血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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出会い

いつもの日常

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【レヴィア視点/地下街・“いつもの”日常】

いつも通り、空気は淀んでいた。

石畳の隙間から染み出した汚水と、酸っぱい汗の匂い。
誰かの喧嘩の声と、乾いた咳。
腐った食い物に群がるネズミ。

(……変わらねぇな)

レヴィアは、背を丸めるようにして建物の影を歩いていた。
頭を下げず、目だけで周囲を捉える。

盗み。喧嘩。時には殺し。

地下街じゃ、それが「仕事」だった。

他人がどうなろうと関係ない。
“生き残る”こと。それだけがすべてだ。

ガキが死のうが、女が泣こうが、老人が倒れようが──知ったことじゃねぇ。

そうやって、今日までやってきた。

そのはずだった。

──カツ、カツッ……

子どもの泣き声が耳に入った。

見ると、女にすがって泣き喚いているガキがいた。

(……またかよ)

母親にすがり、飯がないと喚き、抱きついて泣いてる。
母親の顔はすでに焦燥で真っ青だった。

(……ピーピーうるせぇ)

レヴィアは眉をひそめて目を逸らした。

ガキなんざ嫌いだ。

泣く、喚く、守ってもらうのが当然と思ってる。
弱ぇくせに、足手まといなだけだ。

(……)

そのまま、通り過ぎるはずだった。

──が、ふと目の端に映った。

瓦礫をよじ登っていく小さな影。

(……?)

その背中は、どこかおかしかった。
ふらついてるのに、真っすぐだった。

足取りは重いのに、迷いがなかった。

(あいつ……)

気がつけば、後をつけていた。

なぜだかは分からなかった。
興味なんてないはずだった。

だが、目が離せなかった。

──そして、それは屋上の端に立った。

(……やっぱり)

飛び降りるつもりだ。
ここじゃ珍しくもない。

でも。

(……何してやがる)

思わず口をついて出た声は、自分でも意外だった。

そのガキ──マチルダは、背を向けたまま答えた。

「……誰」

「通りかかっただけだ」

「……あっそ。それ以上近づいたら殺す」

ナイフは持っていない。
だが言葉の端に、鋭さがあった。

レヴィアはふと、口の端をわずかに歪めた。

「……殺そうとする奴が相手に背中向けるかよ」

そう返すと、わずかにガキの肩が動いた。

沈黙が落ちる。

目の前で死なれたら──面倒だ。
それだけだった。
……本当に、そうだったのか?

「……行く宛てがねぇなら、俺と来い。目の前で死なれるよりはマシだ」

なぜ口が勝手に動いたのか、自分でも分からなかった。

この街じゃ、誰にだって“死ぬ自由”はある。
誰も他人の命に関わらねぇ。

なのに。

このガキだけは──なぜか、放っておけなかった。

「……ほっといて」

それが返ってきた答えだった。

マチルダはすっと、身を翻した。
瓦礫の陰に消え、建物の隙間へ滑り込んでいく。

レヴィアは、咄嗟に声を上げていた。

「おい!」

──だが、もう姿はなかった。

足音も、気配もない。
まるで最初からいなかったかのように、消えていた。

(……どこ行きやがった)

舌打ちする。
深追いはしないタチだった。
どうせ見失ったら、それまで。

……なのに。

胸の奥が、妙に落ち着かねぇ。

あの目。
あの声。

何かに、似ている気がした。

誰にも期待せず、誰にも求めず、ただ“死ぬ理由”を持っていたあのガキ。

──あいつ、名前も知らねぇ。

だがこの街で、次にまた見かける気がしてならなかった。

そしてきっと、そのときも。

──また俺は、声をかけてしまう気がする。

(……面倒くせぇことにならなきゃいいがな)

レヴィアは静かに、闇へと歩き出した。
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