花盗人も罪になる

櫻井音衣

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もしも夫が浮気をしたら

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「いっくん?!先に御飯食べないと……お腹空いてるでしょ?」

逸樹は慌てる紫恵を愛しそうに見つめて頬に軽く口付けた。

「うん。でも今は御飯より、しーちゃん食べたい」

まるで若いカップルのようだと、紫恵は照れて顔を真っ赤にした。

「やだ、いっくん……。そんなこと言われると、なんか……恥ずかしいよ……」

紫恵の赤くなった頬を、逸樹は唇で優しくついばんだ。

「照れちゃって、しーちゃんホントかわいい。やっぱり今すぐここで食べちゃおう」

クスクス笑いながら抱きしめ合って、何度も優しくキスをした。
知り尽くしたお互いの唇の柔らかさや、触れ合う肌の温もりに安心する。

「しーちゃん、愛してるよ」

結婚して6年以上経った今も、逸樹の言葉も紫恵に触れる手も、恋人の頃と変わらず甘くて優しい。
身も心も温かさでいっぱいに満たして、こんなにも愛して大事にしてくれるのは逸樹しかいないと紫恵は思う。
紫恵もまた、そんな逸樹を誰よりも愛しているし、一生大事にしたいと思う。

「いっくん……私も……愛してる……」

逸樹を一番知っているのが自分であることは間違いないし、逸樹にこんなに求められているのだから、浮気なんて有り得ない。
あんなのただの思い過ごしだ。
次第に熱を帯びて激しくなっていく愛撫に身悶えながら、紫恵は夢中で腕を伸ばして逸樹を抱きしめた。
逸樹が自分以外の誰かの元へ行ってしまわないように。


夕飯を終えて二人仲良くお風呂に入った後、いつもより早い時間にベッドに横になり、寄り添いながら話をした。

「あ、そうだ。今朝頼んだスーツ、クリーニング出しといてくれた?」
「ああ、うん。明後日の夕方には出来上がるって」
「良かった。来週出張なんだ」

出張と聞いて、紫恵はまた真理子さんの話を思い出してドキッとしてしまう。

「出張って、どこに行くの?」
「ん?大阪支社だよ。しーちゃんも大阪に行きたいの?」

逸樹は笑って紫恵の頬をつつく。

「行ったことないし行ってみたいけど、さすがに出張についてくわけにはいかないもんね。我慢する」
「じゃあお土産買ってきてあげる。出張だから今回は連れて行ってあげられないけど、いつか一緒に行こうよ」
「うん。浮気なんかしないでまっすぐ帰ってきてね」

紫恵が少し冗談めかしてそう言うと、逸樹は紫恵の額にキスをした。

「当たり前。他の子には興味ないし、俺が帰る場所はしーちゃんだから」

こんなに愛してくれているのだから、逸樹は出張だと嘘をついて浮気したりしない。
きっと大阪名物の美味しい物をお土産に、仕事が終わればまっすぐ帰ってきてくれるはずだ。

「出張って何日間?」
「月曜の朝に出発して、帰ってくるのは金曜の夜だって。4泊5日って、修学旅行じゃあるまいし……」

逸樹は紫恵を抱きしめて頬擦りをした。

「俺、そんなにしーちゃんに会えないと寂しくて死んじゃうかも」

自分にだけは素直に甘えてくれる逸樹をかわいいと紫恵は思う。

「私も寂しいな……。ねぇいっくん、出張中、毎晩電話してくれる?」
「じゃあ夜は俺が電話するから、朝はしーちゃんが電話して」
「うん、いいよ。ちゃんと起こしてあげる」
「やっぱりしーちゃんのおはようとおやすみは毎日聞きたいもんな」

逸樹のその言葉は、紫恵の心を温かくしてくれた。
離れていても二人は夫婦だと言ってもらったような気がする。
きっと不安になることなんてない。
紫恵が胸にギュッとしがみつくと、逸樹は紫恵を抱き寄せて甘いキスをした。
長いキスの後、逸樹は額同士をくっつけて甘えた目で紫恵の目を覗き込んだ。

「しーちゃん、愛してる。来週は離ればなれになるし……今日はもっともっと、イチャイチャしよ」
「うん……私もいっくんと、もっとイチャイチャしたいな……」

ベッドの中で二人きりの夜は更けていく。
紫恵は逸樹に身体中くまなく愛されて、熱い吐息と甘い声をもらした。
二人は夜更けまでお互いを深く求め合って、愛する人に愛されている喜びをかみしめた。


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