血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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仲間

大事なもの

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――レヴィア視点・帰り道

夜の地下街は静かだった。昼間の騒がしさが嘘のように消え去り、灯りのない通りにはレヴィアとマチルダの足音だけが響いていた。

ラナードと別れた後、二人の間にはしばらく言葉がなかった。

マチルダは何も言わない。ただ、いつものようにレヴィアの少し後ろを歩き、時折、足音をわざと消すようにして――けれど確かに“そばにいる”。

(……あいつはどう思ってんだ)

ラナードのこと。
あの男は、確かに本気だった。下心もあったが、諦めずに言葉をぶつけてきた。それは分かる。

けど――

(もし、あの男の存在が、マチルダにとって重荷になるなら。心を閉ざすきっかけになるなら……)

ようやく、ようやく築いたものを壊したくはなかった。
この4年間、ずっと“何も踏み込まない”ことで信頼を築いてきた。

だからこそ、口を開いた。

「……マチルダ。ラナードのことだが……」

「ん?」

軽い返事。振り向くこともせずに。

レヴィアは少しだけ歩く速度を緩めて、マチルダと並ぶ。

「……嫌なら、嫌だってハッキリ言え。俺の言うことすべてに耳を傾ける必要はねぇ。一番大事なのは……お前の気持ちだ」

沈黙が落ちた。
マチルダは立ち止まり、レヴィアの顔をじっと見上げた。

ほんのわずかだけ、困ったように眉が寄っていた。

「レヴィアがしたいようにすればいいって思うけど……」

少し言いよどんでから、小さな声で続ける。

「……私の気持ち、そんなに大事なの?」

その言葉に、レヴィアの胸の奥がわずかに鈍く揺れた。

(――なんで、そんなことを聞く)

「……当たり前だろうが」

それだけ言って、視線を逸らした。
けれど、マチルダは何も言わず、ただレヴィアの横に戻って歩き出す。

その足取りは、さっきより少し軽くなっていた。

レヴィアはふと、ほんのわずかに口の端を上げた。

(……こんなもんだろ。俺にできる“伝え方”なんてな)

それでも、マチルダが分かってくれたなら――それでいい。





マチルダの足取りが少し軽くなったように見えた、その直後だった。
横に並ぶ小さな声が、ぽつりと問いを投げる。

「……逆に聞くけど、レヴィアはラナードのことをどう思ってるの?」

ふいに問われて、レヴィアは目を細めた。

(……“どう思う”ねぇ)

面倒なことを聞く、と内心で舌打ちしたが、無視はしなかった。マチルダが“誰かのこと”を尋ねてくるのは珍しい。それだけ、彼女なりに気になっているということだ。

「……正直、今のところは“使えるかどうか”しか考えてねぇ」

レヴィアの声は淡々としていた。

「野心があって、頭も回る。地下にしてはマシな方だ。けど――」

一拍、間を置いて。

「……信用できるかは別だ」

「……ふーん」

マチルダは、なんとも言えない声を返した。

レヴィアはちらりと彼女を見やる。
暗がりの中、マチルダの表情は読みづらい。

「お前がどう思ってるか知らねぇが……俺は、ああいう“利口なやつ”が一番タチ悪いと思ってる」

「ふふ……なんか分かる気がする」

「そういう奴は、いざって時に“自分の得”を優先する。……誰かを見捨てることに、言い訳つけるのが上手ぇ」

マチルダの笑みが薄く消えた。

「……でも、それでも“使えるかどうか”を考えるんだ?」

「生き延びるためだ」

即答だった。

「俺らみてぇなのはな、綺麗事で生きてる余裕なんてねぇ。……選んで、切って、使えるもんは使う。それでようやく、少し先に進める」

マチルダはしばらく黙っていたが、やがてぽつりとつぶやく。

「……それでも、“私の気持ちが一番大事”なんだ?」

レヴィアは足を止めた。振り返ると、マチルダが顔を上げて見ていた。

「……お前は、“使うための道具”じゃねぇからな」

少しの沈黙。

マチルダの目がほんの一瞬だけ、揺れた。

「……そっか」

その声は小さくて、どこか温かかった。

レヴィアは黙ってまた歩き出した。
マチルダは、その隣にふわりと戻ってくる。

ふたりの距離は、今夜も変わらず、同じだった。
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