血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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出会い

終わりを探す

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【地下街・終わりを探していた少女】

足元の石畳が、じわじわと滲むように重く感じる。

疲れていた。
体も、心も、もう限界だった。

アルカがいない世界で、何をしても意味がなかった。
訓練された身体が勝手に歩いているだけで、意志なんてとうの昔に擦り切れていた。

(……死にたい)

ただ、それだけが胸の奥に、重く沈んでいた。

死に場所を探していた。
誰にも見つからず、誰にも邪魔されない、静かな“終わり”。

けれど──そんな都合のいい場所なんて、地下にはなかった。

「おやおや~?こんな所に子ども……危ないぞ~?」

不意に、陽気な声が頭上から降ってきた。

視線を上げると、地上の制服を着た男たちが3人、にやにやと笑っていた。
中央憲兵──地上の力を笠に着て、この地下でやりたい放題の連中だ。

「こんな暗ぇとこ、危ないよなぁ?なぁ?」

あっという間に囲まれ、マチルダの腕が掴まれる。
強引な手の力が、骨の奥にまで伝わった。

痛みは……感じなかった。

最初は抵抗した。
けれど……

これから死ぬのに抵抗するのは無駄な体力を消耗するだけだと思い、すぐにやめた。

「……」

「お、急に大人しくなりやがって。はは、最初からいい子にしてりゃよかったんだよ」

髪を掴まれ、顔を無理やり上げさせられる。

「よく見たら、可愛い顔してんじゃねぇか」

「おいおい、ガキに手ぇ出す気かよ。モノ好きだな~。あとで俺にも回せよ」

下品な笑い声。
汚らしい指が肌に触れようとしてくる。

──アルカがいない。
──だからどうでもよかった。

(好きにすればいい)

もう抵抗する気力もなかった。
自分がどうなってもいい。
そう思っていた、ほんの瞬間。

──バキッ

「……ッがぁッ……!?」

何かが、潰れた音がした。

「ッ……え?」

マチルダが顔を上げる。

そこにいた。

──昼の、あの男。

黒髪、鋭い目。
何も言わずに、ただ憲兵の一人の顎を砕いていた。

「……っ、なにしやが──ッが……!」

二人目の憲兵が、呻き声すら上げられずに沈んだ。

拳一つで──一瞬で。

「…………」

最後の一人は恐怖に凍り、逃げ出した。

マチルダは、その男を見つめたまま、何も言えなかった。

「……無事か」

低い声が、静かに響く。

「……は……なに、して……」

どうして、助けたの。

「……名前は?」

「……」
口を開こうとして、やめた。

答える義理はない。
信用もしない。

それでも男は続ける。

「俺はレヴィアだ」

それが、この地下街で──
はじめて聞いた、“名前を名乗る”人間だった。

「……」

マチルダは、やはり何も返さなかった。

だが次の瞬間、レヴィアはふいに手を差し伸べた。

「俺と来い。死ぬよりはマシな生活だ」

その手は、血に汚れていた。
けれど──その掌は、なぜか温かく見えた。

マチルダは、咄嗟に身を引こうとした。
拒絶しようとした。

けれど──握られていた。

小さな手を、強くも優しく、包み込むように。

「ッ……」

振り払おうとしたのに、できなかった。

逃げたはずだったのに、足が動かなかった。

(……なんで)

この男は、強い。
間違いなく、ここで生き抜いてきた人間の目をしてる。

でも、それだけじゃない。

──壊れかけた自分を、ひと目で見抜いたような声だった。

信用なんてしてない。
優しさを信じたら、また壊される。

だから。

(……試すだけ)

この男が“下手な動き”をしたら、すぐに殺す。
そう思いながら。

マチルダは、レヴィアという男の背中についていった。

ゆっくりと、地下の闇を、歩き出す。

それが、壊れかけた命が“繋がった”最初だった。
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