【完結】素直になってよ

大竹あやめ

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「ん……、あぁ……」

浴室に入った晶は、どうも身体がスッキリしないと思い、真洋に言われた通り、欲求不満を解消する事にした。

声が漏れるといけないので、シャワーは出しっぱなしにし、床に尻を浮かせて座り、前も後ろも自分の手で慰める。

(くそ……やっぱ自分だと後ろはやりにくい)

満足する刺激が得られなくて、晶は体勢を変える。

付き合った人はいなくても、晶の後ろは十分に開発されており、なんなら後ろだけでもイける程だ。

膝立ちになり、今度は背中側から手を回す。指を増やすと奥まで届くようになり、いい場所に刺激を与えることができた。

「あ、あぁ……っ、気持ち、い……っ」

晶は小声で叫ぶ。腰が勝手に跳ね、思わず背中を反らした。

前も擦り上げるとゾクゾクと身体が震える。久しぶりに触った性器は、とても敏感に刺激を拾った。

晶は唇を噛む。限界が近い、真洋の乱れた姿を想像して、一気に快感の階段を駆け上がる。

「……っ! ……んっ!」

ビクンビクンと、身体が跳ねた。視界と意識が真っ白になり、精液が手と床を汚す。

乱れた呼吸をして、意識が現実に戻ってくると、一気に罪悪感に襲われた。

(ちょっと待て、いま俺……)

どうして、水春ではなく、真洋だったのだろう?

晶は素早く汚れた手と身体を洗う。頭からお湯を浴び、今の自分の思考も流してくれと思う。

もうとうに、真洋は自分の中で過去の人になっていたはずだ、なのにどうして、と後悔した。

そしてすぐにある答えにたどり着く。そこまでして、無意識のところでも水春を避けたいと思っていることに。

(どうしたらいい?)

この状態ではこの先、好きな人とのセックスはおろか、オナニーさえできない。毎回本命とは違う人を思い浮かべて後悔するのは、勘弁だ。

晶は深いため息をついた。お手上げだ、このまま流れに身を任せるか、と頭をガシガシ洗う。

(ホントに、呪いだな……)

二十七年の半分を、母親と別々の人生を過ごして来たけれど、それだけでは呪いは解けないらしい。

(水春の方が、母親と過ごした時間は長いのか……)

それでも、自立して一人で暮らしていけるのは、やはり父親の教育が大きいと思う。彼は母親とは違い、自分の好きなようにさせてくれた上で、どうやったら自立できるかを教えてくれた。

『晶、好きな事をやるだけでは、生きていけないよ。どうやってお金を生み出すか、考えないと』

母親に反抗して塾をサボった日、父親はそう言った。

そして、お金を生み出すためには何が必要か、自身の姿を見せることで学ばせた父親は、救世主だと思う。

あのまま母親の言うことを聞いて、大人になったらと思うと、今でもゾッとする。

(父さん……連絡取ってねぇけど何してんだろ?)

互いにあまり干渉しない性格だからか、前回いつ連絡を取ったかさえ覚えていない。

(ま、こっちに連絡来ないって事は、生きてんだろ)

そう結論付け、晶は浴室を出た。

パジャマを着てキッチンへ飲み物を取りに行くと、水春がお茶を飲んでいた。

晶は一瞬びっくりして足を止めたけれど、再び足を進めて冷蔵庫を開ける。

「起きてたのか」

「はい。……随分長くお風呂に入ってましたね」

水春の言葉にほんの一瞬ドキッとするけれど、平静を装って炭酸水を取り出した。

「…………考え事をな」

ペットボトルを開けて数口飲むと、水春がじっとこちらを見ている事に気付く。

「……晶さん」

呼び掛けられて、目線を合わせずに何だ、と応えた。

「オレの事、避けてませんか?」

「避けてない」

晶は即答する。けれど、それが逆に怪しくなってしまう。

「じゃあ、意識的に仕事で時間を埋めようとしていますよね?」

真洋に指摘された事を、水春にも言われまたドキッとした。

黙った晶に、水春はやっぱり、とため息をつく。そして、彼はコップを洗って水切りかごにおいた。

「晶さん、オレは話してくれるまで待つと言いました。言いにくいのは分かります、オレも大体察しはついてます……だからその重み、半分俺にください。オレは、晶さんを守りたい」

晶はじっと一点を見つめて、水春の話を聞いていた。

こんな事を言われたのは、生まれて初めてだった。水春は晶の過去ごと、好きでいてくれるというのだ。

ぱた、と何かが床に落ちた。

「……っ」

それが涙だと気付くのに数秒かかる。しかしその間にも、これでもかと涙は溢れてきた。

止まらない涙をパジャマの裾で拭っていると、水春が近付いてきて腕をどかされる。

唇に、柔らかいものが触れた。それは晶の薄い唇を軽く吸い、ちゅ、と音がする。

「晶さん……好きです……」

吐息がぶつかるほどの距離で水春に囁かれ、もう一度音を立ててキスをされた。

「……ん」

今度は少し長めのキス。水春が、晶の様子を伺いながらしているのが、よく伝わってくるキスだった。

「水春……俺……」

「うん……無理して話さなくて良いですよ。分かってます」

晶は掴まれていない方の腕を上げ、水春の袖を掴む。今晶にできる、最大限のスキンシップだ。

晶は、水春が望むなら、多少苦しくてもスキンシップを受け入れるつもりだった。しかし、水春はそれ以上の事はしてこない。

晶は水春を見ると、思った以上に優しい目で晶を見ていた。その目が、さらに笑う。

「やっとオレを見てくれた」

嬉しそうな彼の顔に、心臓がドクン、と高鳴り、晶は頬が熱くなるのを感じた。

水春はそんな晶をからかったりせず、晶のサラサラの髪を梳く。

「部屋に行きましょう」

晶は頷いた。
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