閑職特務機関の華・センチネルバース

大竹あやめ

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第8章

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「貴弥……少しだけ我慢してくれ」

 そう言って久詞は体勢を変える。貴弥は彼が座った膝の上に座る形になり、そのまま尻の狭間を探られた。

「……ここに。……良いか?」

 抱きついた久詞の身体が熱い。聞かれた質問に貴弥は小さく頷いた。その場所を使うということは知ってはいたので、驚きはないし、むしろ早く久詞と繋がりたいとさえ思ってしまう。こんなことを思うなんて自分でも意外で、そういう欲はあまりないと思っていたのになと恥ずかしくなった。

「少しでも痛かったら言ってくれ」

 解さないと入らないから、と久詞は貴弥の後孔に触れた。当然ながら普段は触らない場所だ。しかし敏感であるそこを、久詞の指で撫でられただけで、貴弥は身体を縮こまらせる。

「力を抜くんだ貴弥」

 落ち着け、と自分に言い聞かせている久詞の緊張と興奮が伝わってくる。貴弥は一度達したにも関わらず、薬のせいなのか熱は収まらない。久詞に抱きついたまま大きく息を吐くと、彼の指が緊張で強ばっている蕾を押してくる。

「……っ」

 どうしてか、久詞の指が濡れている気がする、と貴弥は思った。しかしすぐに、今しがた自分が出したもののせいだと気付き、いたたまれなくなる。そんなものを潤滑剤の代わりに使おうだなんて、切羽詰まり過ぎだろ、と久詞の頭を抱きしめた。

『我ながら切羽詰まってるな』

 すると久詞の感情が流れ込んできて、そんな声が聞こえてくる。同じことを考えていた、と貴弥は思わず笑うと、久詞が「痛いか?」なんて聞いてきた。

「いや……、同じことを考えてるなって」

 貴弥は顔を上げて久詞を見ると、強い意志を宿した彼の瞳があった。

「……同じこと?」
「ん」

 貴弥は短く肯定すると、久詞に唇を寄せる。そっとそこが合わさると、久詞と貴弥の気持ちがリンクした感覚がした。

『早く欲しい』

 お互いが欲しくて気持ちが重なる。もっと、深くまで繋がりたいと気が急く。

「久詞……早く、……っあ!」

 水っぽい音を立てて、貴弥の後ろに指が入ってくる。そのまま奥まで入れて、と腰を動かせば、肉襞を割って久詞の指が入ってきた。

「痛くは、ないか?」
「んん……」

 久詞が掠れた声で聞いてくる。痛みは全然ないけど、と貴弥は呼気を弾ませた。異物感があり快感とは程遠い感覚に、気持ちばかりが逸る。そんな気持ちを宥めるために、貴弥は久詞の唇にかぶりついた。

「貴弥……」
 息継ぎの間に、喘ぐような久詞の声が聞こえる。それだけで貴弥は胸がギュッと締めつけられ、切なくなった。早く欲しいと呟けば、彼は苦しそうに顔を歪める。

「少し落ち着け。お前に怪我をさせたくない」
「だ、って……!」

 嘘つき、と貴弥は心の中で叫んだ。久詞だって、本当は今すぐにでも自分に入れたいと思っているくせに。
 流れ込んでくる久詞の感情は、言葉ほど冷静じゃない。彼は、怪我をさせてでも自分の後ろに楔を打ち込み、めちゃくちゃにしたいという気持ちと、大事にして気持ちよくさせてあげたい、という気持ちで戦っている。
 そして貴弥は、そんな久詞の興奮と情熱に同調してしまうのだ。

「欲しいよ久詞っ、あんただってそう思ってるはずなのになんで……!?」

 貴弥が両手で彼の頬を撫でた瞬間、久詞の目に鈍い光が宿った。それを見て貴弥は全身がぞわりと粟立ち、腰が震える。堪らず久詞のベルトを外し、スラックスを寛げると、下着の下で窮屈そうにしていた彼の剛直を取り出した。

「貴弥っ、まだ無理だ……無茶するな」
「いいから……っ」

 上擦った声で制止されて、貴弥は中に入っている指を抜いてと懇願する。久詞の熱を両手でゆるゆると扱けば、驚いたように中の指が動いて貴弥はビクついた。

「あっ、あっ、……っ、久詞……っ」
「このっ、……人がせっかくっ」
「そっ、んなのっ、いらない……っ」

 後ろから水っぽい音がして羞恥心が煽られる。しかもいつの間にか異物感が消えていて、触れられている場所が、ほんの少し熱を帯びていることに気付いた。

「んっ、あ……っ、なに? なにこれっ?」

 そう思ったら後ろが熱くなってきてムズムズしてくる。貴弥はそのムズムズをどうにかしたくて腰を動かすと、唐突に前を握られて悲鳴を上げた。

「……ったく、籾山も余計なことをしてくれたな」
「あっ、あっ、――ん……っ!」

 そしてそのまま扱かれ、貴弥は再び久詞にしがみつく。彼の指がある部分に触れる度、きゅう、と後ろも身体も縮こまる感覚がした。そのまま刺激を受け入れていると視界が霞んでいく。

「ひさし……っ、い、いくっ、いっ――……!」

 貴弥は二度目の絶頂を迎える。それは一度目より深くて長く、気付けば大量の体液を吐き出していた。
 なんだこれ、頭がクラクラする、と貴弥は顔を上げる。けれど次の瞬間、声にならない悲鳴を上げた。

「……ッ!!」

 貴弥の後ろに、熱いモノが入ってきていた。指とは比べ物にならない質量で圧迫感が凄まじい。息もまともにできず口をパクパクさせて、生理的な涙が一気に溢れ出てくる。
 欲を優先して欲しがった自分を後悔した。こんなにキツイなんてと思いながら久詞を見ると、彼もこちらを見ている。

『こんなに……大事な存在になるなんて……』
「あ……」

 久詞の感情が入ってきた。

「貴弥……キツイな。すまん、でももう少し……」
「あっ? ぅあ、あああっ」

 かわいい、好きだ、大事、愛してる――。久詞が考えている言葉や感情が、まるで川を逆流するように押し寄せてくる。下半身は苦しくて仕方がないけれど、久詞から感じる愛情に、貴弥は涙が止まらなくなった。
 ずっと、そんなふうに言ってくれる人を求めていたのかもしれない。久詞に出逢えて嬉しいだなんて、この時ほど感じたことはなかった。こんなに自分だけを見てくれる人なんて、今までいなかったから。

「貴弥……っ」
「んぅ……っ」

 久詞が下から突き上げてきた。行為が初めての貴弥に遠慮しているのか、決して強くはなかったけれど、貴弥が翻弄されるには充分な刺激だった。

「痛くないか?」
「だい、じょう、ぶ……。あっ、んん、――な、にこれ気持ちいい……っ!」

 穿ちながら聞いてくる久詞に、貴弥は正直に答える。身体の快感と心の快感ですべてが満たされる……そんな気分だ。

「まったく……お前は煽るのが上手いな……っ」

 薬のせいなのか素なのか、また今度確かめないと、と久詞は笑った。彼のそんな顔を見た貴弥は、後ろが勝手に痙攣し、意識が遠のく。同時に久詞も呻き、また笑った。

「気持ちいいな、貴弥。お前の心音、声色、汗の匂い、表情……お前の中も。全部俺が好きだって訴えてる」
「う、ぅぅ自惚れんなっ。あっ、やっ、あああっ」

 ここまでしておいてそれはないだろう、と久詞に耳元で囁かれた。先程まで大事にしたいと慎重だった久詞が、いきなり余裕を出し始めて形勢逆転だ。
 どうして男同士でこんなことをするほど、久詞は自分を好きになってくれたのだろう? そんな疑問がどうでも良くなるほど、貴弥はもたらされる快感に飲み込まれていく。

「久詞……、久詞……っ」

 夢中で名前を呼ぶと、頭を引き寄せられ唇にかぶりつかれた。その状態で奥を穿たれ苦しくて喘げば、また後ろが勝手にうねる。

「……っ、貴弥……っ」

 久詞が小さく呻いた。グッと腰を押し付けられ、下腹部が熱くなる。同時に貴弥も達し、深い絶頂に音も光も遠ざかった。
 ――一生大事にする。
 そんな声が聞こえたような気がしたけれど、貴弥はそれを最後に気を失ってしまった。

 ◇ ◇ ◇

 目が覚めると、そこは白い部屋だった。しかも、聞き覚えのある機械の音がする。忙しないその音に不安になり起き上がると、見えた光景にギョッとした。
 貴弥自身がベッドの上にいるにも関わらず、もう一人の自分がベッドに横たわっているのだ。慌てて降りると、やはり呼吸器を付けた自分がそこにいる。

(え、なに? どういうことだ?)

 自分が二人いるというのはどういうことか。混乱する頭で考えていると、ある人物がベッドの近くに来る。

「あ、寒川さん。今日のお仕事は終わりですか?」
「はい。……ご家族とは連絡取れました?」

 来たのは久詞だ。彼は近くにいた看護師に質問するものの、看護師は苦笑するだけだった。その態度で久詞も察したのだろう、ため息をつく。

「……子供が大変な目に遭ってるのに、親は何をやってんだ……」

 苦々しく吐き捨てるように呟いた久詞に、貴弥は言葉が見つからず立ち尽くした。
 そうだ、自分が昏睡状態になったのにも関わらず、父親は一度も見舞いに来なかったのだ。そう思い出し、「あれ?」と貴弥は違和感を覚える。
 自分が昏睡状態の時の記憶はないはず。それなのに、どうして久詞がここに来ていたことを知っているのだろう?

「それでも、寒川さんが毎日話しかけてくれて、貴弥くんも嬉しいと思いますよ?」
「……まあ、この子は【ガイド】ですし……」

 【センチネル】なら、何かできるのではと思ってるだけだ、と久詞の心の声が聞こえた。
 貴弥は意識不明の自分と、久詞の感情が読み取れること、そしてこの状況を踏まえてある答えを導き出す。
 これは久詞の記憶だ。どうして彼の記憶が見えるのか、具体的な理屈はわからない。繋がったせいなのかも、と考える。
 久詞は貴弥が横たわるベッドのそばに来ると、なんのためらいもなく手を握った。それを見ていた貴弥は、自分がここにいるのに複雑な感覚になる。

「……手では反応してくれるようになりましたね」
「ええ。声も聞こえてるはずですから、目を覚ますのももう少しかもですね」

 久詞と看護師の会話に、貴弥は横たわる自分の手を見た。確かにしっかりとは言い難いけれど、久詞の記憶の中の貴弥は、軽く彼の手を払おうとしている。

「……うん。怖かったな。初めてのケアがあれじゃあ、トラウマになるのも無理はない」

 久詞の声は子供に話しかけるのには少しぎこちなかったけれど、優しさは伝わってきた。しかし、彼から感じるのはやはり、貴弥の両親への怒りだ。

「え? 貴弥くんのお父さん? こちらです」

 すると、別の看護師が怒りを隠さない声で言った。早足でこちらに来るのはその看護師と、貴弥の父親だ。記憶より彼は頼りなく見え、こんな人だったっけ? と貴弥は彼らを見守る。

「この方は特務機関一課の寒川さん。貴弥くんが倒れた時に居合わせてくれた方です」
「……ども……」
(子供が大変な目に遭ったっていうのに見舞いにも来ず、その上この態度……なんだコイツは)

 貴弥は父親に向ける久詞の感情をハッキリと感じる。嫌悪と怒りが混ざったそれは、貴弥の胸を苦しくさせた。

(でも、親父はいつもこうだった)

 貴弥の記憶より痩せて弱々しい父親だったが、彼の反応は驚くことじゃない。普通のことだから久詞も怒らないで欲しいと思う。

「……一時期は本当に危なかったようですが、なんとか持ち直しました。依然昏睡状態なのには変わりませんが」

 久詞は今までの経緯を説明するも、父親はベッドの貴弥を見ようともしない。それどころか、次第にソワソワと落ち着かなくなり、説明をしていた久詞の言葉を遮る。

「あ、あのっ。……貴方が貴弥のそばにいるなら、俺はもういいですよね?」
「――は?」

 遠慮がちに発せられた父親の言葉に、貴弥も思わず耳を疑った。久詞も眉根を寄せて父親を見ている。

「ちょっとお父さん、意識はなくても貴弥くんは聞こえてますよっ。なんて事を言うんですかっ」

 看護師にそう窘められても、父親は落ち着かなく視線を泳がせながら、ヘラヘラと笑うだけだ。
 幾度となくそんな姿を見てきた貴弥は、やっぱり息子がこんな状態でもコイツは変わらないのか、とため息をつく。

「いやー俺には子育ては無理というか……ましてや【ガイド】だったなんて……」
「ちょっと来い」

 父親にあるまじき発言をし始めた彼を、久詞は胸ぐらを掴んで連れていく。久詞からは強い怒りをひしひしと感じて、貴弥は心配で彼らを追いかけた。
 そして着いたのは休憩所。ベンチに父親を突き飛ばした久詞は、どういうつもりだ、と低い声で問う。

「あの子が運ばれてから二週間だぞ。人を助けようとして自分も危ない目に遭ってる。そんな子を、どうして放っておいた?」

 それでも親か、と久詞は言うものの、相変わらず父親は困ったように笑うだけだ。

「それは……、あー、色々と事情が……」
「子供が昏睡状態の時に、優先させる事情とはどんなものだ、ああ?」

 久詞は再び父親の胸ぐらを掴む。彼の予想通りの反応に貴弥は驚きもしないけれど、久詞がここまで怒ってくれたことに嬉しさを感じた。

「い、言えないんだよ……っ」

 しかし、今までのらりくらりとしていた父親の態度が、貴弥も初めて見るものに変わる。彼は両手で掴まれた胸ぐらの手を取って離した。

「……聞かれてるのか」

 ごく小さな声で久詞が尋ねると、父親は苦しそうに顔を歪め、小さく頷く。
 そして握っていた久詞の手を額に当てて、父親は消え入りそうな声で言った。

「貴弥を守るにはこれしかないんだ。俺はそのうち殺される……だからアンタが……」
「ふざけるな!!」

 ガタン! と父親は再びベンチに投げ飛ばされる。久詞は倒れた彼に馬乗りになり、また胸ぐらを掴んで揺さぶった。
 ――俺が叫んでいる間に全部話せ。
 久詞の記憶だからなのか、揉み合う二人を眺めていても、彼らの声はしっかりと聞こえた。久詞は大声で罵っている間、父親はその声で隠すように小さな声で話している。【センチネル】である久詞相手だからこそ、できる芸当だ。
 ――愛した人を逃がしたい。そのために俺が囮になった。
 ――貴弥がケアした【センチネル】も関係してる。俺がそばにいると狙われる。
 ――貴弥は、俺と関係ないところで平和に暮らして欲しい。そのために突き放してきた。
 父親の発言は、どれも初めて聞くものばかりだった。好かれていたら追ってきてしまうから、嫌われるようなことばかりしているだとか、自分がろくでもないせいで貴弥に苦労ばかりさせてるとか。

(そんなこと、一言も言ってなかったじゃないか……)

 貴弥は拳を握る。たった今聞いたことが、本当だなんて信じたくなかった。
 本当だとしたら自分は――今まで自分を奮い立たせて生きてきた意味がなくなるから。

「それでも! どんな事情があろうと一緒に暮らすのが親子じゃないのか!?」

 久詞が貴弥の心を代弁したかのように叫ぶ。すると父親は、顔をくしゃくしゃにして泣き始めたのだ。

「頼むよ……子供は嫌いなんだ。アンタが代わりに育ててよ……」

 ――もっと俺がまともな人生を歩んでいたら。
 父親はそう言って久詞の下から抜け出した。そして一目散に逃げていく。久詞は一瞬追いかけようとしたみたいだが、すぐに貴弥の身を案じたのだろう、早足で貴弥のベッドに戻った。

『籾山は……まだ意識不明の重体だな』

 久詞の思考が流れ込んでくる。ふざけるな、という気持ちでいっぱいだったようだが、すぐに彼は一課にメールをしていた。
 籾山のことを調べるために、一課を辞めるという報告だった。当然反対されたが、久詞は後釜を神津に押し付けた。
 その後、少しして遊が離脱しそうなところを久詞は捕まえる。急ごしらえでできた四課は久詞が私的感情と独断で行動した結果であり、当然タワービルの中でも良く思わない人がたくさんいた。

『それでも。あの子に何かあるよりはマシだ』

 そんな久詞の意識が流れ込んでくる。
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