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雨に濡れても
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私はお酒の勢いに任せてたった一度セックスしただけで、應汰の恋人でもないし、もうただの友達に戻る事もできないだろう。
勲と一緒にいられない寂しさや失恋の痛みを忘れるために、あんなに好きだと言ってくれた應汰を利用して傷付けた私には、引き留める資格なんてない。
どんなに口説いてもなかなかなびかない私を切り捨てた應汰が、他の女の子を選んでも不思議じゃないと思う。
應汰は私のものじゃないんだから、他の人と付き合うのも私から離れるのも自由だ。
だけどなんとなく胸がモヤモヤするなんて、私はどこまで自分勝手なんだろう。
白ワインを飲みながらぼんやりしていると、何か思い出したのか、美緒がポンと手を打った。
「山岸って、モテるけど誰とも長続きしないじゃない?」
「うん、そうだね」
その理由を應汰本人の口から聞いた私は、ちょっと複雑な気持ちだ。
いくらなんでも『私のせいなんだって』とは言えないから、何も知らないふりをする。
「山岸によっぽど問題でもあるのかと思って、前に付き合ってた子に聞いてみたんだけどさ」
「うん……」
彼女といる時の應汰は全然想像がつかないと思ってたけど、やっぱり私にしてくれたみたいに甘いのかな?
そう考えるとまた胸の中がモヤッとする。
「山岸、結構冷たいらしいよ。エッチも全然優しくないし、普段もベタベタしたらイヤな顔されるし、ちょっと口論になって泣いたら、泣くな!って怒られたんだって。彼女になっても好きとか言ってくれないし、全然甘くないからイヤになって別れたらしい」
「……そうなの?」
私の知っている應汰とは全然違う。
應汰はいつも『泣きたいだけ泣け』と言って、私が泣きやむまで優しく抱きしめてくれた。
毎日飽きもせず『好きだ』とか『俺の嫁になれ』と言って、甘えたり甘やかしたり、ベタベタしてくるのはいつも應汰だったし、あの夜も何度も好きだと言って最後まで優しく私を抱いてくれた。
いつだって應汰は私に優しかった。
「芙佳といる時はどう?」
「ん……?ふざけてしょっちゅう変な事も言うけど……すごく優しいよ」
「それって友達だからなのかなぁ。それともやっぱり、芙佳だからなのかなぁ……」
「……どうかな」
少なくとも應汰は、私には特別優しくしてくれたんだなと、今更ながら思う。
私は應汰の優しさと甘さに慣れきっていた。
新しい彼女ができたのなら、私とはもう一緒にいてくれないんだろうな。
……当たり前か。
別れても勲を忘れられなくて應汰の気持ちには応えなかったくせに、應汰が離れて行く事を寂しく思うなんて、私って本当にイヤな女だ。
こんな勝手な自分に嫌気がさす。
せめて應汰が『おまえなんか大嫌いだ』と言って罵ってくれたらいいのに。
それから2時間もすると、料理はすべて綺麗になくなり、ワインのボトルもすっかりカラになった。
そろそろいい時間だ。
「山岸、あの子と付き合ってるのかなぁ」
「さあ……。本人に直接聞いてみたら?」
美緒はまだ納得いかないようだけど、私にはそれしか言えない。
應汰が今何を考えているかなんて、私にだってわからないのだから。
「そろそろ出ようか」
「うん、そうだね」
割り勘にして会計を済ませ店を出た。
バス通勤の美緒とは帰る方向が真逆なので店の前で別れ、一人で歩いていると空からポツポツと雨粒が落ちてきた。
傘を持っていない私は足早に駅へ向かう。
駅までは結構な距離があるけど本降りになる前に駅に着けばいいなと思っていたのに、雨脚は次第に強まり、傘の花が街のあちこちで開き始める。
私は仕方なく近くの店の軒下に飛び込んだ。
勲と一緒にいられない寂しさや失恋の痛みを忘れるために、あんなに好きだと言ってくれた應汰を利用して傷付けた私には、引き留める資格なんてない。
どんなに口説いてもなかなかなびかない私を切り捨てた應汰が、他の女の子を選んでも不思議じゃないと思う。
應汰は私のものじゃないんだから、他の人と付き合うのも私から離れるのも自由だ。
だけどなんとなく胸がモヤモヤするなんて、私はどこまで自分勝手なんだろう。
白ワインを飲みながらぼんやりしていると、何か思い出したのか、美緒がポンと手を打った。
「山岸って、モテるけど誰とも長続きしないじゃない?」
「うん、そうだね」
その理由を應汰本人の口から聞いた私は、ちょっと複雑な気持ちだ。
いくらなんでも『私のせいなんだって』とは言えないから、何も知らないふりをする。
「山岸によっぽど問題でもあるのかと思って、前に付き合ってた子に聞いてみたんだけどさ」
「うん……」
彼女といる時の應汰は全然想像がつかないと思ってたけど、やっぱり私にしてくれたみたいに甘いのかな?
そう考えるとまた胸の中がモヤッとする。
「山岸、結構冷たいらしいよ。エッチも全然優しくないし、普段もベタベタしたらイヤな顔されるし、ちょっと口論になって泣いたら、泣くな!って怒られたんだって。彼女になっても好きとか言ってくれないし、全然甘くないからイヤになって別れたらしい」
「……そうなの?」
私の知っている應汰とは全然違う。
應汰はいつも『泣きたいだけ泣け』と言って、私が泣きやむまで優しく抱きしめてくれた。
毎日飽きもせず『好きだ』とか『俺の嫁になれ』と言って、甘えたり甘やかしたり、ベタベタしてくるのはいつも應汰だったし、あの夜も何度も好きだと言って最後まで優しく私を抱いてくれた。
いつだって應汰は私に優しかった。
「芙佳といる時はどう?」
「ん……?ふざけてしょっちゅう変な事も言うけど……すごく優しいよ」
「それって友達だからなのかなぁ。それともやっぱり、芙佳だからなのかなぁ……」
「……どうかな」
少なくとも應汰は、私には特別優しくしてくれたんだなと、今更ながら思う。
私は應汰の優しさと甘さに慣れきっていた。
新しい彼女ができたのなら、私とはもう一緒にいてくれないんだろうな。
……当たり前か。
別れても勲を忘れられなくて應汰の気持ちには応えなかったくせに、應汰が離れて行く事を寂しく思うなんて、私って本当にイヤな女だ。
こんな勝手な自分に嫌気がさす。
せめて應汰が『おまえなんか大嫌いだ』と言って罵ってくれたらいいのに。
それから2時間もすると、料理はすべて綺麗になくなり、ワインのボトルもすっかりカラになった。
そろそろいい時間だ。
「山岸、あの子と付き合ってるのかなぁ」
「さあ……。本人に直接聞いてみたら?」
美緒はまだ納得いかないようだけど、私にはそれしか言えない。
應汰が今何を考えているかなんて、私にだってわからないのだから。
「そろそろ出ようか」
「うん、そうだね」
割り勘にして会計を済ませ店を出た。
バス通勤の美緒とは帰る方向が真逆なので店の前で別れ、一人で歩いていると空からポツポツと雨粒が落ちてきた。
傘を持っていない私は足早に駅へ向かう。
駅までは結構な距離があるけど本降りになる前に駅に着けばいいなと思っていたのに、雨脚は次第に強まり、傘の花が街のあちこちで開き始める。
私は仕方なく近くの店の軒下に飛び込んだ。
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