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第7章
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「最近奴とは特に仲が良いんじゃないのか?」
「……だから何?」
籾山の言い方に貴弥はなんだかムカついて、つい口調が強くなった。そんな貴弥を見て籾山は、口の端を上げて立ち上がる。
「わからねぇか? あの時、俺も繋がったんだよ」
「……っ」
貴弥は息を飲む。確か久詞は、貴弥が能力に目覚めた時から、貴弥の声が聞こえるようになったと言っていた。
「拒んだ、はずじゃ……」
そう、あの時は確かに拒まれた。だから貴弥も籾山もダメージを負ったし、昏睡状態にまで陥ったのだ。
「そう。一瞬繋がったあと、拒んだ。お前、無理やり入り込んで来るから」
貴弥は近付いてきた籾山の顔をじっと見返す。奴の淀んだ鋭い目に射すくめられそうになりながらも、負けじと見ていると、奴はフッと笑った。
「屈服させがいのある顔だな。……お前のおかげで、この能力があればいくらでも金が作れるって気付いた」
人を脅すなんて簡単だ、と籾山は笑う。
「だったら、効率よく相性がいい【ガイド】を探すのは必然だろ?」
いつも耳元でうるせぇ声がしてたしな、と籾山はさらに近付いてきた。さすがに貴弥は身を引くけれど、何かにぶつかりそちらを見る。貴弥をここに連れてきた男のうちの一人が、貴弥の動きを封じていた。
ハッとした貴弥はまた籾山を見ると、首を掴まれる。
「久詞がのんびりしてっから、俺がもらうぞ。さあ、【ボンド】の契約をしようか、貴弥」
「な、に……?」
抵抗しようにも、手は縛られているし身体も押さえられていて、貴弥は動けない。苦しくて急激に視界が霞み、貴弥は呆気なく意識を失くした。
乱暴に身体を投げられて、貴弥は意識を取り戻す。目を開けると霞む視界の中で、ガチャン、と重い扉を閉める籾山らしき人がいた。どうやら先程とは違う部屋に来たらしい。
起き上がろうと頭で身体を支えるとそこは柔らかかった。よく見るとベッドで、なぜ自分がここに連れてこられたのか、と貴弥は冷や汗が出る。
「なんで大事にしてたのかは知らんが。お前、足助の息子だったんだな?」
「……っ、親父を知ってるのか?」
ふらつく頭でなんとかベッドに座った。気を失ったせいなのか、熱が出た時のような重だるさがあり、貴弥は大きく息を吐き出す。
すると籾山はベッドに乗ってきた。柔らかいマットレスの弾みで貴弥の体勢は容易く崩れ、再び横に倒れてしまう。
何かがおかしい、と貴弥は籾山を見る。けれど視界が僅かに滲み、息苦しくなってきて喘いだ。
「知ってるも何も、奴は俺から借金してたからなぁ。俺の店の女に入れあげて、こさえたガキがお前だろうが」
初めて聞く話に、貴弥は目を見開く。確かに母親の話を父親から聞くことはなかった。それが本当の話なら、籾山に付け入る隙を与えた父親は、やはりろくでもない男だ、と思う。
「いいか、俺の店で勝手なことされると困るんだよ。お前の母親のように、外に男を作って逃げられたら、借金が返ってこなくなるだろ?」
「な、に……?」
確かに、自分の店の従業員が突然いなくなるのは困ることだろう。けれど籾山のやり口は、借金を理由に脅し、自分の駒にすることだ。きっと貴弥の母親も、まともな理由で籾山の所にいた訳じゃないのだろう。
「情けないよなぁ。守りたいものを一つも守れず、アイツは死んでいった。最期、アイツはなんて言ってたか知ってるか?」
笑いながら言う籾山に、貴弥はカッと腹が熱くなる。
確かに父親はろくでもないと言われても仕方がない人物だった。けれど父親を脅し、その上殺した相手に嘲笑される筋合いは、まったくない。
そう思って、貴弥はハッとする。
どうして自分は父親が嗤われて腹を立てているのだろう? 今まで、父親のことはどうでもいいと思っていたのに。
仕方がないと諦めていたことは、すべて父親のせいだった。もっと彼がまともに生きていてくれたら、こんな人生にならなかったのに、と考えることすら諦めていた。せめて悲観しないことをモットーにしてきたけれど、何かにつけてチラつく父親の姿があった。
それは、まだどこかで父親に期待していたからなのでは、と貴弥は思う。決して好きではなかったけれど、嫌いにはなれても無関心にはなれなかった。
「アイツ、『命だけは』って言ったんだ! ドラマか映画の見すぎじゃねぇのって思ったわ!」
それで見過ごすほど俺は優しくねぇし、すべてはお前の父親が撒いた種だ、と籾山は貴弥の頬を撫でる。
途端に全身がゾワゾワし、貴弥は顔を背けた。身体が熱くて、本格的に熱が出たような症状に、苦しくて息も弾む。けれど、手首を縛られた状態ではまともに動けない。
「ってことで、親父の借金は息子のアンタが返せ。そのつもりで職も斡旋したのに意味不明の手切れ金よこして逃げたしなぁ。これからは俺と【ボンド】の契約をして、手足として働いてもらう」
そう言って、籾山は貴弥の頭を撫でた。それだけで身体をビクつかせた貴弥は、やはり身体がおかしいことに気付く。
「なんで……借金は、払った、はず……」
「ハッ、あれで終わりだと思ってるのか?」
お前が逃げたせいで店一つ潰れた、と籾山は貴弥の唇を指でなぞる。言いがかりも甚だしいけれど、貴弥の口から出るのは熱い吐息だけだ。
「苦しいか? 心音も早いし体温も上がってきたな」
効きがよくて良かったなと笑う籾山は、そのまま貴弥の耳に触れる。やはり黙っていられないほどゾワゾワして、貴弥は身体を縮こまらせた。
「なに、を……?」
貴弥はもう、この一言を言うことも辛くなっていた。羽のように優しく触れてくる籾山に、嫌悪感しかないし、大人しく従うつもりはない。けれど身体の反応は貴弥の意志を完全に無視している。
「あ? もしかして知らないのか? 大好きな久詞とやらに聞いてるものだと思ったが」
知らないなら知らないで、絶望を味わわせてやれるからいいか、と籾山は嗤う。
「【ボンド】は契約。【センチネル】と【ガイド】が身体と精神を繋げることで成立する」
久詞とやらもさっさとヤッちまえば良かったのにな、と籾山は貴弥のシャツに手をかけた。
貴弥は思い切り抵抗する。【ボンド】の契約がそんな方法だったとは。それなら久詞は、本当にずっと自分を見守ってくれていたわけだし、【ボンド】のデメリットも考えていてくれたのだ。
(ここで俺が抵抗しなきゃ、久詞のケアができなくなる……!)
【ボンド】になると、契約をした相手しかケアができなくなる。ここで籾山の思い通りにさせてしまったら、と思ったら寒気がした。
それになにより、貴弥はここを脱出して、籾山を確保させなければならないのだ。
「ひ、さ……!」
貴弥はできる限り動き回り、籾山に触れられないよう抵抗する。
「悪いようにはしねぇよ。気持ちよくなきゃ契約失敗だからな」
「――やめろっ!」
――いつでも俺を呼べ。いつでも、どこにいても駆けつける。
久詞の言葉が貴弥の脳裏に蘇り、視界が滲んだ。本当に、どうしてここまで自分を想ってくれているのか。久詞の元に帰ってそれを聞かなければ。そして、今後自分は久詞の真のパートナーとして、隣にいたいと伝えなければ。
「久詞! ここだ……!」
必死に叫んだ途端、上にのしかかられ呻いた。防音室だから叫んでも無駄だと言われ、腹から胸へと撫でられる。意図せず身体が跳ね、じわりと身体が熱くなり、自分の意思とは正反対の反応に気持ち悪さを覚えた。それでも、貴弥は久詞を信じてもう一度名を叫ぶ。
「しかし奴らも馬鹿だよな。餌を簡単にここまで来させるなんて」
「……っ」
籾山の手が胸を這った。そしてそこの尖りを擦られ、腰に甘い痺れが走る。
(こんな、……こんなの!)
違う。これは自分の意思じゃない、と貴弥は縛られた手を、紐を引きちぎる勢いで引っ張った。痛みで気を逸らそうとするけれど、先程籾山が言った「効いてきたか」という通り、薬の力が働いているようで身体が動かせない。
「ぅ……」
小さく呻いた自分の声も、吐息が多くて嫌になる。意思に反して熱が溜まっていく下半身に、自己嫌悪で涙が滲んだ。
『快楽で落としてやる』
そんな言葉を籾山から感じ取った貴弥は彼を睨んだ。お前の言う通りにはならない、と改めてコイツが父親を利用した犯罪者だということを思い出す。
(考えろ。作戦はコイツに会ったところで捕えるつもりだった)
けれど今はこうして、どこかわからない場所まで連れてこられ、奴に組み敷かれている。
(このままコイツを野放しにするつもりか? いや、神津さんの言う通りだ。俺はコイツも、コイツに利用された親父も許せない)
――今自分にできることは、なんだ?
「身体を繋げても、精神が繋がらなければ意味ないんだよな? ……いいよ、快楽で落とせるならやってみろ」
口から出た言葉は咄嗟のものだった。自分は親父みたいにはぐらかしたりしない。いつだって自分は、自分の意思で生きてきたじゃないか。例えそれが、親父のせいで、ものすごく狭められた道だったとしても。
貴弥は上がる息を止められないまま、籾山を睨み続けた。今自分にできることは、コイツの能力を悟られずに極限まで弱めることだ。そして、恐らく自分を追ってきてくれているだろう久詞たちが、ここに来るまでの時間稼ぎをしなければ。
「……本当に、親父そっくりで気に入らねぇ」
「ぅあ……っ!」
途端に股間を強く握られ、痛みに貴弥は背中を反らす。フーッ、フーッと上がる息の中籾山を睨むと、そこを擦られ貴弥の顔は歪んだ。
「アイツはヘラヘラしながら、肝心なことは吐かなかったけどな。そのぶん【ガイド】なだけ、お前には利用価値がある」
「うぅ……っ」
先端への刺激に、貴弥は腰が動いてしまうのを耐える。なんとか、籾山が自分に触れている間に……自分が奴にやられる前に、久詞にこの場所のヒントを与えたい。
「……結局、コソコソとこんな所まで連れてきて、脅しと快楽で俺をどうにかしようと思ってる時点で、自分では何もできない弱虫野郎だ」
金を作るにも、悪事を働くにも、自分の手ではやらない籾山。脅さないと人が従わない時点で、人間的な魅力はたかがしれているし、実際籾山に脅されていたひったくり犯は、素直に籾山の名前を出した。
すると、籾山はわかりやすく顔を赤くする。図星なのが見て取れて、貴弥はここだ、と続ける。
「半グレって中途半端なことやってるからだろ。本業のヤクザに目を付けられたら、お前だって俺の親父みたいに……!」
「黙れ!!」
叫んだ籾山の声と同時に左頬に衝撃が走った。続いて右頬にも走り、貴弥は意識が遠のきかける。必死でそれを繋ぎ止め、クラクラする頭で籾山をまた睨むと、彼の意識が流れ込んできた。
『足助の息子だからと油断したが、コイツ親父より生意気だ!』
本当にそっくりでムカつくから殺してやろうか、という意識が飛んできて、貴弥は内心震えた。けれど貴弥はそれでいい、とも思ったのだ。
籾山がこちらに集中すればするほど、周りへの警戒は薄れる。しかもここは防音室、籾山は貴弥の声が外の【センチネル】に聴こえないように警戒したようだが、貴弥は久詞の言葉を信じていた。
いつでも、どこにいても駆けつける、という言葉を。
「……だから何?」
籾山の言い方に貴弥はなんだかムカついて、つい口調が強くなった。そんな貴弥を見て籾山は、口の端を上げて立ち上がる。
「わからねぇか? あの時、俺も繋がったんだよ」
「……っ」
貴弥は息を飲む。確か久詞は、貴弥が能力に目覚めた時から、貴弥の声が聞こえるようになったと言っていた。
「拒んだ、はずじゃ……」
そう、あの時は確かに拒まれた。だから貴弥も籾山もダメージを負ったし、昏睡状態にまで陥ったのだ。
「そう。一瞬繋がったあと、拒んだ。お前、無理やり入り込んで来るから」
貴弥は近付いてきた籾山の顔をじっと見返す。奴の淀んだ鋭い目に射すくめられそうになりながらも、負けじと見ていると、奴はフッと笑った。
「屈服させがいのある顔だな。……お前のおかげで、この能力があればいくらでも金が作れるって気付いた」
人を脅すなんて簡単だ、と籾山は笑う。
「だったら、効率よく相性がいい【ガイド】を探すのは必然だろ?」
いつも耳元でうるせぇ声がしてたしな、と籾山はさらに近付いてきた。さすがに貴弥は身を引くけれど、何かにぶつかりそちらを見る。貴弥をここに連れてきた男のうちの一人が、貴弥の動きを封じていた。
ハッとした貴弥はまた籾山を見ると、首を掴まれる。
「久詞がのんびりしてっから、俺がもらうぞ。さあ、【ボンド】の契約をしようか、貴弥」
「な、に……?」
抵抗しようにも、手は縛られているし身体も押さえられていて、貴弥は動けない。苦しくて急激に視界が霞み、貴弥は呆気なく意識を失くした。
乱暴に身体を投げられて、貴弥は意識を取り戻す。目を開けると霞む視界の中で、ガチャン、と重い扉を閉める籾山らしき人がいた。どうやら先程とは違う部屋に来たらしい。
起き上がろうと頭で身体を支えるとそこは柔らかかった。よく見るとベッドで、なぜ自分がここに連れてこられたのか、と貴弥は冷や汗が出る。
「なんで大事にしてたのかは知らんが。お前、足助の息子だったんだな?」
「……っ、親父を知ってるのか?」
ふらつく頭でなんとかベッドに座った。気を失ったせいなのか、熱が出た時のような重だるさがあり、貴弥は大きく息を吐き出す。
すると籾山はベッドに乗ってきた。柔らかいマットレスの弾みで貴弥の体勢は容易く崩れ、再び横に倒れてしまう。
何かがおかしい、と貴弥は籾山を見る。けれど視界が僅かに滲み、息苦しくなってきて喘いだ。
「知ってるも何も、奴は俺から借金してたからなぁ。俺の店の女に入れあげて、こさえたガキがお前だろうが」
初めて聞く話に、貴弥は目を見開く。確かに母親の話を父親から聞くことはなかった。それが本当の話なら、籾山に付け入る隙を与えた父親は、やはりろくでもない男だ、と思う。
「いいか、俺の店で勝手なことされると困るんだよ。お前の母親のように、外に男を作って逃げられたら、借金が返ってこなくなるだろ?」
「な、に……?」
確かに、自分の店の従業員が突然いなくなるのは困ることだろう。けれど籾山のやり口は、借金を理由に脅し、自分の駒にすることだ。きっと貴弥の母親も、まともな理由で籾山の所にいた訳じゃないのだろう。
「情けないよなぁ。守りたいものを一つも守れず、アイツは死んでいった。最期、アイツはなんて言ってたか知ってるか?」
笑いながら言う籾山に、貴弥はカッと腹が熱くなる。
確かに父親はろくでもないと言われても仕方がない人物だった。けれど父親を脅し、その上殺した相手に嘲笑される筋合いは、まったくない。
そう思って、貴弥はハッとする。
どうして自分は父親が嗤われて腹を立てているのだろう? 今まで、父親のことはどうでもいいと思っていたのに。
仕方がないと諦めていたことは、すべて父親のせいだった。もっと彼がまともに生きていてくれたら、こんな人生にならなかったのに、と考えることすら諦めていた。せめて悲観しないことをモットーにしてきたけれど、何かにつけてチラつく父親の姿があった。
それは、まだどこかで父親に期待していたからなのでは、と貴弥は思う。決して好きではなかったけれど、嫌いにはなれても無関心にはなれなかった。
「アイツ、『命だけは』って言ったんだ! ドラマか映画の見すぎじゃねぇのって思ったわ!」
それで見過ごすほど俺は優しくねぇし、すべてはお前の父親が撒いた種だ、と籾山は貴弥の頬を撫でる。
途端に全身がゾワゾワし、貴弥は顔を背けた。身体が熱くて、本格的に熱が出たような症状に、苦しくて息も弾む。けれど、手首を縛られた状態ではまともに動けない。
「ってことで、親父の借金は息子のアンタが返せ。そのつもりで職も斡旋したのに意味不明の手切れ金よこして逃げたしなぁ。これからは俺と【ボンド】の契約をして、手足として働いてもらう」
そう言って、籾山は貴弥の頭を撫でた。それだけで身体をビクつかせた貴弥は、やはり身体がおかしいことに気付く。
「なんで……借金は、払った、はず……」
「ハッ、あれで終わりだと思ってるのか?」
お前が逃げたせいで店一つ潰れた、と籾山は貴弥の唇を指でなぞる。言いがかりも甚だしいけれど、貴弥の口から出るのは熱い吐息だけだ。
「苦しいか? 心音も早いし体温も上がってきたな」
効きがよくて良かったなと笑う籾山は、そのまま貴弥の耳に触れる。やはり黙っていられないほどゾワゾワして、貴弥は身体を縮こまらせた。
「なに、を……?」
貴弥はもう、この一言を言うことも辛くなっていた。羽のように優しく触れてくる籾山に、嫌悪感しかないし、大人しく従うつもりはない。けれど身体の反応は貴弥の意志を完全に無視している。
「あ? もしかして知らないのか? 大好きな久詞とやらに聞いてるものだと思ったが」
知らないなら知らないで、絶望を味わわせてやれるからいいか、と籾山は嗤う。
「【ボンド】は契約。【センチネル】と【ガイド】が身体と精神を繋げることで成立する」
久詞とやらもさっさとヤッちまえば良かったのにな、と籾山は貴弥のシャツに手をかけた。
貴弥は思い切り抵抗する。【ボンド】の契約がそんな方法だったとは。それなら久詞は、本当にずっと自分を見守ってくれていたわけだし、【ボンド】のデメリットも考えていてくれたのだ。
(ここで俺が抵抗しなきゃ、久詞のケアができなくなる……!)
【ボンド】になると、契約をした相手しかケアができなくなる。ここで籾山の思い通りにさせてしまったら、と思ったら寒気がした。
それになにより、貴弥はここを脱出して、籾山を確保させなければならないのだ。
「ひ、さ……!」
貴弥はできる限り動き回り、籾山に触れられないよう抵抗する。
「悪いようにはしねぇよ。気持ちよくなきゃ契約失敗だからな」
「――やめろっ!」
――いつでも俺を呼べ。いつでも、どこにいても駆けつける。
久詞の言葉が貴弥の脳裏に蘇り、視界が滲んだ。本当に、どうしてここまで自分を想ってくれているのか。久詞の元に帰ってそれを聞かなければ。そして、今後自分は久詞の真のパートナーとして、隣にいたいと伝えなければ。
「久詞! ここだ……!」
必死に叫んだ途端、上にのしかかられ呻いた。防音室だから叫んでも無駄だと言われ、腹から胸へと撫でられる。意図せず身体が跳ね、じわりと身体が熱くなり、自分の意思とは正反対の反応に気持ち悪さを覚えた。それでも、貴弥は久詞を信じてもう一度名を叫ぶ。
「しかし奴らも馬鹿だよな。餌を簡単にここまで来させるなんて」
「……っ」
籾山の手が胸を這った。そしてそこの尖りを擦られ、腰に甘い痺れが走る。
(こんな、……こんなの!)
違う。これは自分の意思じゃない、と貴弥は縛られた手を、紐を引きちぎる勢いで引っ張った。痛みで気を逸らそうとするけれど、先程籾山が言った「効いてきたか」という通り、薬の力が働いているようで身体が動かせない。
「ぅ……」
小さく呻いた自分の声も、吐息が多くて嫌になる。意思に反して熱が溜まっていく下半身に、自己嫌悪で涙が滲んだ。
『快楽で落としてやる』
そんな言葉を籾山から感じ取った貴弥は彼を睨んだ。お前の言う通りにはならない、と改めてコイツが父親を利用した犯罪者だということを思い出す。
(考えろ。作戦はコイツに会ったところで捕えるつもりだった)
けれど今はこうして、どこかわからない場所まで連れてこられ、奴に組み敷かれている。
(このままコイツを野放しにするつもりか? いや、神津さんの言う通りだ。俺はコイツも、コイツに利用された親父も許せない)
――今自分にできることは、なんだ?
「身体を繋げても、精神が繋がらなければ意味ないんだよな? ……いいよ、快楽で落とせるならやってみろ」
口から出た言葉は咄嗟のものだった。自分は親父みたいにはぐらかしたりしない。いつだって自分は、自分の意思で生きてきたじゃないか。例えそれが、親父のせいで、ものすごく狭められた道だったとしても。
貴弥は上がる息を止められないまま、籾山を睨み続けた。今自分にできることは、コイツの能力を悟られずに極限まで弱めることだ。そして、恐らく自分を追ってきてくれているだろう久詞たちが、ここに来るまでの時間稼ぎをしなければ。
「……本当に、親父そっくりで気に入らねぇ」
「ぅあ……っ!」
途端に股間を強く握られ、痛みに貴弥は背中を反らす。フーッ、フーッと上がる息の中籾山を睨むと、そこを擦られ貴弥の顔は歪んだ。
「アイツはヘラヘラしながら、肝心なことは吐かなかったけどな。そのぶん【ガイド】なだけ、お前には利用価値がある」
「うぅ……っ」
先端への刺激に、貴弥は腰が動いてしまうのを耐える。なんとか、籾山が自分に触れている間に……自分が奴にやられる前に、久詞にこの場所のヒントを与えたい。
「……結局、コソコソとこんな所まで連れてきて、脅しと快楽で俺をどうにかしようと思ってる時点で、自分では何もできない弱虫野郎だ」
金を作るにも、悪事を働くにも、自分の手ではやらない籾山。脅さないと人が従わない時点で、人間的な魅力はたかがしれているし、実際籾山に脅されていたひったくり犯は、素直に籾山の名前を出した。
すると、籾山はわかりやすく顔を赤くする。図星なのが見て取れて、貴弥はここだ、と続ける。
「半グレって中途半端なことやってるからだろ。本業のヤクザに目を付けられたら、お前だって俺の親父みたいに……!」
「黙れ!!」
叫んだ籾山の声と同時に左頬に衝撃が走った。続いて右頬にも走り、貴弥は意識が遠のきかける。必死でそれを繋ぎ止め、クラクラする頭で籾山をまた睨むと、彼の意識が流れ込んできた。
『足助の息子だからと油断したが、コイツ親父より生意気だ!』
本当にそっくりでムカつくから殺してやろうか、という意識が飛んできて、貴弥は内心震えた。けれど貴弥はそれでいい、とも思ったのだ。
籾山がこちらに集中すればするほど、周りへの警戒は薄れる。しかもここは防音室、籾山は貴弥の声が外の【センチネル】に聴こえないように警戒したようだが、貴弥は久詞の言葉を信じていた。
いつでも、どこにいても駆けつける、という言葉を。
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