21 / 91
出会い
泣くのは甘え
しおりを挟む
【地下街・レヴィアの部屋/夕刻】
レヴィア視点
ガチャ──
「……」
ドアが開く音に振り返ると、マチルダが入ってきた。
無表情、だけどほんの少し頬が赤い。冷たい地下の空気のせいか、それとも。
「……今日も行ってたのか」
思わず口をついて出た言葉に、マチルダはきょとんとしたようにこちらを見る。
「うん」
それだけ言って、マチルダは壁際へ向かう。いつも通り、背をつける場所。
変わらない仕草。
(まるで……いつもと何も変わらねぇかのように)
だがレヴィアの胸には、言いようのない重みがこびりついていた。
あの夜──マチルダの口から聞いた“過去”。
最愛の弟、アルカを失ったこと。
実の兄に殺され、自らの手で兄を殺したこと。
その後、自分を殺すつもりだったこと。
(……10歳のガキが抱えるもんじゃねぇよな)
殺し屋として訓練された異常な日常。
感情を排除することを正しいと刷り込まれた生き方。
(感情が殺された?──違ぇよ、押し込めてるだけだ)
マチルダは泣いていない。
弟の死を語るときも、表情ひとつ動かさなかった。
けれど──
あの夜中に出ていった日も、
何も言わずに帰ってきた日も、
マチルダは毎日のように、アルカの埋葬場所へ通っていた。
(何度も行って、何かを探すように、彷徨って……)
“泣かせてぇ訳じゃねぇが、ぐしゃぐしゃに泣くくらいしねぇと、心が持たねぇだろうが”
口に出してしまいそうな想いを、歯を食いしばって飲み込む。
マチルダは、何気ない声で言った。
「今日ね、風が強かった。落ち葉がいっぱい飛んでて……アルカ、寒くないかなって」
「……」
「でも落ち葉を集めて、上にいっぱいかけてあげたから……ちょっと安心した」
言葉の端々に、感情がなかったわけじゃない。
それを“表に出す術”を奪われたのだ。
レヴィアは、一歩マチルダに近づいた。
「……マチルダ」
「なに?」
「……寒くねぇか」
「……?」
マチルダが首をかしげた、その瞬間だった。
レヴィアは、自分でも驚くほど自然に、マチルダの頭に手を伸ばしていた。
そっと、あたたかく包むように。
「……別に何もしねぇよ。ただ……」
ほんの一瞬でも。
この小さな背中が、ひとりじゃないと──
そう思える時間を、与えてやりたかった。
「……泣くのが甘えってのは、嘘だ」
「……」
マチルダの瞳が、少し揺れた。
けれど彼女は、目をそらしたまま、ただ黙ってうなずいた。
レヴィア視点
ガチャ──
「……」
ドアが開く音に振り返ると、マチルダが入ってきた。
無表情、だけどほんの少し頬が赤い。冷たい地下の空気のせいか、それとも。
「……今日も行ってたのか」
思わず口をついて出た言葉に、マチルダはきょとんとしたようにこちらを見る。
「うん」
それだけ言って、マチルダは壁際へ向かう。いつも通り、背をつける場所。
変わらない仕草。
(まるで……いつもと何も変わらねぇかのように)
だがレヴィアの胸には、言いようのない重みがこびりついていた。
あの夜──マチルダの口から聞いた“過去”。
最愛の弟、アルカを失ったこと。
実の兄に殺され、自らの手で兄を殺したこと。
その後、自分を殺すつもりだったこと。
(……10歳のガキが抱えるもんじゃねぇよな)
殺し屋として訓練された異常な日常。
感情を排除することを正しいと刷り込まれた生き方。
(感情が殺された?──違ぇよ、押し込めてるだけだ)
マチルダは泣いていない。
弟の死を語るときも、表情ひとつ動かさなかった。
けれど──
あの夜中に出ていった日も、
何も言わずに帰ってきた日も、
マチルダは毎日のように、アルカの埋葬場所へ通っていた。
(何度も行って、何かを探すように、彷徨って……)
“泣かせてぇ訳じゃねぇが、ぐしゃぐしゃに泣くくらいしねぇと、心が持たねぇだろうが”
口に出してしまいそうな想いを、歯を食いしばって飲み込む。
マチルダは、何気ない声で言った。
「今日ね、風が強かった。落ち葉がいっぱい飛んでて……アルカ、寒くないかなって」
「……」
「でも落ち葉を集めて、上にいっぱいかけてあげたから……ちょっと安心した」
言葉の端々に、感情がなかったわけじゃない。
それを“表に出す術”を奪われたのだ。
レヴィアは、一歩マチルダに近づいた。
「……マチルダ」
「なに?」
「……寒くねぇか」
「……?」
マチルダが首をかしげた、その瞬間だった。
レヴィアは、自分でも驚くほど自然に、マチルダの頭に手を伸ばしていた。
そっと、あたたかく包むように。
「……別に何もしねぇよ。ただ……」
ほんの一瞬でも。
この小さな背中が、ひとりじゃないと──
そう思える時間を、与えてやりたかった。
「……泣くのが甘えってのは、嘘だ」
「……」
マチルダの瞳が、少し揺れた。
けれど彼女は、目をそらしたまま、ただ黙ってうなずいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる