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同窓会の夜に
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「紫恵、結婚したんだろ?何年になる?」
「結婚して6年ちょっとだから、今7年目。松山くんもナナちゃんと早くに結婚して、子供が3人もいるんでしょ?」
「うちは9年目。子供は8歳と5歳と2歳」
30歳にして9年目ということは、大学在学中に結婚したのだろう。
店員が運んできたお酒を松山が受け取り、ひとつを紫恵に手渡した。
なかば強引に乾杯させられ、紫恵は仕方なくチビチビとそのお酒を飲む。
「そういえば姿が見えないけど、ナナちゃん今日は来てないの?」
「実家に子供預けるって言ってたんだけど、今朝急に一番下の子が熱出して預けられなかったんだ。それで子供と一緒に留守番」
「子供が病気なのに、松山くんはここに来てて大丈夫なの?」
「子供が熱出すなんてしょっちゅうだからな、慣れたもんだよ。俺がいたってなんの役にも立たないし、行ってこいって」
そういえば希望も赤ちゃんの頃はよく熱を出していた。
子供が3人もいると毎日さぞかし大変だろう。
「すごいなぁ……ナナちゃん、すっかりお母さんなんだねぇ……」
「あいつ、子供が増えるたびにどんどん強くなってさ、今じゃ可愛いげの欠片もないよ」
紫恵は松山のその言葉を聞いて顔をしかめた。
もし自分のいないところで夫にこんなことを言われていると知ったら、妻であるナナはさぞかし腹が立つだろうし、悲しむに違いない。
もちろん紫恵自身も同じ気持ちになるだろう。
「松山くん、それはひどいよ。ナナちゃんは松山くんの子供を3人も産んでくれて、頑張って子育てしてるんだよ?もっと大事にしないと」
「別に俺が結婚したいって言ったわけでも、子供欲しいって言ったわけでもないしなー」
まるで他人事のような言い草だ。
それでは松山はナナとの結婚をまるきり望んでいなかったとでも言うのだろうか?
「それ無責任じゃない?」
「なんで?責任取って結婚して、ちゃんと養ってんじゃん」
松山の言う責任は、紫恵の思う責任の意味とはなんとなく違う気がする。
「それは当たり前のことだと思うけど。松山くんはナナちゃんが好きだから結婚したんじゃないの?」
「別にそういうんじゃないよ」
「え?」
「大学入って付き合いだしたのだって、ナナに強引に押しきられたっていうか?でも顔はまあまあ好みだったし、体の相性は良かったから付き合ってた。そしたら子供ができたから結婚した」
愛情をまったく感じられない松山の態度と言葉に、紫恵は絶句した。
呆れて物も言えないとはこのことだ。
紫恵は返す言葉に困り、しばらく黙ってお酒を飲んだ。
圭はお手洗いに行った帰りに他のグループに引き留められたようで、席に戻って来ない。
春菜と綾乃も別のグループと話し込んでいる。
このまま松山と二人でいるのはなんとなく居心地が悪い。
少しすると、そろそろ一旦お開きにして二次会へ向かおうと幹事が声を掛けた。
紫恵はホッとして席を立ち、松山と離れようと慌てて店の外に出たが、思いのほか自分が酔っていることに気付いた。
おぼつかない足取りで他のクラスメイトから少し離れた場所で立ち止まった。
少し飲みすぎたかなと思っていたのに、更に松山にすすめられた強めの酒を飲んでしまったので、頭と体がフラフラして、視界がグラグラと不安定に揺れる。
いつの間に近付いたのか、気が付けばすぐ真横には松山がピッタリとくっついて、紫恵の耳元に顔を近付けた。
「さっきの話だけど……好きの度合いで言えば、俺は今でもナナより紫恵の方が好きだよ」
紫恵は不意に、高校時代に別れた原因が松山の度重なる浮気だった事を思い出す。
そして妻子がいる今も、平気でこんなことを言う松山に激しい怒りを覚えた。
冗談にしてもほどがある。
「結婚して6年ちょっとだから、今7年目。松山くんもナナちゃんと早くに結婚して、子供が3人もいるんでしょ?」
「うちは9年目。子供は8歳と5歳と2歳」
30歳にして9年目ということは、大学在学中に結婚したのだろう。
店員が運んできたお酒を松山が受け取り、ひとつを紫恵に手渡した。
なかば強引に乾杯させられ、紫恵は仕方なくチビチビとそのお酒を飲む。
「そういえば姿が見えないけど、ナナちゃん今日は来てないの?」
「実家に子供預けるって言ってたんだけど、今朝急に一番下の子が熱出して預けられなかったんだ。それで子供と一緒に留守番」
「子供が病気なのに、松山くんはここに来てて大丈夫なの?」
「子供が熱出すなんてしょっちゅうだからな、慣れたもんだよ。俺がいたってなんの役にも立たないし、行ってこいって」
そういえば希望も赤ちゃんの頃はよく熱を出していた。
子供が3人もいると毎日さぞかし大変だろう。
「すごいなぁ……ナナちゃん、すっかりお母さんなんだねぇ……」
「あいつ、子供が増えるたびにどんどん強くなってさ、今じゃ可愛いげの欠片もないよ」
紫恵は松山のその言葉を聞いて顔をしかめた。
もし自分のいないところで夫にこんなことを言われていると知ったら、妻であるナナはさぞかし腹が立つだろうし、悲しむに違いない。
もちろん紫恵自身も同じ気持ちになるだろう。
「松山くん、それはひどいよ。ナナちゃんは松山くんの子供を3人も産んでくれて、頑張って子育てしてるんだよ?もっと大事にしないと」
「別に俺が結婚したいって言ったわけでも、子供欲しいって言ったわけでもないしなー」
まるで他人事のような言い草だ。
それでは松山はナナとの結婚をまるきり望んでいなかったとでも言うのだろうか?
「それ無責任じゃない?」
「なんで?責任取って結婚して、ちゃんと養ってんじゃん」
松山の言う責任は、紫恵の思う責任の意味とはなんとなく違う気がする。
「それは当たり前のことだと思うけど。松山くんはナナちゃんが好きだから結婚したんじゃないの?」
「別にそういうんじゃないよ」
「え?」
「大学入って付き合いだしたのだって、ナナに強引に押しきられたっていうか?でも顔はまあまあ好みだったし、体の相性は良かったから付き合ってた。そしたら子供ができたから結婚した」
愛情をまったく感じられない松山の態度と言葉に、紫恵は絶句した。
呆れて物も言えないとはこのことだ。
紫恵は返す言葉に困り、しばらく黙ってお酒を飲んだ。
圭はお手洗いに行った帰りに他のグループに引き留められたようで、席に戻って来ない。
春菜と綾乃も別のグループと話し込んでいる。
このまま松山と二人でいるのはなんとなく居心地が悪い。
少しすると、そろそろ一旦お開きにして二次会へ向かおうと幹事が声を掛けた。
紫恵はホッとして席を立ち、松山と離れようと慌てて店の外に出たが、思いのほか自分が酔っていることに気付いた。
おぼつかない足取りで他のクラスメイトから少し離れた場所で立ち止まった。
少し飲みすぎたかなと思っていたのに、更に松山にすすめられた強めの酒を飲んでしまったので、頭と体がフラフラして、視界がグラグラと不安定に揺れる。
いつの間に近付いたのか、気が付けばすぐ真横には松山がピッタリとくっついて、紫恵の耳元に顔を近付けた。
「さっきの話だけど……好きの度合いで言えば、俺は今でもナナより紫恵の方が好きだよ」
紫恵は不意に、高校時代に別れた原因が松山の度重なる浮気だった事を思い出す。
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冗談にしてもほどがある。
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