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「どしたの春輝、元気無いね?」
楽器を持って音楽室に行くと、冬哉が顔を覗き込んできた。ふわふわした天然パーマを見ていると少し癒されたので、春輝は苦笑する。
「なんかオレ、またトラブルに巻き込まれてるっぽい」
「えっ? 何で?」
隣に座った冬哉は、楽器を机の上に置いた。どうやら話を聞いてくれるらしい。
春輝は一昨日二年生の三人組に絡まれた事、そいつらは貴之を困らせるために春輝に絡んだ事、氷上と貴之が付き合ってた噂は本当か確かめようとしたら、返答を先延ばしにされた事を話す。
「二年生の三人組は……前寮長のシンパだろうねぇ……」
それはクラスメイトも言ってた、と春輝は言うとあの三人は有名だよ、と冬哉は言う。春輝は本当に、自分は疎いんだな、と肩を落とした。
「でも、何で俺がターゲットになるのか分からん」
貴之が気に食わないなら直接貴之に絡めばいいのに、と春輝は思う。けれど、そんな単純な話じゃないようだ。
冬哉は、これは吾郎先輩から聞いた話だけど、と前置きして話してくれた。
「前寮長から水野先輩に引き継いだ後、相当反発があったらしいよ。それで、水野先輩に嫌がらせする人もいたみたい」
「……え?」
春輝は思わず聞き返す。前寮長の有沢がものすごくできた人だったから、誰もやりたがらなかったというのは鈴木の話と一緒だ。しかし反発があって、嫌がらせを受けていたというのは初耳だった。
「この学校、生徒会が無いし寮長の権限が結構強くなっちゃってて。おじい様が頭を悩ませてる一つなんだけど……それは置いといて……」
冬哉の言うおじい様とは理事長の事のようだ。大学入試に有利になる寮長というポストは、やりたがる人も一定数いるという。それもあり、どうして水野が? と思う生徒がいたらしい。
でもね、と冬哉は続ける。
「水野先輩、それでも顔色一つ変えずに耐えてたんだって。見ていて痛々しかったって吾郎先輩言ってた」
僕も春輝の事で怒った時、冷静に見つめられてホントにムカついた、と口を尖らせた。
「それで、何をしても反応が無い水野先輩だから、ターゲットが春輝に移ったのかも。先輩の弱点だから」
「オレが水野の弱点……」
春輝はそう呟くと、僕は恋愛に関しては、勘がいいって言ったでしょ、と笑う。
「いつも冷静な先輩が、春輝の前だけ表情が変わるんだよねぇ」
「そ、その話はいいよ。……氷上先輩の事、冬哉は宮下先輩から聞いたんだよな?」
春輝はむりやり話を変えると、冬哉はクスクス笑いながら、咎めずに付き合ってくれる。
「うん……」
「水野、本当に何も話してくれなくて……」
春輝と氷上が同じような目に遭ったらしい事は分かる。けれど貴之は、氷上が自らやったと言っていた。
冬哉は声のトーンを落とす。
「……氷上先輩は、その……複数人相手に乱暴された後に水野先輩が見つけたって……」
「……っ」
氷上先輩は実家の病院に入院して、そのまま卒業まで戻って来なかったらしい。三学期目の事だったという。
「春輝大丈夫?」
一気に顔色を無くした春輝を、冬哉は心配そうに見てくる。春輝は、オレより酷い目に遭ってたのか、と唇を噛んだ。
「……何で氷上先輩は自分から? それに水野は関係してるのか?」
春輝は胃の辺りをさすりながら何とか話すと、冬哉は眉を下げる。
「……分からない……吾郎先輩に聞いてみる?」
春輝は頷く。有沢に憧れていたとしても、もう卒業しているし、いつまでも貴之に嫌がらせをする意味が分からない。彼の周りばかりで嫌な事が起こっているから、何か別の意図があるのかもしれない。氷上の真意も知りたいけれど、連絡先を知らないのでは何ともできない。
(宮下先輩なら、氷上先輩の連絡先知ってるかも)
「そっか……じゃ、行くよっ」
「ええ? 今から?」
思い立ったが吉日だよ、と冬哉は本当に楽器を片付け始める。春輝も慌てて楽器を片付けると、周りの部員がどうした、と声を掛けてくる。
「んん? 何やら事件の臭いがするから、調べてくるっ」
冬哉はふざけた様子で元気に言うと、その部員は呆れた顔をした。
「お前ら分かってんのか? 文化祭まで時間無いんだぞ?」
部長も出てきて春輝たちを止めた。しかし冬哉は真剣な顔で部長に言う。
「春輝がまだ嫌がらせされてるんです。僕は黙って見てるなんてできません」
春輝は冬哉に続いて言った。
「オレも、いつまでも水野に守られてばっかりじゃ嫌なんです。オレも水野を守りたい」
そう言うと、何故か周りから拍手が起こった。春輝はビックリしていると、部長は苦笑する。
「合奏だけは出ろよ」
そう言って、部長は送り出してくれた。まず向かうのは宮下のいる武道場だ。音楽室を出てから、そう言えば貴之が迎えに来るんだった、と慌ててメールをしておく。
目的地に着いたところで、春輝は二年の茶髪が出てきたところに出くわす。
「おっと。……可愛いお客さん、誰に用事かな?」
出入口を塞ぐように立たれて、春輝は内心舌打ちする。警戒したのを察したのか、冬哉はそこを退いてください、と硬い声で言った。
すると茶髪はノーモーションで片足を振り上げる。春輝は咄嗟に冬哉を突き飛ばし、茶髪の蹴りをまともに受けてしまった。頭の強い衝撃と共に世界が回り、身体の左側面から地面に落ちる感覚があった。
「春輝!! ……吾郎せ……っ!」
冬哉の叫び声が上がる。しかし途中で何かしらの危害が加えられたのか、冬哉の叫びも止まった。
「……俺の蹴りを予測するとかやるなぁ一之瀬。でも、そろそろ潮時かな。ま、最後に遊ばせてもらうよ」
その言葉と共に春輝の身体がふわりと浮かび、どこかへ運ばれている感覚がする。遠くで冬哉が宮下を呼ぶ声がした。
楽器を持って音楽室に行くと、冬哉が顔を覗き込んできた。ふわふわした天然パーマを見ていると少し癒されたので、春輝は苦笑する。
「なんかオレ、またトラブルに巻き込まれてるっぽい」
「えっ? 何で?」
隣に座った冬哉は、楽器を机の上に置いた。どうやら話を聞いてくれるらしい。
春輝は一昨日二年生の三人組に絡まれた事、そいつらは貴之を困らせるために春輝に絡んだ事、氷上と貴之が付き合ってた噂は本当か確かめようとしたら、返答を先延ばしにされた事を話す。
「二年生の三人組は……前寮長のシンパだろうねぇ……」
それはクラスメイトも言ってた、と春輝は言うとあの三人は有名だよ、と冬哉は言う。春輝は本当に、自分は疎いんだな、と肩を落とした。
「でも、何で俺がターゲットになるのか分からん」
貴之が気に食わないなら直接貴之に絡めばいいのに、と春輝は思う。けれど、そんな単純な話じゃないようだ。
冬哉は、これは吾郎先輩から聞いた話だけど、と前置きして話してくれた。
「前寮長から水野先輩に引き継いだ後、相当反発があったらしいよ。それで、水野先輩に嫌がらせする人もいたみたい」
「……え?」
春輝は思わず聞き返す。前寮長の有沢がものすごくできた人だったから、誰もやりたがらなかったというのは鈴木の話と一緒だ。しかし反発があって、嫌がらせを受けていたというのは初耳だった。
「この学校、生徒会が無いし寮長の権限が結構強くなっちゃってて。おじい様が頭を悩ませてる一つなんだけど……それは置いといて……」
冬哉の言うおじい様とは理事長の事のようだ。大学入試に有利になる寮長というポストは、やりたがる人も一定数いるという。それもあり、どうして水野が? と思う生徒がいたらしい。
でもね、と冬哉は続ける。
「水野先輩、それでも顔色一つ変えずに耐えてたんだって。見ていて痛々しかったって吾郎先輩言ってた」
僕も春輝の事で怒った時、冷静に見つめられてホントにムカついた、と口を尖らせた。
「それで、何をしても反応が無い水野先輩だから、ターゲットが春輝に移ったのかも。先輩の弱点だから」
「オレが水野の弱点……」
春輝はそう呟くと、僕は恋愛に関しては、勘がいいって言ったでしょ、と笑う。
「いつも冷静な先輩が、春輝の前だけ表情が変わるんだよねぇ」
「そ、その話はいいよ。……氷上先輩の事、冬哉は宮下先輩から聞いたんだよな?」
春輝はむりやり話を変えると、冬哉はクスクス笑いながら、咎めずに付き合ってくれる。
「うん……」
「水野、本当に何も話してくれなくて……」
春輝と氷上が同じような目に遭ったらしい事は分かる。けれど貴之は、氷上が自らやったと言っていた。
冬哉は声のトーンを落とす。
「……氷上先輩は、その……複数人相手に乱暴された後に水野先輩が見つけたって……」
「……っ」
氷上先輩は実家の病院に入院して、そのまま卒業まで戻って来なかったらしい。三学期目の事だったという。
「春輝大丈夫?」
一気に顔色を無くした春輝を、冬哉は心配そうに見てくる。春輝は、オレより酷い目に遭ってたのか、と唇を噛んだ。
「……何で氷上先輩は自分から? それに水野は関係してるのか?」
春輝は胃の辺りをさすりながら何とか話すと、冬哉は眉を下げる。
「……分からない……吾郎先輩に聞いてみる?」
春輝は頷く。有沢に憧れていたとしても、もう卒業しているし、いつまでも貴之に嫌がらせをする意味が分からない。彼の周りばかりで嫌な事が起こっているから、何か別の意図があるのかもしれない。氷上の真意も知りたいけれど、連絡先を知らないのでは何ともできない。
(宮下先輩なら、氷上先輩の連絡先知ってるかも)
「そっか……じゃ、行くよっ」
「ええ? 今から?」
思い立ったが吉日だよ、と冬哉は本当に楽器を片付け始める。春輝も慌てて楽器を片付けると、周りの部員がどうした、と声を掛けてくる。
「んん? 何やら事件の臭いがするから、調べてくるっ」
冬哉はふざけた様子で元気に言うと、その部員は呆れた顔をした。
「お前ら分かってんのか? 文化祭まで時間無いんだぞ?」
部長も出てきて春輝たちを止めた。しかし冬哉は真剣な顔で部長に言う。
「春輝がまだ嫌がらせされてるんです。僕は黙って見てるなんてできません」
春輝は冬哉に続いて言った。
「オレも、いつまでも水野に守られてばっかりじゃ嫌なんです。オレも水野を守りたい」
そう言うと、何故か周りから拍手が起こった。春輝はビックリしていると、部長は苦笑する。
「合奏だけは出ろよ」
そう言って、部長は送り出してくれた。まず向かうのは宮下のいる武道場だ。音楽室を出てから、そう言えば貴之が迎えに来るんだった、と慌ててメールをしておく。
目的地に着いたところで、春輝は二年の茶髪が出てきたところに出くわす。
「おっと。……可愛いお客さん、誰に用事かな?」
出入口を塞ぐように立たれて、春輝は内心舌打ちする。警戒したのを察したのか、冬哉はそこを退いてください、と硬い声で言った。
すると茶髪はノーモーションで片足を振り上げる。春輝は咄嗟に冬哉を突き飛ばし、茶髪の蹴りをまともに受けてしまった。頭の強い衝撃と共に世界が回り、身体の左側面から地面に落ちる感覚があった。
「春輝!! ……吾郎せ……っ!」
冬哉の叫び声が上がる。しかし途中で何かしらの危害が加えられたのか、冬哉の叫びも止まった。
「……俺の蹴りを予測するとかやるなぁ一之瀬。でも、そろそろ潮時かな。ま、最後に遊ばせてもらうよ」
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