血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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出会い

腐った風の中

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【レヴィア視点/地下街・腐った風の中】

名前も、素性も、何も知らねぇ。

ただ──あの目が頭から離れなかった。

死に場所を探していた、ちっぽけなガキ。
背中で語ってた。「もういい」って。

ああいう目は、地下じゃ珍しくもない。
捨てられたガキも、死に場所を求めてフラつくのも、見慣れてる。

……なのに。

足が勝手にそっちへ向かっていた。

(俺は何してやがんだ)

瓦礫の間を抜ける。
商人たちの怒号と、浮浪者の咳が混じった通り。
空気はいつもより濁って見えた。

ふと──路地裏の陰で、声が聞こえた。

「おいおい、こんなガキに手ぇ出すのかよ。モノ好きだな」

「あとで俺にも回せよ。ガキでも、使いようはあるぜ」

──下品な笑い声。
聞き慣れてる。何度も聞いた、憲兵ども特有の薄汚れた笑い。

見なくてもわかる。

それでも、見た。

そこにいたのは──あのガキだった。

ガキの身体は、三人の憲兵に囲まれて押さえつけられていた。

髪を掴まれ、顔を無理やり上げさせられ、
体を押さえられたまま、力なく突っ立ってる。

(…………)

助ける理由なんて、一つもなかった。

知らねぇガキだ。
素性も、名前も、どこで生きてきたのかも分からねぇ。
どうせ、誰にも惜しまれずに死ぬような、地下のゴミ。

──そうだろ?

なのに。

体が勝手に動いていた。

思考より先に、拳が動いていた。

バキッ。

憲兵の一人の顔面が沈む。
顎が、ぐしゃりと潰れた音がした。

振り向いたもう一人に、何も言わずに踏み込む。
目が合った瞬間には、そいつの肋骨が砕けていた。

三人目がひるんで、ガキから手を離した。

「ひッ……! な、なんだてめぇ……!」

レヴィアは、何も答えなかった。
目だけが、そいつの喉を捉えていた。

「っ、あぁ……ッ!」

最後の憲兵は逃げた。
薄汚れた足音を残して、闇の中に消えた。

レヴィアは、その場に立ち尽くすガキに目を向けた。

ガキはただ、黙って自分を見ていた。
感情の色が抜け落ちたような瞳。

(こいつ……本当に、全部どうでもよくなってたんだな)

「……無事か」

小さな声でそう言った。

ガキは、ぼそりと呟いた。

「……は……なに、して……」

「……名前は?」

答えはない。

「俺はレヴィアだ」

それも、返事はなかった。

レヴィアはふと、手を伸ばした。

「俺と来い。死ぬよりはマシな生活だ」

返事もなかった。
でも──手を、握った。

小さなその手は冷たくて、今にも崩れそうだった。

それでも、しっかりと。

(……なんでこんなことしてんだ、俺)

わからない。

助けても何も変わらない。
ガキはもう壊れかけてる。
その瞳は、どこにも希望なんて映していない。

──でも。

この手を離したら、二度と会えねぇ気がした。

そしてたぶん。

そうなったら、一生後悔する気がした。

レヴィアはただ、歩き出す。
ガキの手を引いたまま、何も言わず。

振り返らずに。

地下街の暗がりの中。
誰にも気づかれず、誰にも期待せず──

ふたりは、初めて“家族”に出会ったのかもしれなかった。
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