社内恋愛狂想曲

櫻井音衣

文字の大きさ
9 / 268
聞き込み調査

「うっ……?!」

ビールを飲んでいた三島課長は私の言葉に驚き、激しくむせてしまった。
隣に座っていた瀧内くんが黙って三島課長の背中をさする。
通りかかった店員を呼び止め、新しいおしぼりをもらって差し出すと、三島課長はそれを受け取り口元を拭った。

「三島課長、大丈夫ですか?」
「いきなりなんてこと聞くんだよ」
「ごめんなさい、実は……」

自分の都合に合わせて急遽必死で考えた嘘の言い訳を絞り出す。

「私の友達が婚約中の彼氏に浮気されたらしくて、彼と今後どうするべきなのか悩んでるって相談されたんですけど、結婚を約束した相手がいるのにどうして浮気なんかするのか、その友人の彼氏の気持ちがわからなくて。私たちもまだ独身なので、これから結婚を考えるにあたって他人事ではないというか」

いつもより明らかに饒舌になっているのが自分でもわかる。
自分のことを友達に置き換えて話すなんてベタすぎて、話す相手が勘のいい人なら、きっとすぐにこの話は嘘だとバレてしまうだろう。 

「男の人って長く付き合ってる彼女とか婚約者がいても、平気で浮気できるものなんですか?」
「俺は浮気したことも浮気したいと思ったこともないけど……」

三島課長が助けを求めるように瀧内くんの方をチラッと見ると、瀧内くんは相変わらず興味なさげな顔で小さなため息をついた。

「僕はまだ結婚を考えたことはないので婚約者がいる人の気持ちはわかりません。ちなみに浮気したことはないし、絶対しません」
「あー……そうなんだね」

当然と言えば当然だけれど、結婚するならやっぱり浮気しない人がいいに決まってる。
なんとなく想像していた通り、二人とも付き合っている女性に対しては誠実なようだ。
しかしこれではなんの参考にもならない。

「だったら……友達とか身近な人の話でもいいです」
「うーん……俺のまわりの既婚者は夫婦円満なヤツばっかりだしなぁ……。結婚を考えてるようなヤツっていえば……あ、そうだ」

誰のことを思い出したのか、うつむき加減で考えていた三島課長が顔を上げた。

「橋口がよくのろけてるな」
「えっ?!」

まさかの護本人の話が三島課長の口から飛び出し、私はうろたえてあやうく大声を上げそうになるのをグッとこらえた。

「あいつ、早く結婚したいとか言ってたぞ。彼女は優しくてよく気が利くし、料理がうまくてしっかり者だからいい奥さんになりそうだってさ」

若い子と浮気してるのに、私のことを上司にのろけて早く結婚したいって、なんだそれ? 
言っていることとやっていることがあまりにも違いすぎて、余計にわけがわからない。

「確かにそう言うてるのよく聞きますけど……橋口くんの理想の奥さんは彼女ってことですかね?」

ビールを飲みながら怪訝な顔をして聞いていた葉月が尋ねた。

「そうかもな。橋口にとって彼女は幸せな結婚生活が思い描ける相手なんじゃないか」

三島課長の話を踏まえた上で、護が私に理想の奥さん像を求めているとして。
私には求められないもの……それは主に肉体的な快楽を奥田さんに求めているって、そういうこと?

「奥さんと彼女では求めるものが違うんでしょうか?」
「ん?どういう意味だ?」
「例えば……奥さんにするのは堅実で家庭的な人がいいけど、彼女にするなら若くて可愛くて……体の相性がいい人がいいとか」

私の言葉に相当驚いたらしく、三島課長がまたビールを吹き出しそうになった。
おしぼりで慌てて口元を拭いながら私の方を見る。

感想 21

あなたにおすすめの小説

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

可愛い女性の作られ方

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
風邪をひいて倒れた日。 起きたらなぜか、七つ年下の部下が家に。 なんだかわからないまま看病され。 「優里。 おやすみなさい」 額に落ちた唇。 いったいどういうコトデスカー!? 篠崎優里  32歳 独身 3人編成の小さな班の班長さん 周囲から中身がおっさん、といわれる人 自分も女を捨てている × 加久田貴尋 25歳 篠崎さんの部下 有能 仕事、できる もしかして、ハンター……? 7つも年下のハンターに狙われ、どうなる!? ****** 2014年に書いた作品を都合により、ほとんど手をつけずにアップしたものになります。 いろいろあれな部分も多いですが、目をつぶっていただけると嬉しいです。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! ✽全28話完結 ✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 ✽他誌にも掲載中です。 ✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。 →表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話