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第7章
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すると突然、ドアが開く音がした。二重扉だったようで、内側のドアが開く前に籾山は素早く上から退き、貴弥を盾にするように抱き上げてベッドから降りる。
「ひさ、し……」
部屋に入ってきたのはスーツを着た精悍な顔立ちの背が高い男……やはり久詞だった。
約束通り来てくれた、と貴弥は泣きそうになる。
しかし彼は息を切らしているものの、貴弥を一瞥しただけで、両手で銃を構えつつ籾山を見据えている。
すると突然、貴弥は首を絞められた。苦しさに呻くと、籾山は唾を飛ばす勢いで貴弥に迫る。
「なんでこの俺が気付かなかった!? お前、何かしただろ!?」
「貴弥を離せ」
興奮した様子の籾山とは対照的に、久詞は冷静に貴弥と籾山を観察していた。貴弥はこめかみに固いものが当てられて、ドキリとする。
「は? そう言われて素直に聞く奴がどこにいる?」
それにな、と籾山は続ける。
「お前はその銃を使えない。集中してる以上、【ガイド】がいる俺のほうが有利だ」
そう言いながら、貴弥は彼がこれからどう逃げるか、冷静に考えているのが読めた。
だから貴弥も回らない頭で考える。
籾山も銃が使えないのは同じだ。集中した状態で発砲すれば、耳に大きなダメージを受ける。【センチネル】であるがゆえの弱点は、籾山も同じだ。
「それはどうだろう? 外の奴らは皆伸びてるか、捕まってるぞ」
聴いてみたらどうだ、と久詞は言った。
「はっ、そんな脅しで俺が大人しくするとでも?」
しかし貴弥は籾山がこっそり耳を澄ましたのを感じた。ここでさらに彼の五感の感度を下げ、奴の動揺を誘う。
「……は? お前俺に何をしてる? ……何も聞こえない! 戻せ! お前がここまで制御できるなんて聞いてないぞ!!」
「大人しくしろ!」
するとバタバタと、大人数が部屋に入ってきた。特殊な装備をした彼らは、【SIT】と書かれた防護服を着ており、籾山は動く間もなくあっさりと捕えられる。
しかし厄介なのはそのあとだった。貴弥と離された籾山は一気に感覚が戻ったらしく、暴れて騒ぎ出したのだ。
「お前ら! このガキ一人のためにどれだけ人を使ってんだ!?」
うるさい! うるさい! と喚く籾山は大人数人で抑えているにも関わらず、ものすごい力で暴れている。その上貴弥に近付こうとしたので床に押し倒され、身動きが取れなくなっていた。それでも狂ったように叫び出したので貴弥は「ゾーンだ!」と叫ぶ。
その時、室内で耳をつんざく程の破裂音がした。即座に身を縮こまらせた貴弥は、音がしたほうを見る。
そこには倒れていく久詞と、その後ろから見えた遊の姿。――彼は銃を構えて、銃口は久詞に向けられていた。
貴弥には、それがスローモーションのように見えていた。銃から上がる硝煙、久詞が床に倒れる音、そして、構えていた銃を下ろして息を吐いた遊の姿。
「――遊ッ!!」
弾かれたように貴弥は遊に駆け寄ろうとする。しかし足がもつれて、倒れそうになった所を特殊部隊の人に支えられた。
「お前! なんてことを……! 何してんだ!?」
急に視界が滲んだ。床に倒れた久詞は動かない。どうして、なんで、と貴弥は遊に迫る。
「貴弥っ、落ち着け!」
こちらに駆け寄ってきた遊は貴弥を抱きとめた。しかし貴弥は彼の胸を拳で叩きながら、ズルズルと座り込む。
「なんてことをしたんだよ! ひさ、久詞が……っ!」
「お、落ち着けって! よう見てみ? 本物やない!」
ほら、と貴弥の手に押し付けられたのは、見るからに殺傷能力がある銃とは違っていた。どちらかと言えば運動会で見る、音だけが鳴るピストルのように見える。
「……え? なん、なんで……?」
「籾山を大人しくさせなあかんやろ?」
見てみ、と促され貴弥は籾山を見た。すると彼も気を失ったようで、特殊部隊に担がれて部屋を出ていくところだった。
「聴覚が発達した【センチネル】はここに倒れた二人しかいない。過集中になるとどうなるか、話したやろ?」
「いや、ここにもう一人いるぞ」
遊の説明に割って入ってきた声がし、貴弥はそちらを見る。そこにはイヤーマフをした神津がこちらに来るところだった。どうやら彼はそのイヤーマフで、音の衝撃を和らげていたらしい。
神津は倒れた久詞を跨いで貴弥のそばまで来ると、目線を合わせるようにしゃがむ。相変わらず目つきは鋭いが、貴弥を見つめる視線になぜか優しさを感じた。
「ご苦労。無事籾山を確保できた。……一応病院で検査をしてもらえ」
依存性がないものだと良いがな、とすぐに神津は立ち上がる。
「ち、ちょお待て! それだけか? 訓練を受けていない貴弥が、ここまでしたんやで!? もっと言い方あるやろ!」
「ああ。だが我々には次の任務がある。……そうだ」
貴弥を見下ろす神津の目は、やっぱり鋭い。けれど不思議と、褒められている……そんな感情を貴弥は彼から読み取った。
「貴弥、一課に来たいと言うなら歓迎する。もっとも、このバカが許すとは思えんが」
このバカ、のところで久詞を見た神津は、「二人で病院に行って、ゆっくり戻ってこい」と言い残し去っていった。
急に静かになった部屋で、貴弥の弾んだ呼吸の音だけがする。すると、遊は気まずそうに立ち上がった。
「とりあえず、貴弥も久詞も安全な所に、やな。……貴弥、その、……もうちょい我慢してや?」
久詞も気を失ってるだけやで大丈夫、と遊は久詞の頬を軽く叩く。すぐに目を開けた久詞は、ゆっくり起き上がると、頭を振った。
「……悪い」
「いや、これが条件やったからしゃーない」
「久詞……っ」
床に座った久詞に、貴弥は這っていって抱きつく。久詞が撃たれたかと思った、と腕に力を込めると、彼は説明してくれた。
「【SIT】の突入まで待てなかったからな。貴弥が呼んでくれたおかげで場所はわかったし、先に行くと言ったら神津が急遽作戦を考えてくれた」
ではやはり、神津が全面的にサポートしてくれたのだろう。初めて名前を呼ばれたので、神津に役に立ったと思われたのかもしれない。
「……そっか。……良かったぁ……っ。俺、作戦と違う流れになったからどーしよーかと……っ」
ここにきて本当に安堵したのか、貴弥はボロボロと涙が落ちてきた。言葉通り、久詞は呼べば駆けつけてくれた。自分の声は、ちゃんと久詞に届いていたんだと思ったら、嬉しくてまた泣けてくる。すると急にまた腰の奥が切なくなって久詞にしがみついた。
その様子に気付いた遊が、とりあえず外へ行こうと促す。貴弥は立ち上がろうとしたものの、ふらついて歩けなかったので、久詞に運んでもらうことにした。
「ってか、恥ずかしい……」
今更ながら、身体は興奮状態なのだ。しかも自分で歩けない姿を見られるのは耐え難い。貴弥はそう言うと、人が少ないルートで車まで行こう、と背負われた。
(う、……この体勢……)
成人男性をお姫様抱っこで運ぶのは負担が大きい。だから貴弥を背負うのが一番いいことはわかっている。けれどこの体勢は、貴弥の股間が久詞の腰に当たるし、薬が効いている状態ではそれが甘い刺激となって、貴弥の脳を痺れさせてしまう。
貴弥は久詞の前に回した手に力を込めた。こんな刺激で達してしまうのは自分のプライドが許さない。
なんとか気を逸らして車まで来られたものの、貴弥の体調は酷くなっていた。後部座席に優しく座らされ、久詞がそのまま車に乗りこみドアを閉めるのも、どこか遠くで起きていることとしか認識できない。
「……限界そうだな」
久詞がジャケットを脱ぎ、ネクタイを解いて助手席に放り投げる。貴弥は重たい腕を上げて近付いた久詞を抱きしめると、久詞も強く抱きしめてくれた。
「久詞……っ、おれ……っ」
これをどうにかしたい、と消え入りそうな声で貴弥は腰を動かす。しかし、こんな状態でも久詞から感じるのは躊躇いだった。
「貴弥……、少し落ち着け」
「嫌だっ。俺、久詞に触って欲しい……!」
「……っ」
まずい、抱き潰す自信しかない、と久詞から心の声が聞こえる。彼がそんなふうに思っているなら、遠慮なくめちゃくちゃにしてくれていいのに、と貴弥は思う。
「……本当にいいのか?」
その確認は、貴弥を【ボンド】にしてもいいのかという、久詞の最終確認だった。
この一線を越えてしまえば、貴弥は久詞だけの【ガイド】になる。今後、遊の【ガイド】のことも考えなければならなくなるし、お互いの人生に大きく関わることだから、慎重に選ばないといけないのはよくわかっていた。
けれど貴弥は久詞の真っ直ぐな視線を受け止め、小さく頷く。
これは薬のせいでそういう気分になっているだけじゃない。自分は、自分の意思で久詞の隣にいたいし、久詞を支えたい。置かれた場所で――久詞のそばで咲きたいのだ。
「きつかったら言ってくれ」
「ん……」
慎重に、暴走するな、と久詞の心の声が聞こえる。必死に言い聞かせているようなそれに、貴弥はいいから、と言って久詞を引き寄せた。
唇が合わさる。貴弥にはキスの経験はなかったけれど、気持ちの赴くままに舌を出すと、久詞の唇に当たった。
「……っ、こら貴弥、あまり煽るな」
「何でっ? 俺これを早くどーにかしたいっ」
慌てて掠れた久詞の声に、貴弥は顔が燃えるかと思うほど熱くなる。自らパンツを下着ごと下ろし、今にも爆発しそうな切っ先を握る。
「ん……っ」
たったそれだけで、貴弥の全身に切ない痺れが走った。堪らずそこを扱くと、ゾクゾクと何かが背中を這い上がる感覚がする。
「は、ぁ……っ」
「……っ、待て、そんな乱暴に……」
「だっ、て……、……あっ」
貴弥は慰めていた手を止められ、思わず声を上げた。しかし久詞の手が貴弥の手と重なり、貴弥の怒張を優しく撫でる。
「ぅ、あ……っ」
「……一人でしないのか? そういえば、そんな様子はあまり聞いたことがなかったな」
自分で触るのとはあまりにも違う感覚に、貴弥は戸惑った。どうしてそんなことまで知ってる、とつっこみたかったけれど、それどころじゃない。
すぐに蜜を溢れさせた先端を見て、貴弥は這い上がってきた射精感に忙しなく足を動かす。嘘だ、こんなに早く絶頂が来るなんて。
「ひ、久詞……っ」
俯くと口からも蜜が溢れる。視線を送ったその先の光景に、貴弥は脳が灼けるほどの興奮を覚えた。
久詞のスラックスの前が膨らんでいる。自分を見て興奮しているのだと思ったら、ゾクゾクが止まらなくなった。急激に視界が霞み、音もなくなる。
「は……っ、あ……!」
息を吐き出すと同時に、貴弥の先端からも熱が吐き出された。絶頂の快感に身体を打ち震わせていると、久詞が間近で顔を見ていることに気付く。
かわいい、という声が聞こえたのは久詞の声なのか、彼の心の声なのか、貴弥はわからなかった。気恥ずかしくて顔を逸らすと、久詞はこめかみにキスをしてくる。
「ひさ、し……」
部屋に入ってきたのはスーツを着た精悍な顔立ちの背が高い男……やはり久詞だった。
約束通り来てくれた、と貴弥は泣きそうになる。
しかし彼は息を切らしているものの、貴弥を一瞥しただけで、両手で銃を構えつつ籾山を見据えている。
すると突然、貴弥は首を絞められた。苦しさに呻くと、籾山は唾を飛ばす勢いで貴弥に迫る。
「なんでこの俺が気付かなかった!? お前、何かしただろ!?」
「貴弥を離せ」
興奮した様子の籾山とは対照的に、久詞は冷静に貴弥と籾山を観察していた。貴弥はこめかみに固いものが当てられて、ドキリとする。
「は? そう言われて素直に聞く奴がどこにいる?」
それにな、と籾山は続ける。
「お前はその銃を使えない。集中してる以上、【ガイド】がいる俺のほうが有利だ」
そう言いながら、貴弥は彼がこれからどう逃げるか、冷静に考えているのが読めた。
だから貴弥も回らない頭で考える。
籾山も銃が使えないのは同じだ。集中した状態で発砲すれば、耳に大きなダメージを受ける。【センチネル】であるがゆえの弱点は、籾山も同じだ。
「それはどうだろう? 外の奴らは皆伸びてるか、捕まってるぞ」
聴いてみたらどうだ、と久詞は言った。
「はっ、そんな脅しで俺が大人しくするとでも?」
しかし貴弥は籾山がこっそり耳を澄ましたのを感じた。ここでさらに彼の五感の感度を下げ、奴の動揺を誘う。
「……は? お前俺に何をしてる? ……何も聞こえない! 戻せ! お前がここまで制御できるなんて聞いてないぞ!!」
「大人しくしろ!」
するとバタバタと、大人数が部屋に入ってきた。特殊な装備をした彼らは、【SIT】と書かれた防護服を着ており、籾山は動く間もなくあっさりと捕えられる。
しかし厄介なのはそのあとだった。貴弥と離された籾山は一気に感覚が戻ったらしく、暴れて騒ぎ出したのだ。
「お前ら! このガキ一人のためにどれだけ人を使ってんだ!?」
うるさい! うるさい! と喚く籾山は大人数人で抑えているにも関わらず、ものすごい力で暴れている。その上貴弥に近付こうとしたので床に押し倒され、身動きが取れなくなっていた。それでも狂ったように叫び出したので貴弥は「ゾーンだ!」と叫ぶ。
その時、室内で耳をつんざく程の破裂音がした。即座に身を縮こまらせた貴弥は、音がしたほうを見る。
そこには倒れていく久詞と、その後ろから見えた遊の姿。――彼は銃を構えて、銃口は久詞に向けられていた。
貴弥には、それがスローモーションのように見えていた。銃から上がる硝煙、久詞が床に倒れる音、そして、構えていた銃を下ろして息を吐いた遊の姿。
「――遊ッ!!」
弾かれたように貴弥は遊に駆け寄ろうとする。しかし足がもつれて、倒れそうになった所を特殊部隊の人に支えられた。
「お前! なんてことを……! 何してんだ!?」
急に視界が滲んだ。床に倒れた久詞は動かない。どうして、なんで、と貴弥は遊に迫る。
「貴弥っ、落ち着け!」
こちらに駆け寄ってきた遊は貴弥を抱きとめた。しかし貴弥は彼の胸を拳で叩きながら、ズルズルと座り込む。
「なんてことをしたんだよ! ひさ、久詞が……っ!」
「お、落ち着けって! よう見てみ? 本物やない!」
ほら、と貴弥の手に押し付けられたのは、見るからに殺傷能力がある銃とは違っていた。どちらかと言えば運動会で見る、音だけが鳴るピストルのように見える。
「……え? なん、なんで……?」
「籾山を大人しくさせなあかんやろ?」
見てみ、と促され貴弥は籾山を見た。すると彼も気を失ったようで、特殊部隊に担がれて部屋を出ていくところだった。
「聴覚が発達した【センチネル】はここに倒れた二人しかいない。過集中になるとどうなるか、話したやろ?」
「いや、ここにもう一人いるぞ」
遊の説明に割って入ってきた声がし、貴弥はそちらを見る。そこにはイヤーマフをした神津がこちらに来るところだった。どうやら彼はそのイヤーマフで、音の衝撃を和らげていたらしい。
神津は倒れた久詞を跨いで貴弥のそばまで来ると、目線を合わせるようにしゃがむ。相変わらず目つきは鋭いが、貴弥を見つめる視線になぜか優しさを感じた。
「ご苦労。無事籾山を確保できた。……一応病院で検査をしてもらえ」
依存性がないものだと良いがな、とすぐに神津は立ち上がる。
「ち、ちょお待て! それだけか? 訓練を受けていない貴弥が、ここまでしたんやで!? もっと言い方あるやろ!」
「ああ。だが我々には次の任務がある。……そうだ」
貴弥を見下ろす神津の目は、やっぱり鋭い。けれど不思議と、褒められている……そんな感情を貴弥は彼から読み取った。
「貴弥、一課に来たいと言うなら歓迎する。もっとも、このバカが許すとは思えんが」
このバカ、のところで久詞を見た神津は、「二人で病院に行って、ゆっくり戻ってこい」と言い残し去っていった。
急に静かになった部屋で、貴弥の弾んだ呼吸の音だけがする。すると、遊は気まずそうに立ち上がった。
「とりあえず、貴弥も久詞も安全な所に、やな。……貴弥、その、……もうちょい我慢してや?」
久詞も気を失ってるだけやで大丈夫、と遊は久詞の頬を軽く叩く。すぐに目を開けた久詞は、ゆっくり起き上がると、頭を振った。
「……悪い」
「いや、これが条件やったからしゃーない」
「久詞……っ」
床に座った久詞に、貴弥は這っていって抱きつく。久詞が撃たれたかと思った、と腕に力を込めると、彼は説明してくれた。
「【SIT】の突入まで待てなかったからな。貴弥が呼んでくれたおかげで場所はわかったし、先に行くと言ったら神津が急遽作戦を考えてくれた」
ではやはり、神津が全面的にサポートしてくれたのだろう。初めて名前を呼ばれたので、神津に役に立ったと思われたのかもしれない。
「……そっか。……良かったぁ……っ。俺、作戦と違う流れになったからどーしよーかと……っ」
ここにきて本当に安堵したのか、貴弥はボロボロと涙が落ちてきた。言葉通り、久詞は呼べば駆けつけてくれた。自分の声は、ちゃんと久詞に届いていたんだと思ったら、嬉しくてまた泣けてくる。すると急にまた腰の奥が切なくなって久詞にしがみついた。
その様子に気付いた遊が、とりあえず外へ行こうと促す。貴弥は立ち上がろうとしたものの、ふらついて歩けなかったので、久詞に運んでもらうことにした。
「ってか、恥ずかしい……」
今更ながら、身体は興奮状態なのだ。しかも自分で歩けない姿を見られるのは耐え難い。貴弥はそう言うと、人が少ないルートで車まで行こう、と背負われた。
(う、……この体勢……)
成人男性をお姫様抱っこで運ぶのは負担が大きい。だから貴弥を背負うのが一番いいことはわかっている。けれどこの体勢は、貴弥の股間が久詞の腰に当たるし、薬が効いている状態ではそれが甘い刺激となって、貴弥の脳を痺れさせてしまう。
貴弥は久詞の前に回した手に力を込めた。こんな刺激で達してしまうのは自分のプライドが許さない。
なんとか気を逸らして車まで来られたものの、貴弥の体調は酷くなっていた。後部座席に優しく座らされ、久詞がそのまま車に乗りこみドアを閉めるのも、どこか遠くで起きていることとしか認識できない。
「……限界そうだな」
久詞がジャケットを脱ぎ、ネクタイを解いて助手席に放り投げる。貴弥は重たい腕を上げて近付いた久詞を抱きしめると、久詞も強く抱きしめてくれた。
「久詞……っ、おれ……っ」
これをどうにかしたい、と消え入りそうな声で貴弥は腰を動かす。しかし、こんな状態でも久詞から感じるのは躊躇いだった。
「貴弥……、少し落ち着け」
「嫌だっ。俺、久詞に触って欲しい……!」
「……っ」
まずい、抱き潰す自信しかない、と久詞から心の声が聞こえる。彼がそんなふうに思っているなら、遠慮なくめちゃくちゃにしてくれていいのに、と貴弥は思う。
「……本当にいいのか?」
その確認は、貴弥を【ボンド】にしてもいいのかという、久詞の最終確認だった。
この一線を越えてしまえば、貴弥は久詞だけの【ガイド】になる。今後、遊の【ガイド】のことも考えなければならなくなるし、お互いの人生に大きく関わることだから、慎重に選ばないといけないのはよくわかっていた。
けれど貴弥は久詞の真っ直ぐな視線を受け止め、小さく頷く。
これは薬のせいでそういう気分になっているだけじゃない。自分は、自分の意思で久詞の隣にいたいし、久詞を支えたい。置かれた場所で――久詞のそばで咲きたいのだ。
「きつかったら言ってくれ」
「ん……」
慎重に、暴走するな、と久詞の心の声が聞こえる。必死に言い聞かせているようなそれに、貴弥はいいから、と言って久詞を引き寄せた。
唇が合わさる。貴弥にはキスの経験はなかったけれど、気持ちの赴くままに舌を出すと、久詞の唇に当たった。
「……っ、こら貴弥、あまり煽るな」
「何でっ? 俺これを早くどーにかしたいっ」
慌てて掠れた久詞の声に、貴弥は顔が燃えるかと思うほど熱くなる。自らパンツを下着ごと下ろし、今にも爆発しそうな切っ先を握る。
「ん……っ」
たったそれだけで、貴弥の全身に切ない痺れが走った。堪らずそこを扱くと、ゾクゾクと何かが背中を這い上がる感覚がする。
「は、ぁ……っ」
「……っ、待て、そんな乱暴に……」
「だっ、て……、……あっ」
貴弥は慰めていた手を止められ、思わず声を上げた。しかし久詞の手が貴弥の手と重なり、貴弥の怒張を優しく撫でる。
「ぅ、あ……っ」
「……一人でしないのか? そういえば、そんな様子はあまり聞いたことがなかったな」
自分で触るのとはあまりにも違う感覚に、貴弥は戸惑った。どうしてそんなことまで知ってる、とつっこみたかったけれど、それどころじゃない。
すぐに蜜を溢れさせた先端を見て、貴弥は這い上がってきた射精感に忙しなく足を動かす。嘘だ、こんなに早く絶頂が来るなんて。
「ひ、久詞……っ」
俯くと口からも蜜が溢れる。視線を送ったその先の光景に、貴弥は脳が灼けるほどの興奮を覚えた。
久詞のスラックスの前が膨らんでいる。自分を見て興奮しているのだと思ったら、ゾクゾクが止まらなくなった。急激に視界が霞み、音もなくなる。
「は……っ、あ……!」
息を吐き出すと同時に、貴弥の先端からも熱が吐き出された。絶頂の快感に身体を打ち震わせていると、久詞が間近で顔を見ていることに気付く。
かわいい、という声が聞こえたのは久詞の声なのか、彼の心の声なのか、貴弥はわからなかった。気恥ずかしくて顔を逸らすと、久詞はこめかみにキスをしてくる。
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