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大波乱の土曜日、悩める乙女は胃が痛い ~売り言葉を買ったらアカンやつがついてきた~
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どうすれば丸くおさまるのかと考えているうちにだんだん家が近付いてくる。
「アップルパイ焼くから、時間あるならうちに寄ってって、おふくろが」
尚史がハンドルを握りながらそう言うと、母は嬉しそうにポンと手を打った。
「嬉しいわ、洋子ちゃんのアップルパイ美味しいのよねぇ。もちろんモモも行くでしょ?」
「えっ?ああ、うん……」
本当は一人になっていろいろ考えたかったけれど、私も洋子ママのアップルパイは大好物だし、きっと一人で考えても答えは出ないからおじゃますることにした。
アップルパイをいただいたあとは、今後のことを尚史とちゃんと話さなければ。
尚史の家に着くと、甘酸っぱいリンゴと香ばしいバターの香りが家中に漂っていた。
小さい頃から大好きな、洋子ママお手製のアップルパイの香りだ。
リビングでは洋子ママがアップルパイを切り分けていた。
「おかえりなさい、ちょうどアップルパイが焼けたところよ。お昼はもう済んだの?」
「まだ。腹減った」
洋子ママの問い掛けに、尚史は水を飲みながら答える。
「じゃあ先にお昼御飯ね。今用意するから座ってて」
少し遅い昼食に、洋子ママの実家から送ってきたという野菜をたっぷり使ったパスタとスープをいただいた。
食事が済むと母は洋子ママが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、洋子ママに光子おばあちゃんの様子を詳しく話して聞かせた。
「今日は機嫌も顔色も良くてね、たくさん話せたのよ。尚史くんが来てくれてすごく喜んでたわ」
「良かった、尚史のことちゃんと覚えててくれたのね」
光子おばあちゃんが私の家で生活していたときに、洋子ママも何度も光子おばあちゃんに会って一緒にお茶を飲んだり食事をしたりしていたから、ずっと容態を気にかけてくれているようだ。
「おばあちゃんね、モモと尚史くんが結婚すると思ってるのよ。昔から二人の結婚式に出るのが夢だったんだって」
母は光子おばあちゃんの言った言葉を楽しそうに話すけれど、私はこれからのことを考えるとだんだん胃が痛くなってきた。
洋子ママは少し驚いた顔で「あらまぁ」と口を押さえる。
「それでどうしたの?」
「尚史くんが、俺がモモを幸せにするから安心して、って。元気になって必ず結婚式に来てよって言ってくれて、おばあちゃんすごく嬉しそうだった」
「へえぇ……尚史、あんたそんな気の利いたことが言えるのね」
洋子ママがアップルパイをお皿に取り分けながらチラッと尚史の方を見ると、尚史はそれには答えず黙ってコーヒーを飲んでいた。
さすがに『そんなのはおばあちゃんをがっかりさせないための、その場しのぎの嘘だ』とは私と母の前では言いづらいのかな。
尚史には余命わずかな光子おばあちゃんに対して嘘までつかせて、なんだか申し訳ない。
母はそんな私の気も知らず、相変わらず楽しそうに話し続ける。
「聞いてよ、洋子ちゃん。モモったらね、光子おばあちゃんを喜ばせるために結婚するって言って婚活始めたでしょ?それでいい感じだと思ってた人にフラれて結婚はあきらめるって言ってたのに、やっぱりあきらめきれないからまた婚活再開するって」
「だからフラれてはいないって!」
母は私の話を全然聞いていない。
フラれたんじゃなくて、むしろ私の方が無理だと思ったから拒否ったんだって言うのに!
だけどもう言い訳をする気力もない。
婚活再開の前に巨大な壁にぶち当たってしまったんだから。
「彼氏もいないし家事もろくにできないのに結婚なんて無理だって言ってるんだけどねぇ、この子ったら往生際が悪くて。尚史くん、申し訳ないけどモモを嫁にもらってやってくれない?」
母は悪びれもせず、笑いながらとんでもないことをのたまった。
私は口に入れたアップルパイをあやうく吹き出しそうになる。
「アップルパイ焼くから、時間あるならうちに寄ってって、おふくろが」
尚史がハンドルを握りながらそう言うと、母は嬉しそうにポンと手を打った。
「嬉しいわ、洋子ちゃんのアップルパイ美味しいのよねぇ。もちろんモモも行くでしょ?」
「えっ?ああ、うん……」
本当は一人になっていろいろ考えたかったけれど、私も洋子ママのアップルパイは大好物だし、きっと一人で考えても答えは出ないからおじゃますることにした。
アップルパイをいただいたあとは、今後のことを尚史とちゃんと話さなければ。
尚史の家に着くと、甘酸っぱいリンゴと香ばしいバターの香りが家中に漂っていた。
小さい頃から大好きな、洋子ママお手製のアップルパイの香りだ。
リビングでは洋子ママがアップルパイを切り分けていた。
「おかえりなさい、ちょうどアップルパイが焼けたところよ。お昼はもう済んだの?」
「まだ。腹減った」
洋子ママの問い掛けに、尚史は水を飲みながら答える。
「じゃあ先にお昼御飯ね。今用意するから座ってて」
少し遅い昼食に、洋子ママの実家から送ってきたという野菜をたっぷり使ったパスタとスープをいただいた。
食事が済むと母は洋子ママが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、洋子ママに光子おばあちゃんの様子を詳しく話して聞かせた。
「今日は機嫌も顔色も良くてね、たくさん話せたのよ。尚史くんが来てくれてすごく喜んでたわ」
「良かった、尚史のことちゃんと覚えててくれたのね」
光子おばあちゃんが私の家で生活していたときに、洋子ママも何度も光子おばあちゃんに会って一緒にお茶を飲んだり食事をしたりしていたから、ずっと容態を気にかけてくれているようだ。
「おばあちゃんね、モモと尚史くんが結婚すると思ってるのよ。昔から二人の結婚式に出るのが夢だったんだって」
母は光子おばあちゃんの言った言葉を楽しそうに話すけれど、私はこれからのことを考えるとだんだん胃が痛くなってきた。
洋子ママは少し驚いた顔で「あらまぁ」と口を押さえる。
「それでどうしたの?」
「尚史くんが、俺がモモを幸せにするから安心して、って。元気になって必ず結婚式に来てよって言ってくれて、おばあちゃんすごく嬉しそうだった」
「へえぇ……尚史、あんたそんな気の利いたことが言えるのね」
洋子ママがアップルパイをお皿に取り分けながらチラッと尚史の方を見ると、尚史はそれには答えず黙ってコーヒーを飲んでいた。
さすがに『そんなのはおばあちゃんをがっかりさせないための、その場しのぎの嘘だ』とは私と母の前では言いづらいのかな。
尚史には余命わずかな光子おばあちゃんに対して嘘までつかせて、なんだか申し訳ない。
母はそんな私の気も知らず、相変わらず楽しそうに話し続ける。
「聞いてよ、洋子ちゃん。モモったらね、光子おばあちゃんを喜ばせるために結婚するって言って婚活始めたでしょ?それでいい感じだと思ってた人にフラれて結婚はあきらめるって言ってたのに、やっぱりあきらめきれないからまた婚活再開するって」
「だからフラれてはいないって!」
母は私の話を全然聞いていない。
フラれたんじゃなくて、むしろ私の方が無理だと思ったから拒否ったんだって言うのに!
だけどもう言い訳をする気力もない。
婚活再開の前に巨大な壁にぶち当たってしまったんだから。
「彼氏もいないし家事もろくにできないのに結婚なんて無理だって言ってるんだけどねぇ、この子ったら往生際が悪くて。尚史くん、申し訳ないけどモモを嫁にもらってやってくれない?」
母は悪びれもせず、笑いながらとんでもないことをのたまった。
私は口に入れたアップルパイをあやうく吹き出しそうになる。
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