【完結】もてあそびながら愛してくれ

大竹あやめ

文字の大きさ
18 / 39

18

しおりを挟む
次の日、起きたら身体がだるかった。熱っぽいので、案の定風邪を引いたらしい。

しかし寝室に一人でいる事が嫌で、リビングに毛布を持ってきてくるまる。

「……さむ」

起きてから暖房をつけたけれど、悪寒が止まらない。これはヤバいぞ、と体温計を探すけれど、どこにあるのか分からず、諦めた。

すると、スマホが震える。亮介からの電話だ。

「もしもし?」

『……おはよう櫂斗。何か元気ないな、どうした?』

亮介は櫂斗の声色に気付いたようだった。いきなり聞かれて、櫂斗はドキリとする。

「ん……風邪引いたかもしれない。この時期だし、うつるといけないから治るまで来ない方がいいかも」

普通の風邪ならともかく、もしインフルエンザなら余計に会わない方がいいだろう。そう思って言うと、亮介は熱が高いのか? と聞いてくる。

「……それが、体温計が見当たらなくて。どこにしまってあるのか分からない……元々無いのかもしれないし」

櫂斗はそう言うと、亮介は分かった、欲しいものは無いか? と聞いてくる。

「え? だから、来ない方が良いって……」

『食料も無いだろ? 買いに行けるのか?』

そう言われて櫂斗は黙った。そして素直にお願いします、と言うと亮介は機嫌良さそうに返事をした。

櫂斗は通話を切ると、ため息をつく。こんなにすぐに風邪を引くとは、まだ本調子じゃないんだな、とそのままウトウトした。

次に目が覚めた時、櫂斗はスマホの着信で起き上がった。また亮介からだ。

『家に着いたけど、インターホン鳴らしても出ないから』

そう言われて、どうやら心配させてしまったらしい、とフラフラと玄関へと向かう。

鍵を開けると、そっと亮介が入ってきた。

「ああ……だいぶ顔色が悪いな」

顔を見るなりそう言われ、荷物をその場に置いた亮介に肩を抱かれてリビングに戻る。ソファーに座らされ、毛布をかけられ、寝てろ、と額に手を当てられ──顰め面された。

「熱も高そうだな……荷物片付けるから、熱計って待ってろ」

そう言って、亮介は置いた荷物を取りに行く。戻ってきた彼に体温計を渡されて、素直にそれを脇に挟んだ。

(何か、至れり尽くせりだな……)

そう思いながらまたウトウトしていると、体温計のアラームで起こされる。見ると、三十八度を超えていた。体温計を見に来た亮介は眉間に皺を寄せる。

「病院行くか?」

「そう、だね……」

その方がいいだろう、と櫂斗は目を閉じて天井を仰いだ。熱があると意識したら、急にしんどさが増したような気がする。

「何か、昨日今日と、お世話になりっぱなしだね……」

病院へ出かける準備をして呟くと、亮介は振り向いて苦笑した。

「こんなもんで、俺が櫂斗にした事の罪を償えると思えないけどな」

それに、櫂斗が完全復帰するまでそばにいるって決めたから、と亮介はふらつく櫂斗を支える。

「……」

櫂斗は何て言って良いか分からず、口をつぐんだ。亮介は櫂斗の頭をポンポンと撫で、二人共自宅を出る。

亮介の運転で病院に着き診察を受けると、インフルエンザではなく、風邪だと診断された。ひとまず安心して戻ってくると、櫂斗はまた悪寒がしてくる。

「寝室で休んだら? 俺は邪魔でなければ、ここで仕事するから」

「……分かった」

櫂斗はそう言って、大人しく寝室に向かった。しかし、ドアを開けたところで、昨日一瞬蘇った記憶を思い出し、回れ右してリビングに戻る。

「どうした?」

「……何か……昨日もだけど、寝室に行くと嫌な記憶が出てきそうで……」

あまり眠れなかった、と言うと亮介は苦しそうな顔をして、櫂斗を抱きしめた。

「……ごめんな」

櫂斗はその温かさにホッとして、亮介を抱きしめ返した。

亮介は本当に後悔している。それは彼の行動でも分かる。そして今櫂斗が頼れる人は、亮介と波多野くらいしかいないのだ。亮介に辛い顔をして欲しくないと思った。

「じゃ、ソファーで寝るか?」

「……仕事の邪魔じゃない?」

「何言ってんだ、櫂斗の家だろ?」

亮介は櫂斗の腰を抱き、ソファーに座らせる。彼は櫂斗に毛布を掛けて、そばに座った。その眼鏡の奥の優しい瞳に、櫂斗はキュンとする。

「亮介……」

「ん?」

「キスしたいけど、風邪うつるかな?」

どうやら櫂斗は精神的にも弱っているらしい。寂しいと思ったり、人の温もりが恋しかったり……亮介にいて欲しいと思うのだ。

「……今はこれで我慢してくれ」

そう言うと、亮介はおでこにキスをした。それが心地よくて、櫂斗はそのままウトウトとまどろみ始める。

一度記憶喪失になると、その記憶を取り戻す事は難しいと聞いた。櫂斗の身体も、記憶を取り戻したいのと、取り戻したくないのと、半々なような気がする。

すると、微かな意識の中で髪の毛を梳かれた。これも前にされた事があるな、と何となく思う。そして、嫌な思い出ばかりじゃないのかも、とも。

そんなことを思いながら、櫂斗は眠った。





次に目が覚めると、亮介がキッチンで何かを作っていた。

櫂斗は起き上がると、身体はだるいものの、悪寒は無いのでホッとする。

「亮介?」

「ん? ああ起きたか。買い物行って食材買ってきた。朝から何も食べてないだろ? 今作ってるから待ってろ」

本当に至れり尽くせりだな、と櫂斗はソファーから降りると、亮介のそばに行く。

「休んでな、まだ熱が高いんだから」

「ん……なんか、そばにいたくて……」

櫂斗は亮介の後ろから抱きつく。火を使ってるから離れろ、と言われるけれど、離れる気が出ない。

「櫂斗」

優しく咎めるような声がして渋々離れると、櫂斗はソファーに座った。亮介はすぐに火を止め、それを丼に移している。

「何を作ってくれたの?」

「うどん」

櫂斗は、なるほど消化もいいしね、と運ばれてくるのを待った。時計を見ると十二時を過ぎていたので、亮介もお昼ご飯にするのだろう、二つの丼が運ばれてきた。

「料理、普段からするの?」

「いや、普段は牛丼屋に行ってる。……前も似たような会話をしたな」

亮介が笑うので、櫂斗も笑った。

「なんだ、悪い記憶ばかりじゃないじゃん」

「……そうだな。……櫂斗が作ってくれた料理は美味しかったよ」

そして二人でうどんをすする。朝よりは体調が良いせいか、ツルツルとうどんが入っていった。

「ん、美味しい」

素直な感想を言うと、亮介は微笑む。櫂斗はその顔も良いな、と素直に思った。

(というか、亮介って結構イケメン……)

いかにもな理系男子という感じだが、知的だなと思うのはやはり目力の強さだろうか。波多野もそんな印象だったな、と思っていると、亮介と目が合った。

「どうした?」

「あ、いや、何でもない」

慌てて視線をうどんに戻してすする。しかし亮介はまだ櫂斗を見ていて、その視線の強さにドキドキしてしまう。

(あ、あれ……?)

櫂斗は勝手に身体が熱くなっていくのを感じた。何でだろう、とうどんの汁も全部飲み干すと、ごちそうさまとそのまま毛布を頭までかぶって横になる。

「櫂斗」

静かな亮介の声がした。櫂斗は顔を出さずに、なに、と答える。

「少しは元気が出てきたみたいだな」

からかうような声に、気づいたのか、と顔が熱くなった。というか、どうして分かったのだろう?

櫂斗が何も言えずにいると、丼を片付ける音がする。ありがとう、と言うとフッと笑う声がした。

その後はまたソファーで眠って起きてを繰り返し、夕飯を食べる頃には熱もだいぶ下がっていた。

「退院早々大変だったな」

微熱まで下がって良かった、と亮介はホッとしている。櫂斗もそうだね、と食卓に着いた。ちなみに夕飯は、カレー雑炊だ。

「塾の面接はいつなんだ?」

「落ち着いたら連絡欲しいってだけで、これから日程決めるよ。……怪我以外の事も心配されたから」

「……そうか」

正直に言うと、亮介は少し気にしてしまったらしい。それから黙々と箸を進める。

「ねぇ亮介。おれは記憶が無いから、必要以上に気にする事はないよ? 今だって、ただ流されてる訳じゃなく……ちゃんと自分で決めて亮介といるんだし」

櫂斗は亮介が気にしているであろう事を、分かっていると伝えたかった。

「ああ……ただ、本当に後悔してるんだ」

亮介は目を伏せる。櫂斗は、やり過ぎても反省していないどころか、逆ギレした母親とは大違いだ、と何故かそう思ってしまった。

落ち込む亮介に、櫂斗は笑いかける。でも、彼の表情は晴れないままだ。

「亮介、好きだよ。多分記憶喪失になる前も、好きだったんだなって思うし」

櫂斗はそう言うと、亮介は苦笑した。もうこのネタはよそう、と再び箸を進める。

夕飯を食べ終わると、亮介が片付けてくれた。櫂斗は薬を飲んで一息つくと、亮介はパソコンを片付け始める。

「帰る?」

「ああ。俺がいると落ち着いて寝られないだろ」

どうやら亮介は、昼間ソファーで寝て起きてを繰り返していた櫂斗を見て、そう言ったらしい。多分原因はソファーで寝ていたからだと思うけど、と櫂斗は言うと、彼は櫂斗の頭をわしゃわしゃと撫でた。

櫂斗は思わずその手を掴んでしまう。

「……櫂斗?」

櫂斗は視線を逸らした。顔が熱くなっていくのが分かり、いたたまれなくなってくる。

「…………本当に、帰るの?」

寂しい、もっと一緒にいたい。櫂斗はそんな気持ちが一気に膨らみ、亮介の手をギュッと握る。

「あ、いや、やっぱり今の忘れて? 熱で弱ってるみたいだから……」

そう言いつつ、櫂斗は亮介の手を離せなかった。

「櫂斗……もしかしてお前、したいのか?」

亮介にいきなりそう言われ、ドキリとする。そしてそのままカーッと身体が熱くなり、その顔色の変化に亮介も気付いた。

「……昼間も少し意識してたもんな」

そう言う亮介はいたって普通だ。櫂斗は病院で亮介にイカされて以来、自分で触ることもしていなかった。その余裕が無かったというのが正しいけれど、退院した途端にそうなるとは、恥ずかしい。

「……じ、自分でもあれ以来してなくて……ダメかな?」

目を合わせられないままボソボソと言うと、亮介は分かった、と言って櫂斗をソファーに座らせる。亮介も隣に座っておでこにキスをした。

「まだ熱あるんだから、櫂斗だけな」

「え、でも……」

反論しようとした口は、キスで塞がれる。それと同時に、服の下に手が滑り込んできて、下着の上から胸を撫でられた。

「あ……」

(気持ちいい……)

徐々に性感を高めていくキスと愛撫に、櫂斗は身を委ねる。

櫂斗は目を閉じた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

処理中です...