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大波乱の土曜日、悩める乙女は胃が痛い ~売り言葉を買ったらアカンやつがついてきた~
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土曜日の朝、まだ眠い目をこすりながらスマホのアラームで目覚めた。
枕元には明け方近くまで読んでいた漫画が散らかっている。
ゆうべはクタクタに疲れていたのに神経が昂ってなかなか眠れなかったけれど、尚史に電話はしなかった。
意識がハッキリしているうちに目を閉じると獣のような八坂さんの顔が浮かびそうだったので無理に眠ろうとせず、大好きな漫画『君のとなりにいたいから』全15巻を枕元に並べ、徹夜覚悟で読みふけった。
『君のとなりにいたいから』は高校生の甘酸っぱい青春ラブストーリーで、私を漫画沼に引きずり込むきっかけとなった作品だ。
少女向けの月刊誌に連載されていた当時、私はまだ小学生だったので読んだことがなかったけれど、連載が終わってから5年後に偶然歯医者の待合室でこの作品の単行本と出会い、すっかりハマって全巻そろえてしまった。
ヒロインのアンナちゃんとヒーローの翔くんは、何度読んでもため息が出るほど尊い。
何度も読んでいるから内容も台詞も覚えているはずなのに、久しぶりに読んでみると今までは気にも留めなかったアンナちゃんと翔くんの気持ちや言動がなんとなく気になった。
いつもすぐそばにいるんだから好きなら好きと言えばいいのにとか、どうして自分をどう思っているのか直接相手に聞かないのだろうとずっと思っていたけど、そばにいるからこそなかなか踏み込めない領域があるのだと、今ならなんとなく理解できる。
そしてアンナちゃんが親友だと思っていた翔くんへの恋心に気付くきっかけとなる出来事が起こる少し手前辺りで急に睡魔に襲われ、いつの間にか眠ってしまった。
読み散らかした漫画を本棚にしまい、顔を洗って朝食を取ろうとダイニングへ行くと、父は急な仕事が入ったらしくちょうど出掛けるところだった。
席についてコーヒーを飲みながらテレビの天気予報を見ていると、母がこんがり焼けたトーストとハムエッグが乗ったお皿を私に差し出す。
「今日はデートなんだっけ?」
……そうだった。
火曜日の晩に母から婚活はどうなっているのかと聞かれて、ちょっといい感じになっている人がいて土曜日にデートする予定だと話したんだった。
「その予定はなくなったから、今日は尚史と一緒に光子おばあちゃんのお見舞いに行く」
「あら?お付き合いするかもって言ってたのに、もうフラれたの?」
「フラれたっていうか……いろいろあって」
「いろいろって?」
八坂さんにじつは婚約者がいたことや、それを隠して私に手を出そうとしていたとか、襲われそうになって怖くて結婚をあきらめたなんて、母にはさすがに話せない。
毒舌な母のことだから『男を見る目がない』とか、『モモの勘違いだったんじゃないの?』と言うのが目に見えている。
「いろいろはいろいろだよ……。ちょっと問題があって、その人との結婚はありえないと思ったからお付き合いもしない」
「へえ、付き合う前にわかって良かったわね」
「それにやっぱり、結婚も無理だと思う」
「しょうがないんじゃない?」
母はあっけらかんとそう言った。
好きでもない人と無理して深い仲になる前に事実が発覚したことは私自身にとっては良かったのだろうけど、光子おばあちゃんの願いを叶えてあげられないのはやっぱりつらい。
「でも光子おばあちゃんはあんなに楽しみにしてるのに……私が結婚はしないって言ったら、がっかりさせちゃうかな」
「いくら花嫁姿が見られても、モモが不幸になったら光子おばあちゃんは喜ばないよ。結婚は一生のことなんだから、相手はちゃんと選ばないとね」
母もやっぱり尚史と同じことを言うんだな。
親として私のことを心配してくれているんだと思って少し感動していると、母は私の顔を見ながらニヤニヤ笑った。
枕元には明け方近くまで読んでいた漫画が散らかっている。
ゆうべはクタクタに疲れていたのに神経が昂ってなかなか眠れなかったけれど、尚史に電話はしなかった。
意識がハッキリしているうちに目を閉じると獣のような八坂さんの顔が浮かびそうだったので無理に眠ろうとせず、大好きな漫画『君のとなりにいたいから』全15巻を枕元に並べ、徹夜覚悟で読みふけった。
『君のとなりにいたいから』は高校生の甘酸っぱい青春ラブストーリーで、私を漫画沼に引きずり込むきっかけとなった作品だ。
少女向けの月刊誌に連載されていた当時、私はまだ小学生だったので読んだことがなかったけれど、連載が終わってから5年後に偶然歯医者の待合室でこの作品の単行本と出会い、すっかりハマって全巻そろえてしまった。
ヒロインのアンナちゃんとヒーローの翔くんは、何度読んでもため息が出るほど尊い。
何度も読んでいるから内容も台詞も覚えているはずなのに、久しぶりに読んでみると今までは気にも留めなかったアンナちゃんと翔くんの気持ちや言動がなんとなく気になった。
いつもすぐそばにいるんだから好きなら好きと言えばいいのにとか、どうして自分をどう思っているのか直接相手に聞かないのだろうとずっと思っていたけど、そばにいるからこそなかなか踏み込めない領域があるのだと、今ならなんとなく理解できる。
そしてアンナちゃんが親友だと思っていた翔くんへの恋心に気付くきっかけとなる出来事が起こる少し手前辺りで急に睡魔に襲われ、いつの間にか眠ってしまった。
読み散らかした漫画を本棚にしまい、顔を洗って朝食を取ろうとダイニングへ行くと、父は急な仕事が入ったらしくちょうど出掛けるところだった。
席についてコーヒーを飲みながらテレビの天気予報を見ていると、母がこんがり焼けたトーストとハムエッグが乗ったお皿を私に差し出す。
「今日はデートなんだっけ?」
……そうだった。
火曜日の晩に母から婚活はどうなっているのかと聞かれて、ちょっといい感じになっている人がいて土曜日にデートする予定だと話したんだった。
「その予定はなくなったから、今日は尚史と一緒に光子おばあちゃんのお見舞いに行く」
「あら?お付き合いするかもって言ってたのに、もうフラれたの?」
「フラれたっていうか……いろいろあって」
「いろいろって?」
八坂さんにじつは婚約者がいたことや、それを隠して私に手を出そうとしていたとか、襲われそうになって怖くて結婚をあきらめたなんて、母にはさすがに話せない。
毒舌な母のことだから『男を見る目がない』とか、『モモの勘違いだったんじゃないの?』と言うのが目に見えている。
「いろいろはいろいろだよ……。ちょっと問題があって、その人との結婚はありえないと思ったからお付き合いもしない」
「へえ、付き合う前にわかって良かったわね」
「それにやっぱり、結婚も無理だと思う」
「しょうがないんじゃない?」
母はあっけらかんとそう言った。
好きでもない人と無理して深い仲になる前に事実が発覚したことは私自身にとっては良かったのだろうけど、光子おばあちゃんの願いを叶えてあげられないのはやっぱりつらい。
「でも光子おばあちゃんはあんなに楽しみにしてるのに……私が結婚はしないって言ったら、がっかりさせちゃうかな」
「いくら花嫁姿が見られても、モモが不幸になったら光子おばあちゃんは喜ばないよ。結婚は一生のことなんだから、相手はちゃんと選ばないとね」
母もやっぱり尚史と同じことを言うんだな。
親として私のことを心配してくれているんだと思って少し感動していると、母は私の顔を見ながらニヤニヤ笑った。
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