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密着型特訓?これはもはやデレのテロだ~幼馴染みが溺愛系俺様イケメンに豹変したら発熱した件~

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「ひっ、尚史……!」
「こうされたらモモは黙って目を閉じる」
「ええっ……」

目を閉じたらホントにキスするなんてことは……ないよね?
実際にはしないと言っていたし、私のいやがることはしないと最初に約束してくれたわけだし……。

「ほら、早く」
「う……うん……」

有無を言わさぬ圧力に負けておそるおそる目を閉じると、尚史の顔がゆっくりと近付いて来るのが気配でわかった。
私の身体中が小さく震え、心臓はバクバクと大きな音を立てて、膝の上で握りしめた手はじっとりと汗ばんでいる。
キス待ちの顔を尚史に見られているのだと思うと恥ずかしくてたまらない。
目を閉じたままじっとしていると、私の頬に何かが触れた。
すぐそばにある気配と頬に髪の毛があたる感触で、それが尚史の頬なのだとわかる。

「どう?なんとなくわかった?」

耳元で尚史が話しかけた。
その声が耳の奥に響いて体の芯がゾクゾクする。

「どうだろ……。緊張しすぎて……」
「じゃあ特訓だな。毎日しよう」
「えっ、これを毎日……?」
「これだけじゃないけどな」

尚史はいつもより低い声でそう言ったあと、私の頬に軽く頬ずりをして離れた。
私はホッとして大きく息をついた。
それでもまだ心臓はドキドキと大きな音を立てている。
この人誰……?
ホントにこれは尚史なのか……?
小さい頃からずっと一緒にいたはずなのに、こんな尚史を私は知らない。
もしかして突然俺様スイッチがONになっちゃう二重人格?
それともこんな一面をずっと隠してたとか……。
いや、まさか。
こんな漫画のイケメンヒーローみたいなことができるなら、今までの彼女との付き合いだってそれなりに続いたはずだ。
じゃあやっぱり私のためにイケメンヒーローを演じているのか?
尚史が急にイケメンキャラを発動させることはわかっていたはずなのに、私の想像を超えた言動には対処しきれない。

「モモ、顔赤い。大丈夫か?」

尚史は私の頭を撫でながら、また少し顔を近付けて私の顔を覗き込んだ。
いくら慣れるためだからって、いちいちそんなに近付けなくてもいいのに!
普段はあまり気にしていなかった尚史の整った顔立ちとか、いつもと違ってまっすぐに私を見つめる目とか、とにかくいろんなことが気になってしまうじゃないか!

「……なんとか。ちょっとビックリしただけ」
「ふーん……ちょっとか、余裕だな」

余裕なんてあるわけがない。
内心はめちゃくちゃ戸惑っているし、何がなんだかわけがわからない状態だ。
そんなのきっと尚史にはバレバレなのはわかっているけれど、私は必死でそれを隠そうと目をそらした。
尚史は海の方を見ながら、私の手をギュッと握る。
私はまた予想外の尚史の行動に驚き、そらしていた目を大きく見開いて尚史の方に顔を向けた。

「俺、考えたんだけど」

また何かとんでもないことを言うつもりなのか?
これまでこんなことはなかったはずなのに、今は尚史の考えていることがさっぱりわからない。

「う、うん……何?」
「もし八坂さんと付き合うことになったとしてさ、すぐに結婚しようって言わせるくらい惚れさせる自信ある?」

女子力0の私にそんな魅力があるとは、自分でも思えない。
ましてや相手はあのいかにもモテそうでリア充の代表みたいな八坂さんだ。
『光子おばあちゃんの望みを叶えるために結婚する』と意気込んだものの、結婚どころかお付き合いできるかどうかもわからない。
もし運良く付き合えたとしても、いきなり『結婚してください』とお願いしたところで、まともに取り合ってはもらえないだろう。

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