上 下
49 / 240
密着型特訓?これはもはやデレのテロだ~幼馴染みが溺愛系俺様イケメンに豹変したら発熱した件~

しおりを挟む
ターゲットのカップルのあとを追ってカフェを出る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
昼間は家族連れの姿も目立ったけれど、時間が遅くなるにつれてカップルが増えている気がする。
ターゲットはショップやレストランなどの並ぶ建物を出て、海沿いにベンチの並ぶシーサイドエリアを歩き始める。
この場所に至っては、どこもかしこもカップルだらけだ。
カップルたちはべったりくっついてベンチに座り、海辺の綺麗な夜景もそっちのけでイチャイチャしているので、正直言って目のやり場に困る。
ターゲットの二人も空いているベンチを見つけると、他のカップルと同じようにイチャイチャし始めた。
さすがにこればっかりは真似できない。

「夜景も綺麗だし、俺たちもそこのベンチに座ろうか」
「ああ……うん、そうだね」

確かに夜景は綺麗だし、ロケーションとしては最高だ。
滅多に来ない場所にせっかく来たんだから綺麗な夜景を堪能していこう。
ほんの少し間隔を空けて二人でベンチに座り、遠くの方に見える街明かりやライトアップされた遊覧船を眺めていると、尚史が突然私の肩に手を回した。
何事かと驚き尚史の方を見ると、思っていた以上に近い場所に尚史の顔があって、私は思わず息を止めてのけぞってしまう。

「な、な、何事か?!」
「だってほら……周りもみんなそうしてるから」
「だからって……!」

あわてて顔をそむけたその先では、カップルが人目もはばからずキスをしていた。
尚史はさらに顔を近付ける。
まさか……あれも真似するつもりじゃないよね?

「尚史……ちょっと待って、一旦落ち着こう?私、いくらなんでもあんなことまでは……!」
「モモはさぁ……八坂さんとデートして、もしキスされそうになったらどうすんの?」
「そっ、それは……逃げないで受け入れようと思ってるよ」
「ふーん……八坂さんのこと好きでもないのに?」

私はもし八坂さんにキスとかそれ以上のことを求められるようなことがあっても、拒まないつもりでいる。
まだ好きだという感情もないのに順番が違うだろうと言われても、1日も早く結婚するためには手段を選んでいる暇はない。
光子おばあちゃんの体に潜む病魔は、一刻たりとも待ってはくれないのだから。

「どうして急にそんなこと言うの?」
「別に……モモはホントにそれでいいのかなって、思っただけ」
「そんなこと言ってる場合じゃないって、尚史だって知ってるでしょ?」
「……そうだな。だけどモモは今のままだと、八坂さんに迫られたらきっと突き飛ばしたり殴ったりすると思う。俺がちょっと触ったり近付いたりしただけでもガチガチになるんだから」

かなり痛いところを突かれてしまった。
私自身もそれは不安に思っていたところだ。
経験値を積むには実戦をくり返すしかないわけだけど、内容が内容だけに、それこそ好きでもなんでもない相手を手当たり次第につかまえて練習することはできない。
RPGのレベル上げみたいにはいかないのだ。

「こればっかりはさすがにね……誰かに練習させてもらうわけにもいかないし」
「何言ってんの?だから俺がいるんじゃん」
「……え?」
「俺、徹底的にガチでやるって言っただろ。キスとか実際にはしないけど、雰囲気はつかめるように流れだけ練習するって意味だ」
「……流れだけ……って何?」
「だから例えば……」

尚史は私の肩を抱き寄せ、反対の手の指先で私の顎を持ち上げて上を向かせた。

しおりを挟む

処理中です...