血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

文字の大きさ
13 / 91
出会い

試す

しおりを挟む
【地下街・レヴィアの家】

※レヴィア視点とマチルダの心理を交えた三人称

薄暗い部屋。
石壁と木製の棚だけの、がらんとした空間。
窓はない。代わりに、地下街の風がすき間から染み込んでくる。

レヴィアは、拾ってきたガキを部屋の隅に座らせた。

名前も、年も、何も聞けていない。
それでも、わかる。

──壊れかけたまま、生きている。

マチルダは、壁を背にして、ただ膝を抱えて座っていた。
薄汚れた服。冷え切った瞳。
その目は、何も語らないくせに、全てを見抜こうとしていた。

口はきかない。
名前も言わない。
水も食べ物も拒否。

何かを問いかけても──反応はなかった。

ただ、静かに。

じっと。

レヴィアのことを観察し続けていた。

まるで、次の殺しのための標的を見極めるかのように。

(……)

レヴィアは何も言わずに、床に敷いた布の上に横になった。

寝ているようで、寝ていない。
“地下街”で生きてきた者同士、その呼吸で、目の動きで、嘘は見抜ける。

──そして夜。

静寂が、室内に満ちた頃。

かすかな足音。

(……来たか)

レヴィアは、目を閉じたまま耳を澄ませていた。

布が揺れる気配。
かすかな金属音。

──冷たいものが、喉元に触れた。

ナイフ。
刃は小さいが、殺すには十分。

(……やっぱり試してきやがったな)

レヴィアは何も言わない。
ただ、無言でナイフを構えていた。

呼吸ひとつ乱さず、感情のない目で。

──人間は信用できない。
甘く見れば、裏切られる。
弱みを見せれば、踏みにじられる。

そう教え込まれてきた。
殺し屋として。

(……)

レヴィアは動かなかった。

抵抗もしない。
目も開かない。
ただ、眠っているように、静かに呼吸を繰り返す。

マチルダの目が揺れた。

(なんで……?)

喉元に刃を突きつけられてるのに、なんで。

なぜ、抵抗しない。
なぜ、殺されるかもしれないのに、受け入れてる?

意味が分からなかった。

(……馬鹿なんじゃないの)

マチルダを見つめる。

寝てるのか、起きてるのか。
それすら分からない無表情。
まるで、最初から“どうなっても構わない”と言っているかのような。

ナイフを振り下ろせなかった。

(……殺せば、終わるのに)

手が、動かなかった。

しばらくして、マチルダは静かにナイフを下ろした。

──朝まで、マチルダは眠らなかった。

目を閉じることもせず、レヴィアの呼吸を見つめ続けた。
起き上がって反撃しないか、警戒を解かせて油断を突こうとしていないか。
何一つ信じないまま、ひたすら“監視”し続けた。

それでも──レヴィアは、何一つ仕掛けてこなかった。

眠るふりをやめることもなく、
目を開けることもなく、
ただ静かに、そこにいた。

(……意味、わかんない)

あまりにも静かで、
あまりにも何もしなくて、

マチルダの中で何かが、少しだけ揺れた。

それはまだ、“信頼”と呼べるものではない。

けれど。

──この人間だけは、少しだけ違うかもしれない。

そんな微かな疑問が、
ひび割れた心の隙間に、そっと落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...