血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

文字の大きさ
48 / 91
仲間

信じるということ

しおりを挟む
――レヴィア視点・家までの道

いつもの通り、家へ向かって歩いているはずだった。

だが、ふと隣から聞こえた声が、レヴィアの足をわずかに鈍らせた。

「……私はね、よく分かんない」

「……?」

横を見ると、マチルダが前を見たまま、ぽつりと呟いていた。何気ないようで、どこか震えるような声。

「レヴィアのこと、最初は信用できなくて……ずっと殺そうとしてた。隙を見て毒を盛るか、寝てる間に刺すか……毎日考えてた」

その言葉に驚きはなかった。

(知ってたよ、そんなことは)

マチルダの目が、常に冷めていて、どこか怯えていて、誰も信用していなかったこと――レヴィアにはとっくに分かっていた。
それでも言葉にされると、胸に重みが落ちる。

「……一年以上かけて、ようやく“この人は殺さなくていいかも”って思えた」

「ずいぶんと控えめな信頼だな」

「うん、控えめだね」

マチルダは小さく笑った。どこか困ったような、拗らせたような顔だった。

「……だからさ。ラナードが仲間になったとして……私は、どうやって信用すればいいのか分かんない」

そう言って、少し顔を下げる。

「えへ、人を信じるって難しいね。私のことで……気を使わせちゃったら、ごめんね」

(……謝ることじゃねぇ)

レヴィアは歩きながら、答えを探すように小さく息を吐いた。

「……お前に“人を信じろ”なんて、俺は言わねぇよ」

「……」

「信じられねぇなら、それでいい。時間かけて、ゆっくり見りゃいい。見て、試して、納得できるまで放っときゃいい」

マチルダは少しだけ顔を上げて、レヴィアを見た。

「でも……レヴィアはすぐ見抜くでしょ?“使えるかどうか”とか、“こいつは信用できるか”とか……」

「ああ。人間を道具みてぇに扱ってきたからな。……そういう目は腐ってねぇ」

「……羨ましいな」

「羨むな。そうやって人の顔色でしか判断できなくなったのは、いいもんじゃねぇ」

マチルダはまた、少し笑った。

「……でも、レヴィアの目には、私は“使える”って映ったんだね」

「違う」

レヴィアは立ち止まり、マチルダの方へと身体を向ける。

「お前のことは、“使う”とか“使えねぇ”とか、そういうもんじゃねぇ。……“守る価値がある”と思っただけだ」

マチルダは目を見開いた。数秒、言葉が出ないようにして――すぐにそっぽを向いてごまかすように笑った。

「……そっか。じゃあ、ありがとう」

レヴィアはそれ以上言わなかった。ただ黙って歩き出す。マチルダも、数歩遅れてついてくる。

「……ねえ、レヴィア」

「なんだ」

「私が誰かを信じられるようになるまで……そばにいてくれる?」

その問いは、まるで風の中に紛れるようなかすれた声だった。

レヴィアは振り返らないまま、前を向いて歩きながら、答えた。

「……当たり前だ」

マチルダは少しだけ、息を吐いた。
その背中を見ながら、レヴィアは心の中で小さく呟いた。

(お前が信じられるまでじゃねぇ。……信じたあとも、ずっとだ)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...