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不毛な関係
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勲は元々仕事はできる方だし、背が高くて顔も良くて、社内では注目されていた。
そんな勲に専務の娘の七海が目をつけた。
七海は専務である父親のコネで入社して、総務部に勤めている。
専務の娘だから縁談を断れなかったと勲は言うけど、断れなかったんじゃなくて断らなかったんだろう。
勲にとって専務の娘との結婚は、出世を約束されたようなもの。
それに七海は、清楚でいかにもお嬢様という感じの、社内でも評判の美人だ。
そんな美味しい話を断るバカなんていない。
勲は若くて綺麗な奥さんをもらってまんまと出世コースに乗った上に、惚れた弱味につけ込んで私との関係を続ける。
私が『もう終わりにしよう』と言えば、呆気なく終わるような体だけの関係なのだろうけど、不毛だとわかっていても、私は勲に必要とされる唯一の手段であるこの関係を断ち切れない。
こんな事を続けて何になるんだろうという思いは日に日に増すものの、嘘だとわかっていても勲に『愛してる』と言われると抗えない。
虚しさだけが募ると言うのに。
世の中は不公平だ。
昼休み、社員食堂の前でばったり應汰と出会った。
「あ、久しぶり」
「おー、久しぶりだな」
應汰は当たり前のように私の隣の席に座る。
「最近どうしてた?」
「仕事忙しかった。会社辞めた後輩の取引先を引き継いでな。おかげで……」
「またフラれた?」
私が尋ねると、應汰は眉を寄せて面白くなさそうな顔をした。
「なんだ、知ってるなら言うなよ」
「今朝の朝礼で聞いた。他の人と結婚するんだってね」
「そうなんだよな……。俺が結婚はまだ先かなって言ったら、他の男にあっさり乗り換えたよ、あの子。付き合って3か月で結婚も何もないだろ?」
これはめんどくさい話になりそうだ。
昼間の社員食堂で、シラフで聞けるような明るい話題ではない。
これ以上應汰が絡んでくる前に、この話はさっさと切り上げよう。
「わかったわかった。ホラ、これやるから絡まないで」
おかずの皿に唐揚げを乗せてやると、應汰はため息をつきながらそれを口に運んだ。
「子供じゃねぇっつーの……」
文句を言いながらも、もらったものは食べるらしい。
子供扱いしたつもりはないけれど、付き合いがそれなりに長いこともあってか、應汰は私がこの話を早々に終わらせたかったことを、私のそっけない態度で察したようだ。
「芙佳、金曜飲みに行こう。奢るから」
「金曜ね……」
金曜に会いに行ってもいいかと勲がメモに書いていた事を思い出した。
少し考えていると、應汰は不服そうに音をたてて味噌汁をすすった。
「なんだよ……。友達がフラれて落ち込んでるってのに、芙佳は彼氏とデートかよ……」
勲は彼氏じゃないし、あんなのはデートでもない。
ただ家庭では満たされない性欲と支配欲を満たしたくて、私の部屋に来るんだと思う。
「いや……大丈夫だよ、金曜ね。應汰の奢りなら遠慮なく飲めるわ」
「おう、飲め飲め。そんで俺のために一緒に泣いてくれ!」
「女々しいなぁ……」
どうせ実のない関係なら、失恋して落ち込んでいる友達を元気づける方がいいに決まってる。
いい加減、勲の嘘も聞き飽きた。
金曜の夜なんてドタキャンされる可能性だってあるし、たまにはこっちから断ってやろう。
私に断られたって、家に帰れば綺麗な奥さんが待っているんだもの。
勲にとっては痛くもかゆくもないはずだ。
そんな勲に専務の娘の七海が目をつけた。
七海は専務である父親のコネで入社して、総務部に勤めている。
専務の娘だから縁談を断れなかったと勲は言うけど、断れなかったんじゃなくて断らなかったんだろう。
勲にとって専務の娘との結婚は、出世を約束されたようなもの。
それに七海は、清楚でいかにもお嬢様という感じの、社内でも評判の美人だ。
そんな美味しい話を断るバカなんていない。
勲は若くて綺麗な奥さんをもらってまんまと出世コースに乗った上に、惚れた弱味につけ込んで私との関係を続ける。
私が『もう終わりにしよう』と言えば、呆気なく終わるような体だけの関係なのだろうけど、不毛だとわかっていても、私は勲に必要とされる唯一の手段であるこの関係を断ち切れない。
こんな事を続けて何になるんだろうという思いは日に日に増すものの、嘘だとわかっていても勲に『愛してる』と言われると抗えない。
虚しさだけが募ると言うのに。
世の中は不公平だ。
昼休み、社員食堂の前でばったり應汰と出会った。
「あ、久しぶり」
「おー、久しぶりだな」
應汰は当たり前のように私の隣の席に座る。
「最近どうしてた?」
「仕事忙しかった。会社辞めた後輩の取引先を引き継いでな。おかげで……」
「またフラれた?」
私が尋ねると、應汰は眉を寄せて面白くなさそうな顔をした。
「なんだ、知ってるなら言うなよ」
「今朝の朝礼で聞いた。他の人と結婚するんだってね」
「そうなんだよな……。俺が結婚はまだ先かなって言ったら、他の男にあっさり乗り換えたよ、あの子。付き合って3か月で結婚も何もないだろ?」
これはめんどくさい話になりそうだ。
昼間の社員食堂で、シラフで聞けるような明るい話題ではない。
これ以上應汰が絡んでくる前に、この話はさっさと切り上げよう。
「わかったわかった。ホラ、これやるから絡まないで」
おかずの皿に唐揚げを乗せてやると、應汰はため息をつきながらそれを口に運んだ。
「子供じゃねぇっつーの……」
文句を言いながらも、もらったものは食べるらしい。
子供扱いしたつもりはないけれど、付き合いがそれなりに長いこともあってか、應汰は私がこの話を早々に終わらせたかったことを、私のそっけない態度で察したようだ。
「芙佳、金曜飲みに行こう。奢るから」
「金曜ね……」
金曜に会いに行ってもいいかと勲がメモに書いていた事を思い出した。
少し考えていると、應汰は不服そうに音をたてて味噌汁をすすった。
「なんだよ……。友達がフラれて落ち込んでるってのに、芙佳は彼氏とデートかよ……」
勲は彼氏じゃないし、あんなのはデートでもない。
ただ家庭では満たされない性欲と支配欲を満たしたくて、私の部屋に来るんだと思う。
「いや……大丈夫だよ、金曜ね。應汰の奢りなら遠慮なく飲めるわ」
「おう、飲め飲め。そんで俺のために一緒に泣いてくれ!」
「女々しいなぁ……」
どうせ実のない関係なら、失恋して落ち込んでいる友達を元気づける方がいいに決まってる。
いい加減、勲の嘘も聞き飽きた。
金曜の夜なんてドタキャンされる可能性だってあるし、たまにはこっちから断ってやろう。
私に断られたって、家に帰れば綺麗な奥さんが待っているんだもの。
勲にとっては痛くもかゆくもないはずだ。
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