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もう、待つのはいや
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いつもより少し疲れた様子で出社した緒川支部長は、まだ誰も出社していない支部のドアを開け、内勤席を見つめてため息をついた。
昨日、緒川支部長は愛美との初めてのデートに胸を踊らせながら、愛美のマンションへ向かって車を走らせていた。
ちょうど愛美のマンションに到着する頃、ポケットの中でスマホの着信音が鳴り、マンションの前に車を停車してスマホの画面を見ると、得意先の社長の名前と電話番号が表示されていた。
嫌な予感がしたが、無視する訳にもいかず電話に出た。
電話をかけてきたのは社長の奥さんで、先週社長が事故に遭って怪我を負い入院したと言った。
怪我自体は幸い命に関わるようなものではなかったが、入院するのを機に、悪いところはないかと身体中検査してみる事にしたらしい。
すると、ごく初期ではあるが、胃に悪性の腫瘍が見つかったそうだ。
『とにかく早急に手術を』と言う事になったので、ガン保険や医療特約等の給付金の請求手続きをお願いしたいとの事だった。
新入社員の頃からお世話になっている優しい人柄の社長が事故に遭って怪我を負っている上に、ガンに冒されているともなれば、心配で居ても立ってもいられなかった。
給付金の請求手続きと社長のお見舞いに行くために、『これからそちらに向かいます』と言って電話を切った。
電話を切ってから、愛美にメッセージを送ったのだが、焦っていた事もあり、ずいぶんそっけなく言葉足らずな文章になってしまったと、後になってから気付いた。
愛美との約束をまた二の次にしてしまった事を申し訳なく思ったものの、とにかく急がなくてはと一度自宅に戻って身支度を整え、会社に立ち寄り仕事用のパソコンや必要な書類などを車に積んで、片道2時間ほどもかかる社長宅へ向かった。
多少の渋滞もあっていつもより時間が掛かり、15時頃に社長宅に到着すると、早速奥さんに給付金請求に必要な手続きをしてもらった。
社長という立場上、何種類もの保険に入っている事から、手続きにはずいぶん時間がかかった。
それからなんとか面会時間内に社長のお見舞いに行く事ができて、思っていたより社長が元気そうなのでホッとした。
社長は病気の事だけでなく、自分の留守中の会社の経営の事や従業員の事をとても心配していて、少しでもその気が休まればと、しばらくその心配事を聞いていた。
病院を出た時には既に20時を回っていたので、車に乗るとまずは愛美に電話をした。
しかし機械の音声が返って来るばかりで繋がらず、これから戻るとメッセージを送って車を走らせた。
22時を少し過ぎた頃、会社に戻る前に愛美の自宅まで行ってチャイムを鳴らした。
しかしなんの反応もなく、約束を破ってしまった自分に腹を立てて出掛けてしまったのかもとか、もう会ってくれないかも知れないとか、夜も遅いので寝てしまったのかもと思いながら、仕方なく会社に戻った。
自宅に帰りつく頃には23時を回っていた。
会社からも、自宅に戻ってからも、何度愛美に電話をしても繋がらず、メッセージを送っても返信がなかった。
自分からデートに誘っておきながら、また愛美を何時間も待たせてしまった事が心苦しくて、留守番電話とトークに何度も何度も、ホントにごめん、もし起きているなら一目だけでも会いたい、会うのが無理なら声だけでも聞かせて欲しいとメッセージを残した。
つい2日前にも、自分から誘っておきながら何時間もひとりぼっちで待たせ、あんなに泣かせてしまったのに、また同じ事を繰り返してしまった。
仕事だから仕方ないと言えばそれまでだが、社長宅に向かう前にせめて一目だけでも会って直接謝れば良かったとか、休日なのだし今すぐ命に関わると言う訳でもなかったのだから、翌日の朝イチで伺いますと先方に言えば良かったのかも知れないなどとも考えた。
しかしどうしても社長の事が心配で、それができなかった。
結局、愛美より仕事を選んでしまった事が余計に愛美を悲しませてしまったかも知れない。
やっぱり付き合えないと言われてしまうのかも知れない。
酔った愛美が苦しそうに絞り出した言葉が脳裏をよぎる。
過去の恋愛で、恋人から暴力を振るわれる恐怖や、裏切られる悲しみを味わったのだろうか。
『嘘つき』と力なく呟いて涙を流していた愛美を思い出すと胸が痛む。
『めちゃくちゃ大事にするから彼女になって』と言ったくせに、たったの数日間で二度も、仕事を理由に約束を守れなかった。
とにかく会いたい。
会って直接謝りたい。
自分がどれだけ愛美を好きなのかを伝えたい。
愛美は許してくれるだろうか?
また大嫌いだと言われるだろうか?
それとも、やっぱりもう無理だと言われるのだろうか?
昨日、緒川支部長は愛美との初めてのデートに胸を踊らせながら、愛美のマンションへ向かって車を走らせていた。
ちょうど愛美のマンションに到着する頃、ポケットの中でスマホの着信音が鳴り、マンションの前に車を停車してスマホの画面を見ると、得意先の社長の名前と電話番号が表示されていた。
嫌な予感がしたが、無視する訳にもいかず電話に出た。
電話をかけてきたのは社長の奥さんで、先週社長が事故に遭って怪我を負い入院したと言った。
怪我自体は幸い命に関わるようなものではなかったが、入院するのを機に、悪いところはないかと身体中検査してみる事にしたらしい。
すると、ごく初期ではあるが、胃に悪性の腫瘍が見つかったそうだ。
『とにかく早急に手術を』と言う事になったので、ガン保険や医療特約等の給付金の請求手続きをお願いしたいとの事だった。
新入社員の頃からお世話になっている優しい人柄の社長が事故に遭って怪我を負っている上に、ガンに冒されているともなれば、心配で居ても立ってもいられなかった。
給付金の請求手続きと社長のお見舞いに行くために、『これからそちらに向かいます』と言って電話を切った。
電話を切ってから、愛美にメッセージを送ったのだが、焦っていた事もあり、ずいぶんそっけなく言葉足らずな文章になってしまったと、後になってから気付いた。
愛美との約束をまた二の次にしてしまった事を申し訳なく思ったものの、とにかく急がなくてはと一度自宅に戻って身支度を整え、会社に立ち寄り仕事用のパソコンや必要な書類などを車に積んで、片道2時間ほどもかかる社長宅へ向かった。
多少の渋滞もあっていつもより時間が掛かり、15時頃に社長宅に到着すると、早速奥さんに給付金請求に必要な手続きをしてもらった。
社長という立場上、何種類もの保険に入っている事から、手続きにはずいぶん時間がかかった。
それからなんとか面会時間内に社長のお見舞いに行く事ができて、思っていたより社長が元気そうなのでホッとした。
社長は病気の事だけでなく、自分の留守中の会社の経営の事や従業員の事をとても心配していて、少しでもその気が休まればと、しばらくその心配事を聞いていた。
病院を出た時には既に20時を回っていたので、車に乗るとまずは愛美に電話をした。
しかし機械の音声が返って来るばかりで繋がらず、これから戻るとメッセージを送って車を走らせた。
22時を少し過ぎた頃、会社に戻る前に愛美の自宅まで行ってチャイムを鳴らした。
しかしなんの反応もなく、約束を破ってしまった自分に腹を立てて出掛けてしまったのかもとか、もう会ってくれないかも知れないとか、夜も遅いので寝てしまったのかもと思いながら、仕方なく会社に戻った。
自宅に帰りつく頃には23時を回っていた。
会社からも、自宅に戻ってからも、何度愛美に電話をしても繋がらず、メッセージを送っても返信がなかった。
自分からデートに誘っておきながら、また愛美を何時間も待たせてしまった事が心苦しくて、留守番電話とトークに何度も何度も、ホントにごめん、もし起きているなら一目だけでも会いたい、会うのが無理なら声だけでも聞かせて欲しいとメッセージを残した。
つい2日前にも、自分から誘っておきながら何時間もひとりぼっちで待たせ、あんなに泣かせてしまったのに、また同じ事を繰り返してしまった。
仕事だから仕方ないと言えばそれまでだが、社長宅に向かう前にせめて一目だけでも会って直接謝れば良かったとか、休日なのだし今すぐ命に関わると言う訳でもなかったのだから、翌日の朝イチで伺いますと先方に言えば良かったのかも知れないなどとも考えた。
しかしどうしても社長の事が心配で、それができなかった。
結局、愛美より仕事を選んでしまった事が余計に愛美を悲しませてしまったかも知れない。
やっぱり付き合えないと言われてしまうのかも知れない。
酔った愛美が苦しそうに絞り出した言葉が脳裏をよぎる。
過去の恋愛で、恋人から暴力を振るわれる恐怖や、裏切られる悲しみを味わったのだろうか。
『嘘つき』と力なく呟いて涙を流していた愛美を思い出すと胸が痛む。
『めちゃくちゃ大事にするから彼女になって』と言ったくせに、たったの数日間で二度も、仕事を理由に約束を守れなかった。
とにかく会いたい。
会って直接謝りたい。
自分がどれだけ愛美を好きなのかを伝えたい。
愛美は許してくれるだろうか?
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