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待ち人来る
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「盛大なのろけですね」
「僕には妻しかいませんからね……。僕たちにはこの先もおそらく子供はできないだろうし、夫婦二人きりの可能性が高いんです」
「……そうなんですか?」
「ええ。つらいこともありましたし、まったく子供が欲しくないと言えば嘘になるけど……それでも僕は、妻がいてくれたらそれ以上の幸せはないと思ってますよ」
大輔は、なんの迷いもなくそう言い切る逸樹が羨ましいと素直に思った。
誰よりも香織を大切に想っていると伝えれば、この先の人生を一緒に生きていきたいと、香織は思ってくれるだろうか?
「香織も……そんなふうに思ってくれるでしょうか」
「大輔くんが考えているより、彼女は大輔くんを大切に想っていると僕は思います。この機会に、二人で今後のことをしっかり話し合ってみたらどうですか?」
「そうですね……。そうしてみます」
その後香織と大輔は、しばらく希望とりぃと一緒に遊んで、お昼過ぎに逸樹たちと公園で別れた。
香織の家にりぃを連れて戻ってから、近所のファミレスで昼食を済ませた後、香織の部屋で二人で話すことにした。
香織はコーヒーをテーブルの上に置いて、大輔の隣に座った。
久しぶりに二人きりになる照れくささも手伝って、二人の間によそよそしく開いた、ほんの少しの距離がもどかしい。
大輔は何から話せば良いのか考えながら、しばらく黙ってコーヒーを飲んだ。
ぎこちなく流れる沈黙の中で、香織も少し落ち着かない様子でコーヒーを飲む。
「こうして会うの……ホントに久しぶりだね」
沈黙を破ったのは香織だった。
大輔はコーヒーカップをテーブルに置いて、ためらいがちに香織の方を向いた。
「うん……。電話もメールもできないから直接会いに来たけどさ……ホントは香織に会うの、すげぇ怖かった」
「どうして?」
「2か月以上もなんの連絡もできなくて、香織心配してるかなとか、怒ってるかなとか……もしかしたらもう俺に見切りつけて新しい男がいるかもとか……」
いつになく自信なさげに話す大輔がおかしくて、香織は少し笑みをこぼした。
「ホントに心配したよ……。全然連絡取れなくて、大輔がどこで何してるのかもわからないし……。私のこと、もう嫌いになったのかなとか、他に誰か好きな人でもできたのかなって」
「二人して同じようなこと考えてたんだな」
大輔は少し笑って、テーブルの上に置かれた香織の手に自分の手を重ねた。
「香織は今も……俺のこと、好き?」
「うん……大好き。大輔は……?」
少し照れくさそうに香織が答えると、大輔は握る手に少し力をこめた。
「俺も香織が好きだよ。会えなかった間、ずっと香織のことばっかり考えてた。毎日毎日、香織に会いたいって」
「私も……すごく会いたかった」
大輔の素直な気持ちを聞けた事が嬉しい。
香織が微笑むと、大輔は真剣な目で香織の目をじっと見つめた。
「事故にあっても、直接連絡がいくのは家族だけなんだな。香織が俺の家族ならいいのにって、思った」
「え……?」
「転勤が決まった時は、俺の仕事の都合で香織に無理させたくなかったから何も言えなかったけど……会えないと毎日寂しくて、不安だった」
大輔は香織を抱き寄せて、額を香織の額にくっつけた。
「香織と離れてるの、そろそろ限界だ」
「私も……大輔と一緒にいたい……」
どちらからともなく、触れ合うだけの短いキスをした。
大輔は照れくさそうに笑う香織を包み込むように抱きしめた。
「俺は毎日、香織の待つ家に帰りたい。香織、一生大事にするから、俺の奥さんになってください」
「私でいいの……?」
「俺は香織がいいんだ」
大輔の低く優しい声が香織の胸をジンと熱くした。
込み上げた涙で大輔の顔がぼやけて見える。
大輔はあとからあとからこぼれる香織の涙を親指で優しく拭って、涙で濡れた頬に口付けた。
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします……」
「そんなに泣くなよ……」
「だって……嬉しい……」
「香織、愛してる。ずっと一緒に生きていこうな」
「うん……」
離れていた時間を埋めるように抱きしめ合って、何度も優しいキスをした。
香織は大輔の温かい腕の中で、大切な人がそばにいることの幸せをかみしめた。
「僕には妻しかいませんからね……。僕たちにはこの先もおそらく子供はできないだろうし、夫婦二人きりの可能性が高いんです」
「……そうなんですか?」
「ええ。つらいこともありましたし、まったく子供が欲しくないと言えば嘘になるけど……それでも僕は、妻がいてくれたらそれ以上の幸せはないと思ってますよ」
大輔は、なんの迷いもなくそう言い切る逸樹が羨ましいと素直に思った。
誰よりも香織を大切に想っていると伝えれば、この先の人生を一緒に生きていきたいと、香織は思ってくれるだろうか?
「香織も……そんなふうに思ってくれるでしょうか」
「大輔くんが考えているより、彼女は大輔くんを大切に想っていると僕は思います。この機会に、二人で今後のことをしっかり話し合ってみたらどうですか?」
「そうですね……。そうしてみます」
その後香織と大輔は、しばらく希望とりぃと一緒に遊んで、お昼過ぎに逸樹たちと公園で別れた。
香織の家にりぃを連れて戻ってから、近所のファミレスで昼食を済ませた後、香織の部屋で二人で話すことにした。
香織はコーヒーをテーブルの上に置いて、大輔の隣に座った。
久しぶりに二人きりになる照れくささも手伝って、二人の間によそよそしく開いた、ほんの少しの距離がもどかしい。
大輔は何から話せば良いのか考えながら、しばらく黙ってコーヒーを飲んだ。
ぎこちなく流れる沈黙の中で、香織も少し落ち着かない様子でコーヒーを飲む。
「こうして会うの……ホントに久しぶりだね」
沈黙を破ったのは香織だった。
大輔はコーヒーカップをテーブルに置いて、ためらいがちに香織の方を向いた。
「うん……。電話もメールもできないから直接会いに来たけどさ……ホントは香織に会うの、すげぇ怖かった」
「どうして?」
「2か月以上もなんの連絡もできなくて、香織心配してるかなとか、怒ってるかなとか……もしかしたらもう俺に見切りつけて新しい男がいるかもとか……」
いつになく自信なさげに話す大輔がおかしくて、香織は少し笑みをこぼした。
「ホントに心配したよ……。全然連絡取れなくて、大輔がどこで何してるのかもわからないし……。私のこと、もう嫌いになったのかなとか、他に誰か好きな人でもできたのかなって」
「二人して同じようなこと考えてたんだな」
大輔は少し笑って、テーブルの上に置かれた香織の手に自分の手を重ねた。
「香織は今も……俺のこと、好き?」
「うん……大好き。大輔は……?」
少し照れくさそうに香織が答えると、大輔は握る手に少し力をこめた。
「俺も香織が好きだよ。会えなかった間、ずっと香織のことばっかり考えてた。毎日毎日、香織に会いたいって」
「私も……すごく会いたかった」
大輔の素直な気持ちを聞けた事が嬉しい。
香織が微笑むと、大輔は真剣な目で香織の目をじっと見つめた。
「事故にあっても、直接連絡がいくのは家族だけなんだな。香織が俺の家族ならいいのにって、思った」
「え……?」
「転勤が決まった時は、俺の仕事の都合で香織に無理させたくなかったから何も言えなかったけど……会えないと毎日寂しくて、不安だった」
大輔は香織を抱き寄せて、額を香織の額にくっつけた。
「香織と離れてるの、そろそろ限界だ」
「私も……大輔と一緒にいたい……」
どちらからともなく、触れ合うだけの短いキスをした。
大輔は照れくさそうに笑う香織を包み込むように抱きしめた。
「俺は毎日、香織の待つ家に帰りたい。香織、一生大事にするから、俺の奥さんになってください」
「私でいいの……?」
「俺は香織がいいんだ」
大輔の低く優しい声が香織の胸をジンと熱くした。
込み上げた涙で大輔の顔がぼやけて見える。
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「ふつつか者ですが、よろしくお願いします……」
「そんなに泣くなよ……」
「だって……嬉しい……」
「香織、愛してる。ずっと一緒に生きていこうな」
「うん……」
離れていた時間を埋めるように抱きしめ合って、何度も優しいキスをした。
香織は大輔の温かい腕の中で、大切な人がそばにいることの幸せをかみしめた。
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