【完結】地味なきみを変身させてあげる、って余計なお世話です!

大竹あやめ

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第二話

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 次の日、のどかは新しい職場の社屋の前に来て、緊張を解すために深呼吸をした。

 昨日は失礼な奴に会った、と憤っていたものの、そんな感情はここに来て吹き飛んでしまう。

 中途入社にしても、年度始めから少し経っているので、良からぬ想像をされても困る。最初が肝心、とのどかはもう一度、深呼吸をした。

 今日は紺のタイトスカートのスーツにシャツはシンプルなものにした。スカートは長すぎず、短すぎず、極力目立たない、を心掛けて身支度してきた。そして自分に大丈夫、と言い聞かせ、ドアを開ける。

 受付で名乗ると人事担当者の男性が直ぐに来てくれた。ネームプレートなど必要な書類を渡されて、早速職場へ案内される。

「おーい、城倉じょうくらくん。こちら新人の吉野さん、あとはよろしく」

 人事担当者は、部屋の奥で背中を向けて話していた男性に声を掛けると、あとは彼に指示を仰いでね、と笑顔で去っていった。そして代わりのようにこちらに来た顔に、のどかはあっ、と声を上げてしまう。

 そこにいたのは、昨日声を掛けてきた、失礼な男だったのだ。

「ああ! 新人さんってきみだったんだー」

 凄い偶然、となぜか喜んでいる彼は、ネームプレートを盗み見ると城倉ねいと書かれていた。すると同じ部署らしい二人が、そばにやってくる。のどかの身体が緊張で硬直した。

「なに? 城倉さん、ナンパしたの?」

「うん、半分当たり~。昨日街でモニターになってって声掛けたの」

「さすが城倉さん、手が早い」

「おい塩見、リーダーに向かってなんてこと言うんだ」

「それは城倉さんの日頃の行いのせいですね」

「横川さんまで?」

 口々に言う塩見と横川は、どうやら寧の部下のようだ。塩見はのどかと同じくらいの歳の男性で、横川は三十代後半くらいの女性だ。笑いながら言っているので冗談なのだろうけど、のどかは耐えきれなくなって声を上げる。

「あのっ、……私の席はどこでしょう? 荷物を置きたいんですけど」

「ほら城倉さん、気が利かないんだから」

「横川さん、それは理不尽ですよ~」

 そう言いながら、寧は席を案内してくれた。のどかは荷物を置くと、改めて皆で自己紹介をする。

「こう見えて、城倉さんは開発製作部のリーダーですからね、頼っていいですよ」

 そう横川に言われて、のどかは曖昧に笑った。この会社でのリーダーは、係長と同じ役職だと聞いて、上司らしからぬ寧の言動に少しだけ安堵する。

(大丈夫。ここならやれそう……)

 そう思って、のどかは寧から仕事の細かな内容を説明してもらった。
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