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ロールキャベツな狼とツンデレな猫
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翌日。
いつも通りの月曜の朝。
昨日の今日でどんな顔をすればいいのだろうと思いながら出社した愛美は、ぎこちない手つきで支部のドアを開けた。
支部長席にはいつも通りの緒川支部長が座っていて、難しい顔をしてパソコン画面とにらめっこをしている。
「……おはようございます」
愛美が少しドキドキしながら挨拶をすると、緒川支部長はやはりいつものように、顔も上げずに「おはよう」と挨拶をする。
『緒川支部長』と『政弘さん』が、どうしても結び付かない。
(なんとなく想像はしてたけど、やっぱりムカつく!昨日はあんなに甘かったくせに……!マジで別人なんじゃないの?)
愛美が眉間にシワを寄せて内勤用パソコンの画面に見入っていると、緒川支部長がそばに来て、分厚い書類の束をデスクの上に置いた。
「菅谷、これ大至急支社にデータ送って」
いつも以上にぶっきらぼうなその態度にカチンと来て、愛美もいつも以上に不機嫌な声で返事をする。
「わ・か・り・ま・し・た!!」
(何あれ!!腹立つーっ!!)
怒りも手伝って、愛美は怒濤のスピードでキーボードを叩く。
「菅谷さん、いつも以上にブチ切れてますねぇ」
高瀬FPが笑いを堪えながら呟くと、緒川支部長はわざとらしく咳払いをして、【みんなに余計な事は言うなよ】と高瀬FPに走り書きのメモを渡した。
メモを見た高瀬FPが『ハイハイ』と言いたげに肩をすくめる。
そんなやり取りが交わされているとも知らず、愛美は恐るべきスピードで仕事を片付けた。
お昼休憩の後、職員が出払った静かなオフィスで、支部の電話が鳴った。
愛美が受話器を耳に当てると、こちらが名乗るより先に緒川支部長の声が聞こえた。
「森さん帰ってる?」
「いえ、まだです」
「じゃあ、戻ったら俺に電話するように伝えて」
「森さんの携帯に、直接電話かメールした方が早いです」
愛美がそう言うと、緒川支部長はほんの少し黙り込んだ。
「それはそうなんだけどな……。愛美の声が聞きたかったから」
営業職員と違い、内勤職員は仕事中は携帯電話を使用しない。
支部に電話をすれば、大抵は愛美が出る。
それをわかっているから緒川支部長がわざわざ支部に電話してくる事にも、愛美は気付いている。
少しだけ意地悪な事を言ってやろうかなと、愛美はわざとらしく無愛想な声で話す。
「仕事中ですよ。支部の私用電話は禁止です」
「……ごめん」
緒川支部長とは思えないほど頼りなく謝る声に、やっぱりこの人も間違いなく『政弘さん』なんだなとおかしくなる。
「じゃあ、用がなければ切りますよ」
「今日……仕事の後、会いに行ってもいい?」
「私用電話禁止です」
愛美が笑いを堪えながら素っ気なくそう言うと、緒川支部長は『政弘さん』の声で電話越しに囁く。
「うん……。愛美、好きだよ」
愛美は思わず笑みを浮かべて、あえて素っ気ない声で答える。
「そういう事は、直接言って下さい」
「わかった、そうする」
目の前にいなくても、緒川支部長の格好で耳を垂れて尻尾を項垂れている『政弘さん』の姿が目に浮かび、愛美は込み上げる笑いを必死で堪えた。
「切りますよ?」
「うん」
「あ、言い忘れてました」
「ん、何?」
少し嬉しそうな『政弘さん』の甘い声に、愛美は少しだけ優しい声で答える。
「晩御飯用意して待ってます」
「……うん!絶対早く行く!!」
耳をピンと立てて嬉しそうに尻尾を振っている『政弘さん』の姿が目に浮かぶ。
(やっぱりかわいい……)
愛美は照れ笑いを浮かべながら受話器を置いた。
相変わらず職場での緒川支部長は好きにはなれない。
けれど、それもまた大好きな『政弘さん』の一部なのだと思うと、以前ほど大嫌いではなくなったようにも思う。
それでもやっぱり、仕事中は嫌いくらいでちょうどいいのかも知れない。
甘くて優しくて、少し意地悪な『政弘さん』は、自分だけが知っていたい。
仕事中にまで大好きな『政弘さん』がそばにいたら仕事が手につかなくなるかも、などと思いながら、愛美はパソコンに向かう。
若くて仕事ができてイケメンで俺様で……なんて、胡散臭い男は大嫌いだと思っていたのに、よりによって大嫌いだったはずの緒川支部長と付き合っている。
よくある漫画や小説みたいに、オフィスで出会い、オフィスで恋が芽生え、オフィスでこっそりと愛を育んできた訳じゃない。
愛美は覚えてはいなかったけれど、二人が初めて会ったのは会社ではなかったし、何より、好きになったのは仕事中の俺様な彼ではなかった。
職場での俺様な姿は、愛美の好みに近付くために彼が作り出したものだとしても、偽装とは言え俺様な緒川支部長は嫌いだし、きっとこれからも好きにはなれそうもない。
だけど、仕事を離れた時の、普段の甘くて優しい彼が、たまらなく好きだ。
これは社内恋愛と呼べるのか。
二人の勤め先が同じ会社なのだから、そうとも呼べなくもない。
それでもやっぱり、社内恋愛と呼ぶには違和感があると思う。
そもそも、職場に出会いは求めていない。
職場での甘い誘惑も、残業中の秘密の逢瀬も望んでいない。
職場にあるのは、仕事としがらみと、お節介な優しい人たちとの少し面倒な人間関係だけだ。
愛美は思う。
愛情は、オフィスの外で、甘くて優しい彼と二人っきりで育もうと。
そしてきっと、オフィスで仏頂面の彼に大量の仕事を任される度に、心の中で叫ぶのだろう。
『オフィスにラブは落ちてねぇ!!』
─END─
いつも通りの月曜の朝。
昨日の今日でどんな顔をすればいいのだろうと思いながら出社した愛美は、ぎこちない手つきで支部のドアを開けた。
支部長席にはいつも通りの緒川支部長が座っていて、難しい顔をしてパソコン画面とにらめっこをしている。
「……おはようございます」
愛美が少しドキドキしながら挨拶をすると、緒川支部長はやはりいつものように、顔も上げずに「おはよう」と挨拶をする。
『緒川支部長』と『政弘さん』が、どうしても結び付かない。
(なんとなく想像はしてたけど、やっぱりムカつく!昨日はあんなに甘かったくせに……!マジで別人なんじゃないの?)
愛美が眉間にシワを寄せて内勤用パソコンの画面に見入っていると、緒川支部長がそばに来て、分厚い書類の束をデスクの上に置いた。
「菅谷、これ大至急支社にデータ送って」
いつも以上にぶっきらぼうなその態度にカチンと来て、愛美もいつも以上に不機嫌な声で返事をする。
「わ・か・り・ま・し・た!!」
(何あれ!!腹立つーっ!!)
怒りも手伝って、愛美は怒濤のスピードでキーボードを叩く。
「菅谷さん、いつも以上にブチ切れてますねぇ」
高瀬FPが笑いを堪えながら呟くと、緒川支部長はわざとらしく咳払いをして、【みんなに余計な事は言うなよ】と高瀬FPに走り書きのメモを渡した。
メモを見た高瀬FPが『ハイハイ』と言いたげに肩をすくめる。
そんなやり取りが交わされているとも知らず、愛美は恐るべきスピードで仕事を片付けた。
お昼休憩の後、職員が出払った静かなオフィスで、支部の電話が鳴った。
愛美が受話器を耳に当てると、こちらが名乗るより先に緒川支部長の声が聞こえた。
「森さん帰ってる?」
「いえ、まだです」
「じゃあ、戻ったら俺に電話するように伝えて」
「森さんの携帯に、直接電話かメールした方が早いです」
愛美がそう言うと、緒川支部長はほんの少し黙り込んだ。
「それはそうなんだけどな……。愛美の声が聞きたかったから」
営業職員と違い、内勤職員は仕事中は携帯電話を使用しない。
支部に電話をすれば、大抵は愛美が出る。
それをわかっているから緒川支部長がわざわざ支部に電話してくる事にも、愛美は気付いている。
少しだけ意地悪な事を言ってやろうかなと、愛美はわざとらしく無愛想な声で話す。
「仕事中ですよ。支部の私用電話は禁止です」
「……ごめん」
緒川支部長とは思えないほど頼りなく謝る声に、やっぱりこの人も間違いなく『政弘さん』なんだなとおかしくなる。
「じゃあ、用がなければ切りますよ」
「今日……仕事の後、会いに行ってもいい?」
「私用電話禁止です」
愛美が笑いを堪えながら素っ気なくそう言うと、緒川支部長は『政弘さん』の声で電話越しに囁く。
「うん……。愛美、好きだよ」
愛美は思わず笑みを浮かべて、あえて素っ気ない声で答える。
「そういう事は、直接言って下さい」
「わかった、そうする」
目の前にいなくても、緒川支部長の格好で耳を垂れて尻尾を項垂れている『政弘さん』の姿が目に浮かび、愛美は込み上げる笑いを必死で堪えた。
「切りますよ?」
「うん」
「あ、言い忘れてました」
「ん、何?」
少し嬉しそうな『政弘さん』の甘い声に、愛美は少しだけ優しい声で答える。
「晩御飯用意して待ってます」
「……うん!絶対早く行く!!」
耳をピンと立てて嬉しそうに尻尾を振っている『政弘さん』の姿が目に浮かぶ。
(やっぱりかわいい……)
愛美は照れ笑いを浮かべながら受話器を置いた。
相変わらず職場での緒川支部長は好きにはなれない。
けれど、それもまた大好きな『政弘さん』の一部なのだと思うと、以前ほど大嫌いではなくなったようにも思う。
それでもやっぱり、仕事中は嫌いくらいでちょうどいいのかも知れない。
甘くて優しくて、少し意地悪な『政弘さん』は、自分だけが知っていたい。
仕事中にまで大好きな『政弘さん』がそばにいたら仕事が手につかなくなるかも、などと思いながら、愛美はパソコンに向かう。
若くて仕事ができてイケメンで俺様で……なんて、胡散臭い男は大嫌いだと思っていたのに、よりによって大嫌いだったはずの緒川支部長と付き合っている。
よくある漫画や小説みたいに、オフィスで出会い、オフィスで恋が芽生え、オフィスでこっそりと愛を育んできた訳じゃない。
愛美は覚えてはいなかったけれど、二人が初めて会ったのは会社ではなかったし、何より、好きになったのは仕事中の俺様な彼ではなかった。
職場での俺様な姿は、愛美の好みに近付くために彼が作り出したものだとしても、偽装とは言え俺様な緒川支部長は嫌いだし、きっとこれからも好きにはなれそうもない。
だけど、仕事を離れた時の、普段の甘くて優しい彼が、たまらなく好きだ。
これは社内恋愛と呼べるのか。
二人の勤め先が同じ会社なのだから、そうとも呼べなくもない。
それでもやっぱり、社内恋愛と呼ぶには違和感があると思う。
そもそも、職場に出会いは求めていない。
職場での甘い誘惑も、残業中の秘密の逢瀬も望んでいない。
職場にあるのは、仕事としがらみと、お節介な優しい人たちとの少し面倒な人間関係だけだ。
愛美は思う。
愛情は、オフィスの外で、甘くて優しい彼と二人っきりで育もうと。
そしてきっと、オフィスで仏頂面の彼に大量の仕事を任される度に、心の中で叫ぶのだろう。
『オフィスにラブは落ちてねぇ!!』
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