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見上げた空には
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川沿いの砂利道に自転車を停めて、フェンス越しに滑走路を眺めている。
彼と二人で何度も来た場所。
頭上では着陸寸前の飛行機が、耳をつんざくような轟音を響かせている。
この場所で彼と二人、滑走路を目掛けて飛んでくる飛行機の大きさに目を輝かせて笑っていた。
「いつかホンマにここの空港から一緒に飛行機に乗りたいなぁ」
「今は無理やけど、そのうち新婚旅行に行くとき乗せたるわ」
「海外連れていってくれるん?」
「そんな金あるかぁ!それにここの空港から出てるんは国内線だけや!」
そんな言葉を何度も交わしながら。
昨日の夜、いつも通りに会った帰り際。
彼は私を家の前まで送り届けると、繋いでいた手をそっと離して、目の前にいる私から目をそらした。
「俺やっぱり行くことにした。いつ戻ってくるか、ここに戻ってくるかどうかもわからへん」
待ってて欲しいとか、ついてきてくれとか、言うてくれへんねんな。
私と一緒にいるより、夢を追い掛けることを選んだんや。
ずっと一緒にいようなって約束したのに。
「ごめんな」
彼は『別れよう』と言う代わりに申し訳なさそうにそう呟いた。
「相談もせんと一人で決めるとか、ホンマずるいな。行かんといてとか離れたくないとか、私、なんも言われへんやん」
「……ごめん。どうしてもあきらめられへんねん。子供の頃からの夢やったから」
「ずっと一緒にいようって言うたくせに」
「……ごめん」
いつもはなかなか謝らへんくせに、なんでこんな時に限って素直に謝るんよ。
どれだけ責めても彼はただ謝るばかり。
私はそんな言葉が欲しいんじゃない。
いつもみたいに『それでも俺はおまえが好きやで』って言うてよ。
そう言ってくれたら、『今までありがとう、頑張ってな』って、どんだけ無理してでも笑って送り出せるのに。
だから私は最後にこう言った。
「嘘つき。私のことなんかどうでもええんやろ? ほんならどこにでも勝手に行けばええやん。アンタなんか大嫌いや」
今日、彼は自分自身の夢のために飛行機に乗って一人で遠くへ行ってしまった。
何度も一緒に見上げた空はどこまでも青くて、太陽の眩しさに目がくらみそうになる。
滑走路目掛けて飛んでくる飛行機に向かって、喉が切り裂かれそうなほどの大声を張り上げ彼の名前を呼んだ。
ずっと一緒にいようって約束は守れんでも、せめて私のことを好きやって言葉だけは嘘でもいいから残して欲しかったのに。
だから私も大嫌いって嘘ついたんやで。
「私を置いて行くなアホー!ホンマは好きやー!大好きやー!」
彼に届くことのない言葉を何度も叫んで見上げた雲ひとつない青い空が、にじんで見えた。
彼はここにはもういないけれど、空港のある街では今日も泣きたくなるほどの青い空が広がっている。
彼と二人で何度も来た場所。
頭上では着陸寸前の飛行機が、耳をつんざくような轟音を響かせている。
この場所で彼と二人、滑走路を目掛けて飛んでくる飛行機の大きさに目を輝かせて笑っていた。
「いつかホンマにここの空港から一緒に飛行機に乗りたいなぁ」
「今は無理やけど、そのうち新婚旅行に行くとき乗せたるわ」
「海外連れていってくれるん?」
「そんな金あるかぁ!それにここの空港から出てるんは国内線だけや!」
そんな言葉を何度も交わしながら。
昨日の夜、いつも通りに会った帰り際。
彼は私を家の前まで送り届けると、繋いでいた手をそっと離して、目の前にいる私から目をそらした。
「俺やっぱり行くことにした。いつ戻ってくるか、ここに戻ってくるかどうかもわからへん」
待ってて欲しいとか、ついてきてくれとか、言うてくれへんねんな。
私と一緒にいるより、夢を追い掛けることを選んだんや。
ずっと一緒にいようなって約束したのに。
「ごめんな」
彼は『別れよう』と言う代わりに申し訳なさそうにそう呟いた。
「相談もせんと一人で決めるとか、ホンマずるいな。行かんといてとか離れたくないとか、私、なんも言われへんやん」
「……ごめん。どうしてもあきらめられへんねん。子供の頃からの夢やったから」
「ずっと一緒にいようって言うたくせに」
「……ごめん」
いつもはなかなか謝らへんくせに、なんでこんな時に限って素直に謝るんよ。
どれだけ責めても彼はただ謝るばかり。
私はそんな言葉が欲しいんじゃない。
いつもみたいに『それでも俺はおまえが好きやで』って言うてよ。
そう言ってくれたら、『今までありがとう、頑張ってな』って、どんだけ無理してでも笑って送り出せるのに。
だから私は最後にこう言った。
「嘘つき。私のことなんかどうでもええんやろ? ほんならどこにでも勝手に行けばええやん。アンタなんか大嫌いや」
今日、彼は自分自身の夢のために飛行機に乗って一人で遠くへ行ってしまった。
何度も一緒に見上げた空はどこまでも青くて、太陽の眩しさに目がくらみそうになる。
滑走路目掛けて飛んでくる飛行機に向かって、喉が切り裂かれそうなほどの大声を張り上げ彼の名前を呼んだ。
ずっと一緒にいようって約束は守れんでも、せめて私のことを好きやって言葉だけは嘘でもいいから残して欲しかったのに。
だから私も大嫌いって嘘ついたんやで。
「私を置いて行くなアホー!ホンマは好きやー!大好きやー!」
彼に届くことのない言葉を何度も叫んで見上げた雲ひとつない青い空が、にじんで見えた。
彼はここにはもういないけれど、空港のある街では今日も泣きたくなるほどの青い空が広がっている。
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