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ロールキャベツな狼とツンデレな猫
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「それじゃあ……もう少しだけ」
「うん……じゃあ、少しだけ」
肩を寄せ合い、指を絡めて手を繋いだ。
温かく大きな手に安心する。
(こうしてるだけでも幸せ……。余計に離れたくなくなっちゃう……)
チラリと横顔を見上げると、緒川支部長は何かを考えているようだった。
「さっきの話だけど……愛美が支社から異動した後にね……愛美には彼氏いるし、職場も別々になって会う事もなくなったし、俺もいい歳だしあきらめようって、その時は思ったんだ」
「うん……」
(私はその後もろくな人と付き合ってなかったな……)
「それから何人かと付き合ってみたけど……誰も本気で好きにはなれなかった。誰もホントの俺を見てくれなかったから疲れたし、仕事が忙しいと余計に会うのもしんどくなって、長続きした事ない」
「私ともいずれそうなる……?」
「ならないよ。愛美は……今、目の前にいる俺を見て好きって言ってくれたんだよね?」
愛美は『政弘さん』の手をギュッと握り、肩にもたれて頬をすり寄せた。
「大好きです」
「俺も愛美が好き。だからホントはもっと一緒にいたいよ」
『政弘さん』は、繋いだ手と反対の手で愛美の頭を撫でながら笑う。
「愛美って猫っぽい。俺は猫好きだから飼いたいんだけど……愛美は猫アレルギーなんだよね」
「見てる分にはかわいいんですけどね。くしゃみとか咳とか止まらなくなります」
「残念……。でもまぁ、愛美がいるからいいかな。猫みたいにゴロゴロ甘えてくれたら」
「じゃあ私も政弘さんを連れて散歩して、お利口にしてたらご褒美に頭撫でまわします」
愛美の言葉がよほど意外だったのか、『政弘さん』は不思議そうに首をかしげている。
その姿もまた犬っぽい。
愛美はそんな『政弘さん』を見ながら笑いをこらえた。
「散歩……?俺、頭撫でまわされるの……?」
「賃貸マンションだと大型犬はなかなか飼えないので」
「大型犬……?犬っぽいって言うのは性格の事じゃなくて、見た目の事?」
「両方ですね。時々、耳と尻尾が見えますよ」
「ふーん……。じゃあ、これでもかってくらいにじゃれつくよ」
「えっ?!」
『政弘さん』は、飛び付いてじゃれつく大型犬のように、愛美を床に押し倒して、いたずらっぽく笑った。
「舐め回すのはかわいそうだから、キスにしといてあげる」
無邪気な大型犬と化した『政弘さん』は、愛美の唇に触れるだけの短いキスをこれでもかと言うほど何度もくりかえして、舌先で愛美の唇をペロッと舐めた。
「これ以上すると犬が狼になっちゃうから、おしまい」
「意地悪……」
「じゃあ……明日は意地悪しないで愛美を思いっきり甘やかしてあげようかな。俺んち……来る?」
改めてそう言われると、照れくささと恥ずかしさが込み上げる。
今でもじゅうぶん甘いのに、思いっきり甘やかされたらどうなってしまうんだろう?
愛美は少し恥ずかしそうに頬を赤らめて、小さくうなずいた。
(さっきまで犬みたいだったのに……急に大人の男になるからドキドキしちゃうよ……)
『政弘さん』は愛美の手を取りゆっくりと引き起こして、もう一度軽く口付けた。
「じゃあ……ホントにそろそろ帰るよ。明日、11時に迎えに来る」
「待ってます」
愛美が微笑むと『政弘さん』は嬉しそうに笑った。
翌日。
11時に迎えに来た『政弘さん』に連れられ、近所のスーパーで一緒に買い物をした。
『今日は昼も夜も愛美の手料理が食べたいな』とお願いする『政弘さん』は、人懐っこい子犬のようでかわいいと愛美は思う。
お昼は『政弘さん』の希望でパスタを作る事にした。
キッチンで料理をしている愛美の後ろ姿を『政弘さん』は幸せそうに目を細めて見ている。
「いいにおい。早く食べたいな」
カウンターに肘をついて子どもみたいに声を掛ける『政弘さん』に、愛美は笑って振り返る。
「もうできますよ。お皿、取ってもらえます?」
『政弘さん』はいそいそと嬉しそうに食器棚から大きめのお皿を2枚取り出して、調理台の上に置いた。
愛美がお皿にパスタを盛り付けると、『政弘さん』は目を輝かせて『美味しそう』と呟く。
二人で向かい合って、愛美の作ったパスタを食べた。
「すごく美味しいよ」
「良かった」
美味しそうにパスタを頬張る『政弘さん』を見ていると、嬉しくて愛美も笑顔になる。
今まで、自分の作った料理をこんなに幸せそうに食べてくれた人はいただろうかと思いながら、愛美もパスタを口に運んだ。
(誰かのために料理を作るのが、こんなに幸せだって思ったのも初めてかも……)
昼食を終えて片付けを済ませた後、コーヒーを淹れてソファーの前のローテーブルの上にカップを置いた。
床の上に敷かれたラグに座り、コーヒーを飲みながら他愛ない話をしていると、ふと会話が途切れ、ほんの少しの沈黙が流れた。
『政弘さん』はソファーに座り、自分の隣をポンポンと叩く。
「愛美、おいで」
少しドキドキしながら、ゆっくりと隣に座ると、『政弘さん』は愛美の肩を抱き寄せて頭を撫でた。
愛美は『政弘さん』の肩にもたれて頬をすり寄せ、温もりと幸せを噛みしめる。
(心地よすぎて、帰りたくなくなっちゃいそう……)
「うん……じゃあ、少しだけ」
肩を寄せ合い、指を絡めて手を繋いだ。
温かく大きな手に安心する。
(こうしてるだけでも幸せ……。余計に離れたくなくなっちゃう……)
チラリと横顔を見上げると、緒川支部長は何かを考えているようだった。
「さっきの話だけど……愛美が支社から異動した後にね……愛美には彼氏いるし、職場も別々になって会う事もなくなったし、俺もいい歳だしあきらめようって、その時は思ったんだ」
「うん……」
(私はその後もろくな人と付き合ってなかったな……)
「それから何人かと付き合ってみたけど……誰も本気で好きにはなれなかった。誰もホントの俺を見てくれなかったから疲れたし、仕事が忙しいと余計に会うのもしんどくなって、長続きした事ない」
「私ともいずれそうなる……?」
「ならないよ。愛美は……今、目の前にいる俺を見て好きって言ってくれたんだよね?」
愛美は『政弘さん』の手をギュッと握り、肩にもたれて頬をすり寄せた。
「大好きです」
「俺も愛美が好き。だからホントはもっと一緒にいたいよ」
『政弘さん』は、繋いだ手と反対の手で愛美の頭を撫でながら笑う。
「愛美って猫っぽい。俺は猫好きだから飼いたいんだけど……愛美は猫アレルギーなんだよね」
「見てる分にはかわいいんですけどね。くしゃみとか咳とか止まらなくなります」
「残念……。でもまぁ、愛美がいるからいいかな。猫みたいにゴロゴロ甘えてくれたら」
「じゃあ私も政弘さんを連れて散歩して、お利口にしてたらご褒美に頭撫でまわします」
愛美の言葉がよほど意外だったのか、『政弘さん』は不思議そうに首をかしげている。
その姿もまた犬っぽい。
愛美はそんな『政弘さん』を見ながら笑いをこらえた。
「散歩……?俺、頭撫でまわされるの……?」
「賃貸マンションだと大型犬はなかなか飼えないので」
「大型犬……?犬っぽいって言うのは性格の事じゃなくて、見た目の事?」
「両方ですね。時々、耳と尻尾が見えますよ」
「ふーん……。じゃあ、これでもかってくらいにじゃれつくよ」
「えっ?!」
『政弘さん』は、飛び付いてじゃれつく大型犬のように、愛美を床に押し倒して、いたずらっぽく笑った。
「舐め回すのはかわいそうだから、キスにしといてあげる」
無邪気な大型犬と化した『政弘さん』は、愛美の唇に触れるだけの短いキスをこれでもかと言うほど何度もくりかえして、舌先で愛美の唇をペロッと舐めた。
「これ以上すると犬が狼になっちゃうから、おしまい」
「意地悪……」
「じゃあ……明日は意地悪しないで愛美を思いっきり甘やかしてあげようかな。俺んち……来る?」
改めてそう言われると、照れくささと恥ずかしさが込み上げる。
今でもじゅうぶん甘いのに、思いっきり甘やかされたらどうなってしまうんだろう?
愛美は少し恥ずかしそうに頬を赤らめて、小さくうなずいた。
(さっきまで犬みたいだったのに……急に大人の男になるからドキドキしちゃうよ……)
『政弘さん』は愛美の手を取りゆっくりと引き起こして、もう一度軽く口付けた。
「じゃあ……ホントにそろそろ帰るよ。明日、11時に迎えに来る」
「待ってます」
愛美が微笑むと『政弘さん』は嬉しそうに笑った。
翌日。
11時に迎えに来た『政弘さん』に連れられ、近所のスーパーで一緒に買い物をした。
『今日は昼も夜も愛美の手料理が食べたいな』とお願いする『政弘さん』は、人懐っこい子犬のようでかわいいと愛美は思う。
お昼は『政弘さん』の希望でパスタを作る事にした。
キッチンで料理をしている愛美の後ろ姿を『政弘さん』は幸せそうに目を細めて見ている。
「いいにおい。早く食べたいな」
カウンターに肘をついて子どもみたいに声を掛ける『政弘さん』に、愛美は笑って振り返る。
「もうできますよ。お皿、取ってもらえます?」
『政弘さん』はいそいそと嬉しそうに食器棚から大きめのお皿を2枚取り出して、調理台の上に置いた。
愛美がお皿にパスタを盛り付けると、『政弘さん』は目を輝かせて『美味しそう』と呟く。
二人で向かい合って、愛美の作ったパスタを食べた。
「すごく美味しいよ」
「良かった」
美味しそうにパスタを頬張る『政弘さん』を見ていると、嬉しくて愛美も笑顔になる。
今まで、自分の作った料理をこんなに幸せそうに食べてくれた人はいただろうかと思いながら、愛美もパスタを口に運んだ。
(誰かのために料理を作るのが、こんなに幸せだって思ったのも初めてかも……)
昼食を終えて片付けを済ませた後、コーヒーを淹れてソファーの前のローテーブルの上にカップを置いた。
床の上に敷かれたラグに座り、コーヒーを飲みながら他愛ない話をしていると、ふと会話が途切れ、ほんの少しの沈黙が流れた。
『政弘さん』はソファーに座り、自分の隣をポンポンと叩く。
「愛美、おいで」
少しドキドキしながら、ゆっくりと隣に座ると、『政弘さん』は愛美の肩を抱き寄せて頭を撫でた。
愛美は『政弘さん』の肩にもたれて頬をすり寄せ、温もりと幸せを噛みしめる。
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