【完結】たんぽぽ!

大竹あやめ

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それから二ヶ月、あっという間に全公演が終了した。

初公演の後、英はスタッフも含め全員に謝罪し、改めてこの公演への意気込みを話した。

小井出の取り巻きたちは小井出本人から嫌がらせを止めるよう言われたらしい、不満気な顔を見せながら、一つの作品を作るという目的に同意してくれた。

それからの公演は日に日に完成度が増し、千秋楽を迎える頃には追加公演を希望する声も多く聞かれたのだ。

「みんな、お疲れ様。私もスタッフの一員として、関われたことが嬉しい。みんなのこれからの活躍が楽しみだよ」

打ち上げの場でそう言ったのは木村だ。Aカンパニーの打ち上げはいつも社長の自宅で行うという噂があったが、宴会会場みたいな部屋が彼の自宅にあるなんて、とみんな驚いていた。

「じゃ、最後に我らが監督。一言どうぞ」

木村がわざとらしく言って月成を立たせると、月成は面倒くさそうに頭を掻く。

「……よくやった」

それだけ言うとすぐに座ってしまい、調子のいい人は「照れちゃってー」とからかう。

その後すぐに乾杯し、英はビールを持って一人一人に声を掛けていく。

「社長、お疲れ様でした」

「英くんも、お疲れ様。そして、お誕生日おめでとう」

木村とグラスを合わせると、本人すら忘れていたことを言われ、英は面食らう。にっこり笑った社長は、やっぱり男前だ。

「自分の会社の子の誕生日くらい、私は覚えているよ。今日で二十歳?」

「はい」

木村はお酒が入って騒がしくなっていく会場を見渡して、飲みすぎないでね、と軽く注意した。

「そういえば、光洋も今日誕生日なんだよ」

「え?」

意外な言葉を聞いて、英は月成を見た。そこには未成年のくせにお酒を飲んで、月成に絡んでいる小井出も一緒にいる。

「あ、遥も飲んでる。ダメだよ飲ましちゃ。止めてきて」

木村は近くにいたスタッフに指示して小井出の飲酒を止めさせる。すると、スタッフから名前を聞いたらしい小井出は、こちらに向かって舌を出した。

「やれやれ、私も嫌われてるね」

「え、どうしてですか?」

またまた意外な言葉を聞いて、英は尋ねると、「彼は向けられる愛情も、一番じゃないと気が済まないんだよ」とよく分からない答えが返ってきた。

それからしばらく木村と話をし、その後は笹井に呼び出され、酒が飲めると知られたとたんにあれこれと飲まされた。

途中、英と月成の誕生日を祝うケーキも出てきて、そこでさらに盛り上がり、自分のタイミングで帰って良かったんだと知った頃には、飲み過ぎて動けなくなっていた。

(っていうか、みんな強すぎ……)

「おーい英、生きてるかー?」

「うぅ、笹井さん、生きてるから揺らさないで……」

上機嫌な笹井も、英を心配して「無理だったら泊めてもらえよー」とか言いながら帰っていく。会場を見れば、そこかしこに、酔いつぶれている人が転がっていた。

(でも……楽しかった)

公演を含めて三か月半。四十人弱のメンバーで、一つのものを作る。それが英の中では大きな糧になるに違いない。公演の反応は上々だったのも、このメンバーだったからこそだと思うと、今日で解散するのは少し寂しい。

「英くん? 大丈夫?」

「あ、はい……」

顔を上げると、心配そうな木村の視線とぶつかる。

「これから光洋と場所を変えて飲むけど、ここは冷えてくるから移動しよう」

すでに潰れている人たちには、家のスタッフが何とかしてくれるよ、と笑顔で言われ、何ていう家だ、と英は感動した。

ふらふらしながら木村の後を付いて行くと、彼が見かねて肩を貸してくれる。遠慮なく甘えると、「英くんには甘えられたいんだよ」と返答の困るセリフを言われた。

案内された場所もまた広く、巨大なテレビやソファー、ワインセラーがあり、落ち着いた雰囲気だった。どうやらリビングらしい。すると、思っていたことが口から出ていたのか、木村はくすりと笑う。

「私の趣味だけどね。さ、このソファーなら横になっても大丈夫だから」

「何だ、たんぽぽも連れてきたのか」

英たちの気配に気づいた月成が、ワインセラー前のカウンターに座っていた。ぽすん、と英はソファーに座ると、その心地よさに一気に意識が沈みそうになる。

「いけなかったかい? あの野獣たちの前に、子羊を放って去るわけにはいかないだろ?」

(野獣? 子羊?)

何の事だと思いながらも、英はソファーに横になり、大人しくする。

「誰が子羊で、誰が野獣なんだか。俺には噛みついてばかりだぞ」

「英くんは相手の態度に瞬時に合わせられる子だ。光洋の態度が悪かったんじゃないのか」

ふん、と月成が鼻を鳴らすのが聞こえた。

この二人の会話を聞いていると、実は仲が良いんだなぁと思う時がある。

つらいときには必ず助けてくれる、お金も地位もある優しい木村。

言葉は厳しくて、性格も悪いけども、演技に対しては間違ったことは言わない、月成。

英にとって、どちらも大切な人だ。

ふわふわと、夢うつつを彷徨っていると、誰かに頭を撫でられる。しかし、その感触はしっかり理解しつつも、それ以上意識が浮上してこない。

温かい、大きな手。ゆっくりと英の頭を何度も撫で、頬まで降りてきて、止まる。その心地よさに、思わず声を漏らすと、その唇に触れるものがあった。

キスされているんだ、と英は理解した。触れるだけのそれが離れて行くと同時に、徐々に意識が浮上してくる。

「社長……?」

見えてきたシルエットに何故そう尋ねたのか、英は分からなかった。優しい仕草に、勘違いしてしまったのだろうか。

「……っ」

そこまで思って英はハッとした。勘違いってなんだ、じゃあここにいるのは、とピントを合わせると、やはりそこには月成がいる。

「社長じゃなくて残念だったな。奴は仕事で出て行った」

「仕事……?」

あれだけお酒を飲んでいたのに。

「アイツは完全にザルだ。っていうか、お前、ホントに可愛くねぇ」

月成は後半、英には理解できない言葉を吐き、再びキスをする。英は酩酊した体ですぐには抵抗できず、思わず受け入れてしまった。

「ん……」

月成から強い酒の匂いがする。それが彼の体臭と混ざり、英をより酔わせたのが、抵抗できなかった大きな理由だ。

しっかりした弾力のある月成の唇は、英の小さなそれにしつこく吸い付く。

その感触の心地よさと、匂いと、酔っているのとで、英の意識は再び深く沈みこもうとしていた。

英の反応がなくなったのに気が付いたのだろう、月成は唇を解放すると、チッと舌打ちをする。

「ったく、何でこんなに気になるんだか……」

英は眠りに落ちる直前、彼のそんな言葉を聞いたような気がした。
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