血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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出会い

最愛の弟

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【地下街・マチルダの帰還/静かなはずの夜】

殺し屋の任務は、完璧だった。

標的の居場所、警備の配置、逃走ルート。
マチルダはすべてを一度で頭に叩き込み、迷いなく、感情なく、確実に喉を切り裂いた。

返り血は袖にわずかに染みただけ。
誰にも見られず、足音一つなく帰路についた。

(……お兄ちゃん、褒めてくれるかな)

そう思った。
任務中、少しだけ胸が高鳴ったのは──
「一人でできた」と認められるかもしれない、淡い期待のせいだった。

だから、部屋の扉を開けたとき。

「……おかえり、マチルダ」

その声を聞いた瞬間──安堵と誇りがほんの少しだけ、胸に浮かんだ。

けれど。

目に映った光景が、そのすべてを一瞬で塗り潰す。

「──ただい……ま……」

扉の奥。
カルトが立っていた。
右手に、赤黒く染まったナイフ。

その足元には、倒れ伏すアルカの小さな身体。

白い布団は、赤に染まりきっていた。

目は半開き。唇はうっすら開いている。

もう──息はしていなかった。

「は、ぁ……ア、ルカ……な、んで……」

足がもつれて、壁に手をつきながら、マチルダはゆっくりとアルカのそばに膝をついた。

手を伸ばす。
でも、触れるのが怖い。

「……殺し屋に、感情はいらない」

その声が、背後から淡々と届いた。

「お前の“甘え”の原因を消した。それだけだ」

カルトは冷たく言った。
まるで“物を片付けた”かのような口調だった。

「病弱なガキに用はない。落ちこぼれは……いずれ足を引っ張るだけだからな」

マチルダの中で、何かが音もなく“切れた”。

耳鳴りが、世界のすべてを覆い尽くした。
何も聞こえない。何も見えない。
ただ──心の奥で何かが“軋んだ”。

次の瞬間。

リミッターが外れたように、体が動いていた。

言葉はなかった。
叫びも、泣き声も、怒りの声もない。

マチルダは、ただナイフを掴み、カルトに向かっていた。

カルトが何かを言おうとしたその瞬間──

ズシャッ──ッ

鋭い刃が肉を裂き、骨を砕く音が、空気を裂いた。

何度も。何度も。

気がつけば、マチルダはカルトの上に馬乗りになっていた。

手の中のナイフは血に染まり、顔も服も赤く濡れている。

カルトは動かない。

けれど、それでも手が止まらなかった。

「は……ぁ……はぁッ……ぁ……」

自分の呼吸がうるさい。
心臓の音がうるさい。

けれど、それ以上に──頭の中が“静かすぎる”。

これが初めてだった。

カルトに、逆らったこと。
命令に、反したこと。
何かを、自分の“意思”で奪ったこと。

マチルダは震える手でナイフを放り投げた。

そのまま、崩れるように床に座り込む。

アルカの方を、もう一度振り返った。

(……いなくなっちゃった)

涙は出ない。
感情が壊れすぎて、泣くということさえできなかった。

ただ一つだけ、マチルダの中に残ったものがある。

──カルトのいない世界で、
──アルカと約束した「逃げる」という未来を、
あの子の代わりに“実現しなければいけない”という責任。

それが、この日から始まった。

やがて──
廃墟の路地裏で、ひとり立ち尽くすマチルダの前に、黒い影が現れる。

その目は、マチルダの“過去”を見透かすように鋭く、
だがほんのわずかに、救いのような光を宿していた。

名も知らぬ男との“出会い”が、運命を変えていく。
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