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それから真洋と巽和将たつみ かずまさのセフレ生活が始まった。

会うのは週に1回、金曜日の夜だ。

いつも通りレッスンの講師を終え、和将からの連絡を待つ。

(ふーん、真洋、アレが好みなのか)

面白くなさそうに呟いた、晶の言葉が何故か思い出される。

晶とセッションした日もそうだったが、どうやら晶は和将の事を気に入っていないらしい。

何故だと聞いても答えてくれず、好きにすれば、と冷たい言葉が返ってきただけだった。

(確かに、裏表がある奴だったけど)

晶は真洋の過去を知らない。けど、彼の態度はいつもの彼らしくなくて、不安になる。

真洋と晶の出会いは『А』だった。

晶はその頃から黒いロリィタ服ばかり着ていて、店内でとても目立っていた。

(何かもっさいのがいる)

そう声を掛けられて、お互い音楽を生業にしていると分かり、意気投合した。

それから5年。晶は真洋の好みに文句を言いつつも、からかっている程度だったのに、今回の和将に関してはそれすらしてこない。

(俺の事心配してる? ……まさかな)

そこで、メールの着信音が鳴る。

見ると予想通り、和将からのメールだった。

シンプルに時間と場所だけ本文に書かれており、確認した真洋はスマホをポケットにしまって、送られてきた場所へと向かう。

会う場所は大抵現地だ。帰る時もバラバラで、極力2人でいないようにしているように見える。

(そのクセやるときは、あんなにねちっこいのにな)

歩きながらそんな事を考える。

思わず下半身に熱が溜まりそうで、無理矢理思考を変えた。

賑やかな繁華街。ビルに取り付けられた巨大なスクリーンには、メンズ用化粧水のCMが流れている。

真洋はため息をついた。

賑やかな所は嫌いだ。見たくないもの、聞きたくないものが勝手に入ってくるから。

できるだけ俯いて歩くことに集中する。

こうすれば、多少なりとも不快な気持ちにはならずに済むからだ。

大通りから少し外れた所にくると、そこはもう、ホテル街の一角だ。

チラホラ人がいてすれ違うけれど、歩くことに集中しているおかげか、そんなに気まずくない。

目的のホテルに着くと、部屋番号の確認のためもう一度スマホを見る。

すると、迷惑メールフォルダの数が1件増えていることに気付き、読まずにそれを消去した。

部屋に着くと、インターホンを押す。

「お疲れ様」

「……っす」

迎え入れた和将は、テレビを見ていたらしい。先程巨大スクリーンで見たCMが流れている。

真洋はテレビを消した。

「よくこんなくだらないもの見れるのな」

「そう? 私は好きだけどね」

「あの世界に女はいねーよ。完全な男社会だ」

「まるで知っているような口ぶりだね」

「……さっさとやるぞ」

真洋は荷物を置くと、さっさと脱衣所に向かう。

大人しくついてきた和将は、真洋が服を脱ぐのを手伝い始めた。

「昔から男性アイドルが好きなんだ。ファンクラブにも入るくらいに。性指向もそっちだと気付いたきっかけにもなったしね」

「あんたの昔話には興味無い」

「つれないなぁ、もうちょっと私に興味もってよ」

真洋は興味が無いと言っているのに、毎回和将は何故か自分の事を話してくる。

歳、仕事、休日の過ごし方ーー本命になりたいから、自分の事を知って欲しいと、1人で語り出すのだ。

「真洋は? 何が好きなの?」

「あ……っ」

和将が真洋の首筋にキスをする。ビクリと跳ねた身体を抑えるように、和将はギュッと抱きしめてくる。

こうやって、和将は色々と真洋の事を聞いてくるが、真洋は頑なに答えようとはしなかった。

温かい体温に、首筋の濡れた感触に、真洋の理性は蕩けていく。

「ここも感じる?」

鎖骨を舌でなぞられて、ゾクゾクと何かが這い上がった。

ジーパンの上から脚の間を撫でられて、甘い吐息が真洋の口から零れる。

(くそ、何でこんなに上手いんだよ)

セフレと言うからには、お互いセックスを楽しむ関係でいたいのだが、毎回真洋は和将に翻弄されっぱなしだ。

和将はクスリと笑う。

「真洋が何が好きなのかは分からないけど、どこを触られるのが好きなのかは分かるよ」

「……っ!」

耳たぶをかじられ、足から崩れ落ちそうになった。

「音楽やってるだけあって、敏感だね」

「それとこれとは、別の話だろ……っ」

真洋は和将のジャケットをすがるように掴むと、彼は動きを止めて真洋を見た。

「キスしていい?」

「……それはしない約束だろ」

俺たちはセフレだ、余計な事はしなくてもいいだろ、と真洋は和将のジャケットを脱がす。

「強情だなぁ、好きなくせに」

「……いいから服を脱げ」

真洋は自分の服を全て脱ぐと、一足先に浴室に入った。
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