血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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出会い

青年との出会い

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【地下街・空き家の屋上】

風のない地下。
それでも、屋上に立てば少しだけ空気が違う気がした。

辺りには誰もいない。
崩れた手すり、風化したコンクリート。
足元に転がる石を避けて、マチルダはそっと縁に立った。

目を閉じて、下を覗き込む。

(……こわくない)

だって、もう全部失った。
この世界に、未練なんて一つもない。

「…………」

小さく、息を吸った。
今、踏み出せば──

──その瞬間。

「……何してやがる」

背後から、声がした。

低く、乾いた声。

知らない声。

マチルダは振り返らなかった。

「……誰」

「通りかかっただけだ」

足音。ひとつ。
距離はある。

(……男の声?)

「……あっそ。それ以上近づいたら殺す」

マチルダはそう告げる。
手には何も持っていない。
でも言葉は、刃物より鋭くていい。

──沈黙。

そして、その静けさを切るように──

「……殺そうとする奴が相手に背中向けるかよ」

マチルダは、かすかに目を見開いた。

言われたことの意味は、ちゃんとわかっている。

自分でも、おかしいと思った。
殺すなんて言うくせに、背中を向けて立っている。
本気で殺すつもりなんて、最初からなかった。

それを──この声の主は、見抜いていた。

「……」

ただ、まだ振り返らない。
立ち尽くすマチルダに、さらに言葉が投げられた。

「……行く宛てがねぇなら、俺と来い。目の前で死なれるよりはマシだ」

それは、予想外だった。

(……なに?)

“俺と来い”。

この地下街で、そんな言葉を聞く日が来るなんて思わなかった。
誰もが他人を利用し、食い合う世界。
助けの手には、必ず毒がある。

(……絶対、裏がある)

あの声の青年は、きっと人身売買の手下だ。
臓器か──労働か──

いずれにせよ、“助け”なんてあるわけがない。

「……ほっといて」

そう一言だけ返して、マチルダは踵を返した。

錆びたハシゴを使い、瓦礫の隙間をすり抜けて、誰にも追えない路地へと滑り込んでいく。

逃げなきゃ。
見つかるわけにはいかない。

背後から、青年の声がした。

「おい!」

でも、もう聞こえていない。

マチルダはもう一度、闇の中へ姿を消す。

誰にも見つからない。
誰にも触れられない。
死に損なった命を、また隠すように──。
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