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嫉妬する資格なんかない
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「わかってるよ!俺に嫉妬する資格なんかないって!!俺が一方的に芙佳を好きで、彼氏の事が好きな芙佳に俺の勝手な気持ち押し付けて……全部俺の独りよがりだ……」
「應汰……」
どうしてこんな時に何も言えないんだろう?
せめて應汰を抱きしめられたらと思うのに、私の手は言うことを聞いてくれない。
ただ黙り込むだけの私から、應汰はゆっくりと手を離した。
「ごめん……カッコ悪いな、俺」
應汰はクローゼットの中から取り出したシャツを着て、シャツのボタンを留めながら自嘲気味に笑う。
「我慢できなくなって襲っちゃう前に送ってくわ」
「……うん」
應汰は着替えを終えると、優しく私を抱きしめて髪を撫で、ほんの一瞬、頬に掠めるようなキスをした。
「芙佳、好きだ。俺が嫉妬でおかしくなる前に早く俺を好きになれ。……待ってるから」
なんだか胸が痛い。
どんなに好きでも、いくら一緒にいても自分のものにならない人を想うつらさを、私は知っている。
ほんの少し手を伸ばせば触れられるほどそばにいるのに届かない想いを、いくつも心に閉じ込めた。
胸が痛くて、どれだけ息を吸っても苦しくて、満たされない心がズキズキと疼く。
私は應汰に、私と同じ想いをさせている。
それから應汰は車で送ってくれた。
いつもと違う重い空気に押し潰されそうになる。
マンションの前に着くと、應汰は車を停めてゆっくりと私の方を見た。
「さっきはごめんな。みっともないとこ見せて」
「ううん、みっともなくなんかない。應汰が真剣に私を想ってくれてるの、すごく嬉しいよ。ただ……もう少しだけ……」
「時間が欲しい……か?」
「ごめん……」
「謝んな、バカ」
應汰は私の頭をポンポンと優しく叩いて、まっすぐに私の目を見た。
「絶対俺に惚れさせてみせるからな。芙佳の方からキスしてくれるの、楽しみに待ってる」
いつも通りの俺様っぷりに安心して、思わず笑ってしまった。
私が笑ってホッとしたのか、應汰もいつものように優しい目をして笑う。
「好きだぞ、芙佳」
こんなふうに自信満々に好きだと言われるの、悪くないかも知れない。
些細な事で心が揺れ動かないようになったら、私もまっすぐな気持ちで應汰と向き合える気がした。
車を降りる前にバッグの中から家の鍵を出した。
私はよく玄関の前で、バッグの中で行方不明になった鍵を探す事がある。
決めた場所に入れているはずなのに、物を出し入れしているうちに、私の鍵はなぜかバッグの中を徘徊してしまう。
鍵を探しながらその話をすると、應汰は笑いながら、バッグにいろいろ入れすぎなんじゃないのかと言った。
確かに應汰の言う通りかも知れない。
要らないものを減らしても、私のバッグはまたすぐに重くなる。
滅多に使わない物を『もしかしたら必要かも』と思って持ち歩く癖が私にはあるから、これからはなんでもかんでもバッグに詰め込まないように気を付けようと思う。
そんなことを言いながらようやく鍵を見つけ出すと、應汰は『早く同じ鍵を持てるようになりたい』とポツリと呟いた。
明日も会う約束をした。
特に行く宛はないけれど『明日はショッピングモールでもブラブラしよう』と應汰が言った。
車を降りてマンションのエントランスを通り、右手に鍵を持って自分の部屋に向かう。
階段を昇りきって廊下を歩き出した時、私の部屋のドアの前で人影が動いた。
誰かが通路の壁にもたれて立っている。
それが勲だと気付くと、足がすくんで動けなくなった。
私の存在に気付いた勲は足早に私に近寄り、強引に手を引いて部屋の前に連れていく。
そして私の右手から取り上げた鍵で玄関の鍵を開け、ドアを開いて私を押し込み、後ろ手に鍵を閉めて強く私を抱きしめた。
「應汰……」
どうしてこんな時に何も言えないんだろう?
せめて應汰を抱きしめられたらと思うのに、私の手は言うことを聞いてくれない。
ただ黙り込むだけの私から、應汰はゆっくりと手を離した。
「ごめん……カッコ悪いな、俺」
應汰はクローゼットの中から取り出したシャツを着て、シャツのボタンを留めながら自嘲気味に笑う。
「我慢できなくなって襲っちゃう前に送ってくわ」
「……うん」
應汰は着替えを終えると、優しく私を抱きしめて髪を撫で、ほんの一瞬、頬に掠めるようなキスをした。
「芙佳、好きだ。俺が嫉妬でおかしくなる前に早く俺を好きになれ。……待ってるから」
なんだか胸が痛い。
どんなに好きでも、いくら一緒にいても自分のものにならない人を想うつらさを、私は知っている。
ほんの少し手を伸ばせば触れられるほどそばにいるのに届かない想いを、いくつも心に閉じ込めた。
胸が痛くて、どれだけ息を吸っても苦しくて、満たされない心がズキズキと疼く。
私は應汰に、私と同じ想いをさせている。
それから應汰は車で送ってくれた。
いつもと違う重い空気に押し潰されそうになる。
マンションの前に着くと、應汰は車を停めてゆっくりと私の方を見た。
「さっきはごめんな。みっともないとこ見せて」
「ううん、みっともなくなんかない。應汰が真剣に私を想ってくれてるの、すごく嬉しいよ。ただ……もう少しだけ……」
「時間が欲しい……か?」
「ごめん……」
「謝んな、バカ」
應汰は私の頭をポンポンと優しく叩いて、まっすぐに私の目を見た。
「絶対俺に惚れさせてみせるからな。芙佳の方からキスしてくれるの、楽しみに待ってる」
いつも通りの俺様っぷりに安心して、思わず笑ってしまった。
私が笑ってホッとしたのか、應汰もいつものように優しい目をして笑う。
「好きだぞ、芙佳」
こんなふうに自信満々に好きだと言われるの、悪くないかも知れない。
些細な事で心が揺れ動かないようになったら、私もまっすぐな気持ちで應汰と向き合える気がした。
車を降りる前にバッグの中から家の鍵を出した。
私はよく玄関の前で、バッグの中で行方不明になった鍵を探す事がある。
決めた場所に入れているはずなのに、物を出し入れしているうちに、私の鍵はなぜかバッグの中を徘徊してしまう。
鍵を探しながらその話をすると、應汰は笑いながら、バッグにいろいろ入れすぎなんじゃないのかと言った。
確かに應汰の言う通りかも知れない。
要らないものを減らしても、私のバッグはまたすぐに重くなる。
滅多に使わない物を『もしかしたら必要かも』と思って持ち歩く癖が私にはあるから、これからはなんでもかんでもバッグに詰め込まないように気を付けようと思う。
そんなことを言いながらようやく鍵を見つけ出すと、應汰は『早く同じ鍵を持てるようになりたい』とポツリと呟いた。
明日も会う約束をした。
特に行く宛はないけれど『明日はショッピングモールでもブラブラしよう』と應汰が言った。
車を降りてマンションのエントランスを通り、右手に鍵を持って自分の部屋に向かう。
階段を昇りきって廊下を歩き出した時、私の部屋のドアの前で人影が動いた。
誰かが通路の壁にもたれて立っている。
それが勲だと気付くと、足がすくんで動けなくなった。
私の存在に気付いた勲は足早に私に近寄り、強引に手を引いて部屋の前に連れていく。
そして私の右手から取り上げた鍵で玄関の鍵を開け、ドアを開いて私を押し込み、後ろ手に鍵を閉めて強く私を抱きしめた。
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