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12 オコト様と世話係
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ついに来てしまった。
私はオコト様の私室の前で立ち尽くしている。
先日夢の中とはいえ、ショウ様に手を出してしまった私。そして急なオコト様からの呼び出し。これはもう、私の首が物理的に飛ぶ日が来たに違いない、と深呼吸をする。
ショウ様には先程、お世話係を外されるかもしれないという旨をお話してきた。ショウ様は興味なさそうに、「ふーん」と仰っただけだったけれど。
私はもう一度深呼吸をし、意を決してドアをノックする。
どうぞ、とオコト様お付の世話係の声がして、私は部屋の中へと足を踏み入れた。
「う、……何です? この匂い……」
部屋の中に入るや否や、甘ったるい匂いが私の鼻を直撃する。意識も視界もぼやけそうなその匂いに腕で鼻を塞ぐと、「こっちに来なさい」とオコト様の声がした。
私は声がする方へ足を進めると、オコト様は寝室にいらして、ベッドの上で三人ほどの女性とお戯れ中で──慌てて回れ右をしてオコト様に背中を向ける。
どうして私が来ると分かっていて、このタイミングで遊ばれているのでしょう!? それともこれはある種のプレイなのでしょうか!?
「来たわね、リュート」
「はっ! ご用件は何でしょうオコト様」
私は後ろを向いたまま、居住まいだけは正す。不敬かもしれませんが、私は人の情事を覗く趣味はございませんので。
「分かってるでしょう? 薬の効果を聞きたいのよ」
「あんっ」
合いの手のように女性の声が上がる。いや、オコト様続ける気ですか。
「それでしたら、先に申し上げた通り、現実では何の効果もなかったと……」
「現実では、ねぇ……」
「やぁん、オコト様ぁ……!」
オコト様は私の言葉を意味深に返す。……あの、せめて話してる間はプレイを中断しませんか?
「夢の中では、どうだったの?」
「……っ、それは……」
「良かったんでしょう?」
「ああっ、いいですぅ!」
オコト様ははべらせている女性に「正直でいい子ね」とか言っている。私は堪らずオコト様を振り返り、頭を下げた。
「申し訳ございません! 夢の中とはいえ、ご子息に……どんな処罰でも受けますので!」
そう言うと、しばしの沈黙ののち、オコト様ははべらせていた女性たちを下がらせる。私は頭を上げられないまま不動でいると、しんとなった部屋で、オコト様がコツコツとピンヒールで歩いてくる音がした。
「つまり、あの子は夢の中でお前を誘惑したと」
「はっ、いえっ、ショウ様からは……! 私が割と一方的に……」
私は正直に話す。夢の中でもなぜか薬が存在していたので、それを入れてとお願いされたこと。そのあとは私が暴走してしまい、欲望のまま行動してしまったこと。
ああ、私の人生ここで終わりか。せめてショウ様が一人前になるまで見届けたかった。
そんなことを思っていると、オコト様は「素晴らしいわ!」と歓喜の声を上げる。……ん? 素晴らしい?
私は思わず顔を上げる。そこには目をキラキラさせて両手を胸の辺りで組んでいるオコト様がいた。
「あの子、誘惑しても殺さずに済んだのね! 大成長だわ!」
……ええ? そっち?
そう言えば、私の前任者たちは、快楽堕ちして使い物にならなくなったと……もしかしてショウ様は、無駄な殺生は望んでおられない? 魔族なのに?
するとオコト様は、私の心の中を読んだかのように微笑んだ。
「そう。これからはホワイト企業の時代よ! そのために私は人間界に行って研修までしてきたのだから!」
粉骨砕身の時代はもう終わり! 身を粉にして働いてもらっても、お茶が不味くなるだけよ、と笑うオコト様。
……昔から処刑された魔族は干して粉にしてお茶にしていますが。……私は好きですけどね、お茶。
「それで? もっと詳しく聞かせなさい」
「え?」
先程からまさかの展開についていけない私は、上擦った声を出した私に艶然と微笑む。
「あの子とどんなことをしたのか、私に報告しなさい」
「それは……さすがに……」
この世のどこに、息子とのアレコレを聞きたがる母親がいるだろうか。
「オコト様……」
私はどうしても口を開けずにいると、オコト様は「言えないって言うのね」と呟きトルンを呼んだ。
「はい! オコト様! 調教のお時間ですか!?」
一体どこに潜んでいたのか、トル……いや、変態ドM眼鏡野郎はすぐに飛んで出てくる。出てきて第一声がそれかよ。そう突っ込まずにはいられない。
「それはさっきやったでしょ? トルン、リュートに『お仕置き』を」
「えっ?」
まさか変態ドM眼鏡野郎にお仕置きをされるなんて思っていなかった私は、素っ頓狂な声を上げる。
いやいや、オコト様からなら分かるけれど、いや分かりたくないけれど、コイツからお仕置きなんて嫌な予感しかしないっ。
「私の私室で正気を保っていられるほどの魔力耐性……物理的なお仕置きの方が良いわね」
「ちょ、待ってください! それなら物理的に首が飛んだ方がマシです!」
「お黙り! その方が読者様が喜ぶのよ!」
「誰ですかそれ!?」
訳が分からず、私はオコト様と変態ドM眼鏡野郎に別室へと連れていかれる。そこは天井まで透明なビニールでできた、温室だった。
私はオコト様の私室の前で立ち尽くしている。
先日夢の中とはいえ、ショウ様に手を出してしまった私。そして急なオコト様からの呼び出し。これはもう、私の首が物理的に飛ぶ日が来たに違いない、と深呼吸をする。
ショウ様には先程、お世話係を外されるかもしれないという旨をお話してきた。ショウ様は興味なさそうに、「ふーん」と仰っただけだったけれど。
私はもう一度深呼吸をし、意を決してドアをノックする。
どうぞ、とオコト様お付の世話係の声がして、私は部屋の中へと足を踏み入れた。
「う、……何です? この匂い……」
部屋の中に入るや否や、甘ったるい匂いが私の鼻を直撃する。意識も視界もぼやけそうなその匂いに腕で鼻を塞ぐと、「こっちに来なさい」とオコト様の声がした。
私は声がする方へ足を進めると、オコト様は寝室にいらして、ベッドの上で三人ほどの女性とお戯れ中で──慌てて回れ右をしてオコト様に背中を向ける。
どうして私が来ると分かっていて、このタイミングで遊ばれているのでしょう!? それともこれはある種のプレイなのでしょうか!?
「来たわね、リュート」
「はっ! ご用件は何でしょうオコト様」
私は後ろを向いたまま、居住まいだけは正す。不敬かもしれませんが、私は人の情事を覗く趣味はございませんので。
「分かってるでしょう? 薬の効果を聞きたいのよ」
「あんっ」
合いの手のように女性の声が上がる。いや、オコト様続ける気ですか。
「それでしたら、先に申し上げた通り、現実では何の効果もなかったと……」
「現実では、ねぇ……」
「やぁん、オコト様ぁ……!」
オコト様は私の言葉を意味深に返す。……あの、せめて話してる間はプレイを中断しませんか?
「夢の中では、どうだったの?」
「……っ、それは……」
「良かったんでしょう?」
「ああっ、いいですぅ!」
オコト様ははべらせている女性に「正直でいい子ね」とか言っている。私は堪らずオコト様を振り返り、頭を下げた。
「申し訳ございません! 夢の中とはいえ、ご子息に……どんな処罰でも受けますので!」
そう言うと、しばしの沈黙ののち、オコト様ははべらせていた女性たちを下がらせる。私は頭を上げられないまま不動でいると、しんとなった部屋で、オコト様がコツコツとピンヒールで歩いてくる音がした。
「つまり、あの子は夢の中でお前を誘惑したと」
「はっ、いえっ、ショウ様からは……! 私が割と一方的に……」
私は正直に話す。夢の中でもなぜか薬が存在していたので、それを入れてとお願いされたこと。そのあとは私が暴走してしまい、欲望のまま行動してしまったこと。
ああ、私の人生ここで終わりか。せめてショウ様が一人前になるまで見届けたかった。
そんなことを思っていると、オコト様は「素晴らしいわ!」と歓喜の声を上げる。……ん? 素晴らしい?
私は思わず顔を上げる。そこには目をキラキラさせて両手を胸の辺りで組んでいるオコト様がいた。
「あの子、誘惑しても殺さずに済んだのね! 大成長だわ!」
……ええ? そっち?
そう言えば、私の前任者たちは、快楽堕ちして使い物にならなくなったと……もしかしてショウ様は、無駄な殺生は望んでおられない? 魔族なのに?
するとオコト様は、私の心の中を読んだかのように微笑んだ。
「そう。これからはホワイト企業の時代よ! そのために私は人間界に行って研修までしてきたのだから!」
粉骨砕身の時代はもう終わり! 身を粉にして働いてもらっても、お茶が不味くなるだけよ、と笑うオコト様。
……昔から処刑された魔族は干して粉にしてお茶にしていますが。……私は好きですけどね、お茶。
「それで? もっと詳しく聞かせなさい」
「え?」
先程からまさかの展開についていけない私は、上擦った声を出した私に艶然と微笑む。
「あの子とどんなことをしたのか、私に報告しなさい」
「それは……さすがに……」
この世のどこに、息子とのアレコレを聞きたがる母親がいるだろうか。
「オコト様……」
私はどうしても口を開けずにいると、オコト様は「言えないって言うのね」と呟きトルンを呼んだ。
「はい! オコト様! 調教のお時間ですか!?」
一体どこに潜んでいたのか、トル……いや、変態ドM眼鏡野郎はすぐに飛んで出てくる。出てきて第一声がそれかよ。そう突っ込まずにはいられない。
「それはさっきやったでしょ? トルン、リュートに『お仕置き』を」
「えっ?」
まさか変態ドM眼鏡野郎にお仕置きをされるなんて思っていなかった私は、素っ頓狂な声を上げる。
いやいや、オコト様からなら分かるけれど、いや分かりたくないけれど、コイツからお仕置きなんて嫌な予感しかしないっ。
「私の私室で正気を保っていられるほどの魔力耐性……物理的なお仕置きの方が良いわね」
「ちょ、待ってください! それなら物理的に首が飛んだ方がマシです!」
「お黙り! その方が読者様が喜ぶのよ!」
「誰ですかそれ!?」
訳が分からず、私はオコト様と変態ドM眼鏡野郎に別室へと連れていかれる。そこは天井まで透明なビニールでできた、温室だった。
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