血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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出会い

少女の素顔

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【地下街・夕方/レヴィア視点】

「……は?」

帰宅した瞬間、空気が変わった。

薄暗い部屋に、気配がない。
物音も、気配も、いつも座っていた“壁際のガキ”もいない。

飯は手つかず。
水も減っていない。
床には小さな足跡すら残されていない。

「……チッ」

レヴィアはすぐに外に出た。

地下の狭い通路を、獣のように駆け抜ける。
脳裏をよぎるのは──最悪の想像。

(まさか、また……)

“あのとき”と同じように。
誰かに連れ去られたか、あるいは──また、自分で命を断とうとしたか。

そう考えた瞬間、胸の奥にひどく冷たい何かが突き刺さった。

(……どこだ、ガキ)

そう思った直後、空気が変わった。

どこかの路地裏から──強烈な“気配”が滲み出ている。

立ち止まった瞬間、背筋をなぞるような冷気が走る。

(何だ、この殺気は……?)

地面に膝をついて震えている男、腰を抜かして立ち上がれない男、白目を剥いて気絶している男──三人。

血は出ていない。
死んでもいない。
けれど──全員、“殺された”ような顔をしていた。

その中心に、ひとり立っていた。

「……」

例のガキ。
さっきまで部屋にいたはずの、名も知らないガキが──そこにいた。

薄暗い通路の真ん中で、まるで“死神”のように。

レヴィアが近づくと、ガキがこちらにゆっくりと歩いてくる。

「……」

(こいつ……)

まったく、怯えていない。
それどころか、今にも消えてしまいそうな静けさを纏っている。

その目に、わずかな諦めと──どこか試すような光が宿っていた。

「……名前は、マチルダ」

「……!」

初めて聞く声。
それは、“幼さ”のない、澄んだ無機質な声だった。

「殺し屋やってた。人を殺すことに、躊躇も感情もない」

静かに、そう言った。
まるで“殺した回数”すら、数える価値がないというように。

「……」

レヴィアは、黙ってマチルダを見ていた。

マチルダは、自分の正体を明かしたことで、すべて終わったと思っているようだった。

「……これで私を家に置く理由、無くなったでしょ」

その言葉の裏にあるのは──自嘲か、それとも失望か。

「殺し屋欲しがってる連中なんていくらでもいる。結構儲かるし。アンタに世話されなくても私は──」

踵を返した。

姿を消すつもりだった。

そう、これまで何度もそうしてきたように──
邪魔なものを切り捨て、必要なものだけを掴み、
気配を殺し、音を消して、誰にも気づかれずに──消える。

だが。

「マチルダ」

その背中に、レヴィアの声が刺さった。

一瞬、マチルダの肩が揺れた。

「……あんまり、外で名前呼ばないで欲しいんだけど」

振り返らないまま、そう呟いた。

「殺し屋って顔と名前バレたら……処理しなきゃいけなくなる」

その言葉に、どこか“自分自身を守るための皮肉”が滲んでいた。

レヴィアは一歩前に出た。

そして、こう言った。

「……誰が、手放すかよ」

その一言で、マチルダの歩みが止まった。

振り返りはしない。
でも、しばらく動きもしない。

路地の奥、ほんのかすかに震える手が見えた気がした。

それでも──マチルダは、再び歩き出さなかった。
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