【完結】好きな人には気をつけろ!

大竹あやめ

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春輝は貴之の唇を受け入れながら、そうか、オレたち両想いになったんだ、とぼんやり思った。

「身体……しんどくないか?」

キスの合間にそんな事を聞かれ、何でそんな事を聞くんだろう、と思いながら頷く。

「……熱があるって分かってるのに。悪い、もう止められそうにない」

貴之は苦しそうにそう言って、またキスをした。しかしそれは触れるだけのキスではなく、舌を使った、深く情熱的なキスだ。

唇を舌先で舐められ、思わず肩が震える。その拍子に開いた唇から貴之の舌が入ってきて、春輝のそれと絡ませた。

「……っ」

その間に貴之は掛け布団を剥がし、春輝の身体を跨ぐように上に来る。思わず首を振って口を離し、貴之を見上げた。

「え……なに、するの?」

「嫌だったらすぐに言ってくれ」

そう言った貴之は、また同じようにキスを再開し、春輝の耳をくすぐった。不思議なことに、さっきはくすぐったかっただけなのに、ゾクゾクして春輝は戸惑う。思わず息を詰めると、唇が離れた。

「え……ホントに、なに……?」

まさかとは思うけれど、と春輝は戸惑い、枕を握りしめる。貴之はまた唇を寄せ、春輝の薄い唇を吸い上げた。

貴之の手が春輝の胸を撫でる。シャツの上から何かを探るように、時折指を立てていた。

「ぅん……っ」

春輝はギュッと枕を握る手に力を込める。貴之が春輝の乳首を探り当て、そこを爪で引っ掻いたのだ。

「ちょ……水野、だめ……」

カリカリとそこを引っ掻かれ、ゾクゾクする感覚に春輝は貴之を見ると、だめか? とキスをくれる。

「だめだよ……こんな……」

恥ずかしい、と視線を逸らすと、恥ずかしいだけか? と聞かれ、春輝はどうしたらいいのか分からなくなって、両腕で顔を隠した。

「……春輝」

名前を呼ばれ、ビクッと身体が震える。胸にあった手が下へおりていくので、春輝は思わず貴之の手を掴んで止めた。

「や……っ、無理、ダメだって……っ」

しかし貴之の手は再び動き出し、春輝の股間を撫でる。そこはもう熱を帯びていて、春輝は羞恥心とゾクゾクするのとで顔を逸らして声を上げた。

「服の上からでも感じるのか?」

可愛い、と囁かれ、春輝は涙目で貴之を見る。また枕を握ると、背中を何かが這い上がる感じがして目をギュッと閉じて背中を反らした。

春輝の口から甘い吐息が出てくる。それを見て貴之が興奮しているのが分かって、恥ずかしくて首を横に振った。

貴之はそこを撫でながら言う。

「この間、俺がいる時に風呂でしてただろ?」

「……っ」

気付いていたのか、と春輝は驚く。

「……俺がどれだけ気を逸らそうと苦労してたか、分かるか?」

「ちょ……っ、んん……っ」

貴之の手が下着の中に入ってきた。柔らかく握られ、春輝はビクビクと身体を震わせる。そのままゆるゆると擦り上げられ、春輝は息を詰めた。

『ああ……春輝、可愛いね』

「……っ!」

不意に間宮が馬乗りになった姿がフラッシュバックする。春輝はヒュッと息を飲み、胃が痙攣して起き上がりながら貴之を押し退けた。口を押さえてグッと力を込めると、何とか吐くのはやり過ごせる。

「春輝? 悪い、やっぱり……まだダメだよな……」

貴之がこちらに手を伸ばした。それにさえ驚いて身体をビクつかせると、貴之は手を止めた。

「……抱きしめてもいいか?」

そっと、こちらの様子を伺うような貴之の声に、春輝は小さく頷く。彼を拒否したい訳じゃないので、優しく抱きしめてきた貴之の温もりに、ホッとした。

「ごめん水野……水野が嫌な訳じゃないんだ」

彼の背中に腕を回すと、彼もまた回した腕に力を込める。その力強さに、春輝はだんだん身体の余分な力が抜けていくのが分かった。

「ああ、分かってる。俺はお前の支えになりたいんだ、無理強いはしたくない」

はあ、と貴之はため息をつく。どうしたんだ? と聞くと彼はいや、と春輝の頭を撫でた。

「宮下と木村に煽られた通りになったな、と思っただけだ」

春輝はどういう事? とはてなマークを浮かべる。聞けば初めて四人で食事をした時、宮下が春輝を可愛いと言っただろう、と貴之は話した。

「そして木村は『男でも可愛いのが好きか』と聞いてきた」

木村に関しては、春輝の事が好きだと気付いていたから、牽制もあったんだと思う、と貴之はまたため息をつく。

春輝はその時の貴之の回答を思い出した。

容姿が可愛いと思うのと、好きになるのは別物だ、と。

という事は、と春輝は顔が熱くなる。オレの事は最初から可愛いと思っていたのか、と戸惑った。あの時は冬哉の事を言っていると思っていたし、そんな素振り、全然見せなかったじゃないか。春輝はそう言うと、貴之は苦笑する。

「お前は気付いていないかもしれないが、木村の影に隠れて、お前も結構可愛いって有名なんだ」

だから愛されてるんだよ、と貴之は言う。しかしな、と彼は続けた。

「木村は全部分かっていて甘えたり牽制したりできるから良いものの、お前はただただ無防備なだけだから……」

良からぬ事を考えている生徒がいるのは確かだ、と。

「守ってやらなきゃと思っていたら、そのうちに守りたいに変わった」

不器用で、要領が悪くて、一生懸命で、フルートを吹く色っぽい姿に惚れたんだ、と貴之は言う。

「ちょ、そこでフルートを吹く姿が何で入るんだよ?」

春輝は顔を赤らめて貴之を見た。彼は真面目な顔をして言う。

「俺もどういう事だと思った。けど実際見て、なるほどと納得した」

春輝は貴之の胸に顔をうずめる。さっきから顔が熱くて収まらない。しかし貴之はそこで間宮の名前を出す。春輝は息を詰めた。

「アイツが演奏会聴きに行くと言わなかったら、俺も行かなかっただろうし、その点に関しては感謝だな」

なるほど、と春輝は思う。貴之は間宮の事を警戒していたから、演奏会に来てくれたのだ。そんな貴之を、珍しいと笑って間宮に話していた自分が、どれだけ鈍くて、どれだけ貴之に守られていたのか、今更になって気付く。

「……しばらくこうしてていいか?」

あと、名前で呼んでほしいと言われ、春輝は顔が熱いまま小さく頷いた。

「……貴之」

ボソリと彼の名前を呟くと、貴之は腕に力を込める。

「……やばいな……」

「何が……?」

可愛い、とぎゅうぎゅう抱きしめられ、春輝は苦しくて声を上げた。あまり可愛いと言われるのは嬉しくないと言うと、そうか、と何故か貴之は残念そうだ。 

そのまま話をしながら落ち着く感じだったので、春輝は思い切って昨日の三人組について聞いてみる。

「昨日の……二年生の事知ってるのか? 何か、み……貴之を困らせる為にサボってるって」

あと、と春輝は視線を落とした。

「み、……貴之は、氷上先輩と付き合ってたのか……?」

本当に聞きたいのはこっちだ。その人とも色々あったようだし、気になってしまう。そして名前を呼ぶのに慣れない春輝は、どうしても水野と呼びそうになるのだ。

貴之はため息をつく。それをどこで聞いたと言われて、二年生が言っていたと話した。

「春輝、その話はそのうち必ずするから、少し待っててくれないか?」

「……分かった」

とりあえず、夕食まで休めと言われ、貴之は立ち上がると部屋を出ていってしまった。春輝は腑に落ちないながらも、ベッドに横になる。

春輝は貴之の言う通り、夕食まで身体を休めた。
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