血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

文字の大きさ
14 / 91
出会い

始まり

しおりを挟む
【レヴィア視点/地下の家・初日とその夜】

地下街の朝は、地上よりも静かだ。
光が差さねぇ分、時間の感覚も鈍る。

それでも、空腹だけは誤魔化せねぇ。
──普通はな。

「……」

パンを置いた。

冷めたスープも添えてみた。
干し肉もひとかけら。

(ガキは食い物に弱ぇ)

誰に教わったわけでもねぇが、それくらいわかる。
地下じゃ生きてくために“食うこと”が何より優先される。

特に子どもは、空腹に勝てねぇ。
本能的に手を伸ばすはずだった。

……だが、こいつは違った。

壁に背をつけて、じっと座っている。
まるで張り付いたように、一切動かない。

「……食わねぇのか」

返事は、ない。

ほんの一瞬、視線が皿に向いた気がした。
けどすぐに、また無表情な監視の目に戻る。

(……まるで、殺し屋に睨まれてるみてぇだ)

──そう、ずっと見られていた。
俺がナイフを抜かないか。
寝込みを襲ってこないか。

このガキ、目つきが違う。
他のガキと同じに考えたら、命を落とすタイプだ。

言葉をかけても無駄。
問いかけにも反応しねぇ。

水さえ飲まねぇ。
本能で生きてるはずの年頃で、それを拒絶するってのは──

(……何を食って、どうやって生きてきたんだ)

腹が減っても、喉が渇いても、
“それを表に出すな”と叩き込まれてきたような冷めた目。

泣かねぇ。
喚かねぇ。
怯えもしねぇ。

ただ、ひたすらに──警戒してる。

背中は絶対に見せねぇ。
夜も、まったく眠らねぇ。

(……試されたな、昨夜)

ナイフを喉に当てられたとき、こいつの目に一瞬だけ“迷い”が見えた。

切れなかった。
俺を“殺してもいい”と教え込まれたような振る舞いだったくせに、結局殺さなかった。

(殺せなかったんじゃねぇ、殺さなかったんだろ)

理由は分からない。
けど──“殺さなくていい”と思った。

その判断が、このガキにとってどれほどの意味を持っていたかは分からねぇ。

(……クソッタレな場所で、どんな目に遭ったんだ)

名前すら教えてくれねぇ。

だから、今まで何があったのか──
聞いたところで、きっと“死んでも話さねぇ”。

そんな目をしてる。

(……けどよ)

何でか、放っておけなかった。

レヴィアは、パンの皿を引き戻さず、そのまま置いておいた。
水も、ぬるくなったままのままにしておく。

ふと、マチルダと目が合った。
一瞬。ほんのわずか。

レヴィアが何も言わず、何もしないことに、少しだけ──ほんのわずかだけ、表情が緩んだ気がした。

(……気のせいか)

あるいは。

その“気のせい”が、始まりだったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...