【完結】好きな人には気をつけろ!

大竹あやめ

文字の大きさ
24 / 39

24

しおりを挟む
そして次の日、春輝の体調はすっかり良くなり、いつものように貴之と学校に行く。

あれから間宮の事を思い出す事が増えたけれど、貴之がいつもそばにいてくれるという安心感からか、眠れなくなる事はなかった。

(わざわざオレのベッドに寝ようとするから狭いんだけど……)

今までの淡泊さは何だったのかと思うほど、貴之は春輝にベッタリだ。そんな彼の変わりように少し戸惑い、部屋の外では普通にしているから調子が狂う。

しかし相変わらずクラスでは遠巻きにされている感じがあり、春輝はため息をついた。このクラスにも、吹奏楽部員がいれば少しは違ったかな、とないものねだりをしてしまう。

すると、一人のクラスメイトが春輝のそばにやってきた。確か鈴木という名前だ。

「一之瀬…………ごめん!」

鈴木はいきなり頭を下げ、春輝は慌てた。何に対して謝っているのか分からず、春輝は何が? と周りを気にしながら頭を上げるように言う。

「いや、俺やっぱりこういうの嫌だから。間宮がいなくなったし、ちゃんと話をしようと思って」

頭を上げた鈴木から間宮の話が出て、春輝はドキリとする。

「間宮から、一之瀬と話をするなって睨まれてて……」

え? と春輝はクラスを見渡した。するとクラスメイトたちは、遠くから春輝と目が合うと次々に頷く。

間宮はそんな事をしていたのか、と驚いた。何のためにと思ったけれど、鈴木の次の言葉で納得する。

「お前、間宮に嫌がらせされてたんだな。寮長に何度もクラスでの様子で、おかしな事があれば教えてくれって頼まれてたのに、全然気付かなかった……」

思えば一之瀬を孤立させて、裏で酷いことする為だったんだな、と言われ、再度謝られる。

若干真実とは違うけれど、貴之が付いていられない間の事を、クラスメイトに聞いて回っていた事が判明し、春輝は胸が熱くなった。

「間宮がいなくなったって事は、寮長の言う事が本当だったんだって思って……」

すると他のクラスメイトも春輝のそばに来て、次々に謝られる。春輝は涙目になりながらも、みんなからの謝罪に頷いた。それを見た鈴木が笑顔になり、泣くなよー、と頭をくしゃくしゃされる。やめろよ、と笑うと、他のクラスメイトも笑った。

「でも今の寮長、イマイチ何考えてるのか分からないから、信用できなかったってのもあるんだよね」

そう言った鈴木は苦笑していた。鈴木は前寮長と同じ中学だったらしく、彼は新聞部であり、前寮長に憧れてこの学校に来たらしい。

「だって、一之瀬の事を聞くにも淡々と『今日は変わった事なかったか』って。有沢先輩……前寮長なら、もっと上手く立ち回ってたよなーって」

いかにも貴之らしい聞き方だ。けれど鈴木は苦笑じゃなく、笑顔に変わっている。

「多くを語らず『俺に付いてこい』タイプなんだと思ったら、そういう先輩もカッコイイ! ってなったよ」

「……あはは」

春輝は乾いた笑い声を上げた。どうやら鈴木はミーハーのようだ。さすがゴシップ好きの新聞部、とその切り替えの早さには春輝も呆れたが、鈴木が楽しそうなのでいいか、と思う。

すると鈴木は、周りにいたクラスメイトが散って行ったのを確認して、声を潜めた。

「この学校、真偽はともかく噂がたくさんあるんだよね」

春輝は思わず前のめりになった。それを見た鈴木は興味あるんだ? と笑う。

「水野……寮長が氷上先輩と付き合ってたって噂は本当か?」

ああそれね、と鈴木は頷いた。有名だけど真偽は半々かなぁ、と彼は言う。

鈴木によると、氷上は自分の身の回りの事が何もできない人だったらしく、ルームメイトの貴之が甲斐甲斐しく世話をしていたらしい。その世話焼きが前寮長の有沢の目に留まり、次期寮長として指名されたとか。

「まぁでも、有沢先輩がカリスマ的な人でさ。誰もやりたがらなかったって話だよ?」

有沢は本当にできた人で、彼と話しただけで注目されてしまうくらい有名だったらしい。そんな人気者で人望もある人の後釜は、当然貴之も嫌がっていた。しかし有沢の強い推しに貴之が負けて、寮長になったという噂だ。

「ま、俺もそうだったけど、今でも水野寮長が気に入らないって人もチラホラいるかな。……大半は今の寮長の事、好きだと思うけどね」

それを聞いて、春輝はなるほどと思った。春輝に絡んできた二年生たちは、有沢のシンパなのだろう。

そこで朝礼のチャイムが鳴り、担任が入ってくる。

そしていつものように授業を受けた。

鈴木が休み時間の度に話し掛けてくれて、色んな噂を教えてくれる。放課後の貴之を待っている今もだ。

校長はカツラだとか、寮長だけが入れる秘密の場所があるとか、木村冬哉はコネ入学だとか、信じるのもおかしいような噂が多かったけれど、その中に寮長はその権限でルームメイトを決められるという噂もあった。でも鈴木は最後にこう付け足すのだ。

「真偽は分からないよ? それを調べたいんだ、俺」

「……鈴木はゴシップより、政治とか、社会問題とか、堅い内容が合ってると思うよ」

春輝は苦笑して言うと、鈴木は思った以上に真剣に、なるほど、と頷いていた。しかし次にはもう、新しい噂を話すためにニヤリと笑う。

「もうすぐ文化祭だろ? 一緒に見て回ったカップルは長続きするって噂があるぞ」

「えっ?」

思わず春輝は声を上げると、鈴木から、それはどういう意味の反応だ? とニヤつかれ、春輝は何でもないとそっぽを向いた。

「なんだ、一之瀬は恋人がいるんだな」

意外そうに言った鈴木に、春輝は両手を振る。

「い、いやっ、そんなんじゃないっ」

そう言いながら、顔がどんどん熱くなり、鈴木に顔真っ赤だぞと突っ込まれた。しかし次の鈴木の言葉に、春輝はサッと血の気が引いてしまう。

「ちなみに有沢先輩は、二年連続で水野先輩と回ってたって話だ」

「それって……」

「そう、だから氷上先輩と付き合ってたって話が、嘘かもしれないって根拠はこれ。学校の噂も面白いだろ?」

そうやって笑った鈴木は、あ、と思い出したように言った。

「一之瀬に恋人ができたって噂は本当だったって、俺の頭の中のメモに書いておくよ」

「え、ちょっ、違うから……っ。ってかそんな噂まで流れてんのかよっ」

この学校はどこまで噂好きなんだ、と春輝はまた慌てる。照れるなって、と鈴木は取り合わない。

「っていうか、隠す方が難しいと思うぞ? あれだけお互いの視線に熱がこもってたら……」

「いや、だから水野は違うって……っ」

「ほうほう、相手は水野先輩ね、と」

そう言う鈴木はしてやったりという顔を浮かべた。カマをかけられたのか、と気付いたところで貴之が教室にやってくる。

「ほら、彼氏が来たよ」

「だから違うって!」

春輝はまた顔を赤くしながら鈴木と別れる。貴之の元へ行くと、どうした? と聞いてきた。

「オレと水野が付き合い始めたの、気付かれた」

「……そうか。これはあくまで一之瀬の護衛だからな」

お互い外では前のように呼び合うという約束をしたため、苗字で呼んでいるけれど、視線や空気感が前と変わってしまったのは感じる。それだけでも、分かるやつには分かるのか、怖いな、と春輝は苦笑した。

「ってか、間宮いないのにまだ護衛する気?」

「……敵は間宮だけじゃないからな」

二年に襲われたの、もう忘れたのか? と言われ、春輝はぐうの音も出ない。

「ってか、何で水野への嫌がらせでオレが襲われるのさ?」

「……」

貴之は黙った。コイツ、話さない気だなと睨むと、彼は気まずそうに視線を逸らす。

「クラスでは鈴木のそばにいろよ。正義感が強い彼なら、信用できる」

「ちょっと待て水野。正義感強かったら、俺の事クラスで孤立させたりしないだろ?」

春輝が疑問に思ったことを口にすると、貴之は、どうしてこういう時だけ鋭いんだ、とため息をついた。

「……最終的には、自分の身は自分で守るしかないからな」

「……だから、ちゃんと分かるように説明しろよっ」

春輝が声を上げたところで、部室に着く。また迎えに来ると言った貴之は、そのまま去って行った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうか『ありがとう』と言わないで

黄金 
BL
聡生は大人しい平凡な高校生。幼馴染の和壱が好きだがそれは内緒の気持ちだった。 高校に入学してから友達になった千々石や郁磨と過ごすうちに気持ちに変化が訪れる。 ※全31話までです。 お気に入り、しおり、エール、コメントなどなどありがとうございます! 青春BLカップへのBETもありがとうございます!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

処理中です...