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諸刃の剣
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お昼過ぎに應汰の家のそばのファミレスで食事をした後、自宅に戻った。
シャワーを浴びて、コーヒーを飲みながらぼんやりと窓の外を眺める。
まさか應汰に迫られるとは、なんだか思ってもみない展開になった。
明日デートしようと應汰は言ったけど、應汰とのデートってどんな感じなんだろう?
そういえば、ここ何年かはデートらしいデートなんてした事がなかった。
恋人同士の頃は勲の車で遠出もしたし、街の中を腕を組んで歩いたり、旅行に行ったりもした。
だけど勲が結婚してからは、当たり前にしていたそんなことが許されない関係になった。
人目を避けて夜に私の部屋で過ごすのが当たり前になり、ほんの僅かなその時間でさえベッドで抱き合うだけ。
私以外に帰る場所ができた勲は、以前のように私の部屋で朝を迎えることはなくなった。
抱き合った余韻に浸る暇もなく、私と一緒にいた痕跡を残さず帰っていく。
勲はきっと、七海に求められないような事を私に求めているんだと思う。
そのくせ、私が他の人と会う事に嫉妬なんかして、身勝手にもほどがある。
いつまでも勲の言いなりになんかならない。
この先どれだけ勲と一緒にいたところで、私には求めても手に入らない物が多すぎる。
もしかして……。
バッグの中からスマホを取り出し、着信履歴を見てため息をついた。
──やっぱり。
夕べはマナーモードにしていたから気付かなかったけれど、應汰と一緒にいる間にも勲からの着信が何度もあったようだ。
そしてトークメッセージの通知に気付き、画面を開いた。
【どこにいるんだ?まだ帰ってないのか?】
……うるさいな。
私がどこで誰と何してようがあなたには関係ない。
変な束縛とか嫉妬なんかしないで。
私の名前を男の名前で登録しているくせに。
夜になり、ビールを飲みながら簡単な夕食を済ませた。
明日は何を着ていこうか。
どこに行って何をする予定なのかもわからないから、ちょっとくらいは動ける程度の無難な服を選んだ方が良さそうだ。
明日着ていく服を選ぼうかと立ち上がった時、チャイムが鳴った。
時計の針は9時を少し回った所を指している。
こんな時間に急に訪ねてくる人なんて……。
ドアモニターを確認すると、案の定勲の姿が映っていた。
正直に言うと今は会いたくない。
このまま出るのをよそうかと思ったけれど、苛立ったように短い間隔でチャイムは何度も鳴り続ける。
仕方なくそっとドアを開けると、勲はその隙間をこじ開けるようにして、強引に体をねじ込んだ。
どこかで飲んで来たのか、少し酔っているようだ。
「芙佳」
「土曜日の夜に突然なんの用?」
勲の居るべき場所がここではないと気付かせたくて目一杯のイヤミを言ってやると、勲は拳をグッと握りしめた。
「夕べは帰って来なかったのか?」
「それがどうかした?」
「あの男と一緒だったんだろ?」
やっぱり勲は、エレベーターで應汰が私に声を掛けたところを見ていたようだ。
まさかあれからずっと、私と應汰がどんな風に過ごしているのかを気にしていた?
もしそうだとしたら、少しは私の気持ちがわかったんじゃないか。
実際は私の方が何倍も苦い思いをしてきたのだから、それくらいのことで私を責めるのはおかしい。
「私が誰とどこで何をしようが、あなたには関係ないでしょ?」
突き放すように冷たく答えると、勲はもどかしそうに靴を脱ぎ、私の体をグイグイ押して部屋の奥へと追い込んで、痛いほど強く私を抱きしめた。
シャワーを浴びて、コーヒーを飲みながらぼんやりと窓の外を眺める。
まさか應汰に迫られるとは、なんだか思ってもみない展開になった。
明日デートしようと應汰は言ったけど、應汰とのデートってどんな感じなんだろう?
そういえば、ここ何年かはデートらしいデートなんてした事がなかった。
恋人同士の頃は勲の車で遠出もしたし、街の中を腕を組んで歩いたり、旅行に行ったりもした。
だけど勲が結婚してからは、当たり前にしていたそんなことが許されない関係になった。
人目を避けて夜に私の部屋で過ごすのが当たり前になり、ほんの僅かなその時間でさえベッドで抱き合うだけ。
私以外に帰る場所ができた勲は、以前のように私の部屋で朝を迎えることはなくなった。
抱き合った余韻に浸る暇もなく、私と一緒にいた痕跡を残さず帰っていく。
勲はきっと、七海に求められないような事を私に求めているんだと思う。
そのくせ、私が他の人と会う事に嫉妬なんかして、身勝手にもほどがある。
いつまでも勲の言いなりになんかならない。
この先どれだけ勲と一緒にいたところで、私には求めても手に入らない物が多すぎる。
もしかして……。
バッグの中からスマホを取り出し、着信履歴を見てため息をついた。
──やっぱり。
夕べはマナーモードにしていたから気付かなかったけれど、應汰と一緒にいる間にも勲からの着信が何度もあったようだ。
そしてトークメッセージの通知に気付き、画面を開いた。
【どこにいるんだ?まだ帰ってないのか?】
……うるさいな。
私がどこで誰と何してようがあなたには関係ない。
変な束縛とか嫉妬なんかしないで。
私の名前を男の名前で登録しているくせに。
夜になり、ビールを飲みながら簡単な夕食を済ませた。
明日は何を着ていこうか。
どこに行って何をする予定なのかもわからないから、ちょっとくらいは動ける程度の無難な服を選んだ方が良さそうだ。
明日着ていく服を選ぼうかと立ち上がった時、チャイムが鳴った。
時計の針は9時を少し回った所を指している。
こんな時間に急に訪ねてくる人なんて……。
ドアモニターを確認すると、案の定勲の姿が映っていた。
正直に言うと今は会いたくない。
このまま出るのをよそうかと思ったけれど、苛立ったように短い間隔でチャイムは何度も鳴り続ける。
仕方なくそっとドアを開けると、勲はその隙間をこじ開けるようにして、強引に体をねじ込んだ。
どこかで飲んで来たのか、少し酔っているようだ。
「芙佳」
「土曜日の夜に突然なんの用?」
勲の居るべき場所がここではないと気付かせたくて目一杯のイヤミを言ってやると、勲は拳をグッと握りしめた。
「夕べは帰って来なかったのか?」
「それがどうかした?」
「あの男と一緒だったんだろ?」
やっぱり勲は、エレベーターで應汰が私に声を掛けたところを見ていたようだ。
まさかあれからずっと、私と應汰がどんな風に過ごしているのかを気にしていた?
もしそうだとしたら、少しは私の気持ちがわかったんじゃないか。
実際は私の方が何倍も苦い思いをしてきたのだから、それくらいのことで私を責めるのはおかしい。
「私が誰とどこで何をしようが、あなたには関係ないでしょ?」
突き放すように冷たく答えると、勲はもどかしそうに靴を脱ぎ、私の体をグイグイ押して部屋の奥へと追い込んで、痛いほど強く私を抱きしめた。
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