樹の言葉を思い出していた。
『もし子供がいても、俺はちゃんとしーちゃんを大事にするよ?』
子供がいた経験がないから、実際にそうなった時にどうなるのかはわからない。
もしかしたら、やっぱり子供が欲しいから離婚して欲しいと逸樹が言い出したら……と不安に思ったことも一度や二度じゃない。
それでも逸樹に限って浮気なんて有り得ない、ずっとお互いを大事にして一緒に生きていこうと約束したんだからと、紫恵は自分に言い聞かせた。
「その点、紫恵先生は優しい旦那様と仲良しでいいわねぇ。浮気なんて絶対にしなさそう」
「いや……うちも普通の夫婦だと思いますよ。……子供がいないだけで」
夫婦二人きりでいたいから子供を作らないわけじゃない。
どんなに欲しくても、妊娠しても産めなかっただけだ。
だけどそれをここで話して何になるだろう?
紫恵はちょっと困った顔をして、作り笑いを浮かべた。
「ちょっとおしゃべりに夢中になりすぎなんじゃなーい?気を付けないとニードルで指刺しちゃうわよー」
柊子がやんわりとたしなめると、生徒たちはおしゃべりをやめて真面目に作業をし始めた。
生徒たちが黙々と作業を進める中、紫恵と柊子は顔を見合わせて、そっと苦笑いをした。
子供のいる人に子供のいない自分たちの気持ちがわからないように、子供のいない自分たちには、子供のいる人たちの気持ちはわからない。
子供のいない自分たちには、子供のいる喜びもなければ、子供の父親としての夫に対する不満もない。
子供がいない分、夫はこの先も子供を産めない自分と一緒にいてくれるだろうかという不安は常に付きまとう。
男女平等を謳うこんな時代になっても『子供を産まなければ一人前の女じゃない』などと言う、女性を蔑視した男性もいる。
女性として全否定されたようなこの胸の痛みは、経験した女性にしかわからない。
女性を蔑視した男性も、女性である母親から生まれた。
母親に産んでもらったことを当たり前だと思っているから、そんなひどいことが言えるのかも知れない。
女性は子供を産む機械じゃない。
男性がいないと子供ができないのも事実。
けれど子供が産めるのは女性だけ。
男性と女性のどちらが偉いかなんて『卵と鶏、どっちが先か?』みたいな、堂々巡りになるしかない話だ。
男性と女性のどちらが欠けても子供はできないし、生まれない。
だけど男女両方がそろっていても、子供ができないこともある。
どちらが悪いと責めるのは簡単なことだけど、子供のできにくい体質の紫恵を、逸樹は一度も責めなかった。
だから紫恵は余計に、逸樹に我が子を抱かせてあげたいと今でも思う。
けれど不妊治療をして妊娠しても、またダメだったらと思うと、不妊治療の再開には踏み切れない。
自然な形で子供が授かれば、それが一番だと逸樹は言う。
柊子は、やるだけのことはやったし、それでダメだったのだから子供はもうあきらめたと言っていた。
夫の子供を産んで育てて、子供への文句や夫への愚痴をこぼす毎日と、子供をあきらめ夫婦二人きりで過ごす毎日。
どちらの方が幸せだろう?
「あれでしょ?昔はかわいかったとか痩せてたとか、結婚前の若かった頃のままの姿をやたら求めるよね。それで若い女に興味がいくのよ。自分も同じように歳取ってる自覚がないんじゃない?」
「そりゃあね……子供産んだら骨盤緩んでどんどん太りやすくなって……。芸能人でもセレブマダムでもないし、自分のことなんか二の次になるわ」
「痛い思いして旦那の子を産んで、睡眠時間削って育ててさ……。子供の発達なんかで悩んだりするのはいつも私ばっかりなのに、旦那は平気で私に、太っただの老けただの……なんであんなことが言えるんだろ?」
どうやら、夫の子供を産んで育てている妻への理解やいたわりがないことが、彼女たちの一番の不満のようだ。
そんな会話を聞きながら、紫恵は逸樹の言葉を思い出していた。
『もし子供がいても、俺はちゃんとしーちゃんを大事にするよ?』
子供がいた経験がないから、実際にそうなった時にどうなるのかはわからない。
もしかしたら、やっぱり子供が欲しいから離婚して欲しいと逸樹が言い出したら……と不安に思ったことも一度や二度じゃない。
それでも逸樹に限って浮気なんて有り得ない、ずっとお互いを大事にして一緒に生きていこうと約束したんだからと、紫恵は自分に言い聞かせた。
「その点、紫恵先生は優しい旦那様と仲良しでいいわねぇ。浮気なんて絶対にしなさそう」
「いや……うちも普通の夫婦だと思いますよ。……子供がいないだけで」
夫婦二人きりでいたいから子供を作らないわけじゃない。
どんなに欲しくても、妊娠しても産めなかっただけだ。
だけどそれをここで話して何になるだろう?
紫恵はちょっと困った顔をして、作り笑いを浮かべた。
「ちょっとおしゃべりに夢中になりすぎなんじゃなーい?気を付けないとニードルで指刺しちゃうわよー」
柊子がやんわりとたしなめると、生徒たちはおしゃべりをやめて真面目に作業をし始めた。
生徒たちが黙々と作業を進める中、紫恵と柊子は顔を見合わせて、そっと苦笑いをした。
子供のいる人に子供のいない自分たちの気持ちがわからないように、子供のいない自分たちには、子供のいる人たちの気持ちはわからない。
子供のいない自分たちには、子供のいる喜びもなければ、子供の父親としての夫に対する不満もない。
子供がいない分、夫はこの先も子供を産めない自分と一緒にいてくれるだろうかという不安は常に付きまとう。
男女平等を謳うこんな時代になっても『子供を産まなければ一人前の女じゃない』などと言う、女性を蔑視した男性もいる。
女性として全否定されたようなこの胸の痛みは、経験した女性にしかわからない。
女性を蔑視した男性も、女性である母親から生まれた。
母親に産んでもらったことを当たり前だと思っているから、そんなひどいことが言えるのかも知れない。
女性は子供を産む機械じゃない。
男性がいないと子供ができないのも事実。
けれど子供が産めるのは女性だけ。
男性と女性のどちらが偉いかなんて『卵と鶏、どっちが先か?』みたいな、堂々巡りになるしかない話だ。
男性と女性のどちらが欠けても子供はできないし、生まれない。
だけど男女両方がそろっていても、子供ができないこともある。
どちらが悪いと責めるのは簡単なことだけど、子供のできにくい体質の紫恵を、逸樹は一度も責めなかった。
だから紫恵は余計に、逸樹に我が子を抱かせてあげたいと今でも思う。
けれど不妊治療をして妊娠しても、またダメだったらと思うと、不妊治療の再開には踏み切れない。
自然な形で子供が授かれば、それが一番だと逸樹は言う。
柊子は、やるだけのことはやったし、それでダメだったのだから子供はもうあきらめたと言っていた。
夫の子供を産んで育てて、子供への文句や夫への愚痴をこぼす毎日と、子供をあきらめ夫婦二人きりで過ごす毎日。
どちらの方が幸せだろう?
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