【完結】その声を聴かせて

大竹あやめ

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「おい、そんなシケたツラしてんなら帰れ、場が重くなるだろ」

あれから半月ほど経ち、いつものように『А』にいた真洋は、隣にいる晶に睨まれた。

「晶……晶はさぁ、どうしていつもその格好なんだ?」

「何だよ突然。もしかして寝てんのか?」

「寝てねーよ。きっかけが気になっただけだ」

実は今日1日で、迷惑メールフォルダと着信拒否の件数が一気に増えた。

相手は誰か分かってるから、見もしないで消去してるのだが、件数が多くてうんざりする。

「俺に興味持った?」

その言葉に晶を見ると、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべていた。

「やっぱりいい。聞かなかった事にしてくれ」

真洋は両手を振って止めるが、晶は距離を詰めて話してくる。

「俺って、昔から何でもできたんだよね」

止めてくれと言うのに、構わず話す晶の表情が、思ったより真剣だったので、真洋は仕方なく聞くことにした。

「オマケにこの容姿だろ? 父親がアメリカ人で、母親が日本人のハーフで。母親が俺が大きくなるにつれて、色々期待されて束縛も激しかったわけ」

少々自信過剰な発言には目をつむるとして、実際晶は黙っていれば女の子のように可愛い。

頭も良くて容姿端麗とくれば、母親の期待が過熱するのも無理はない。

「将来は国家公務員か政治家か、それがダメなら医者になれって言われ続けてて、ある日俺の中で何かが切れて、女装してみた」

真洋からしてみれば、そこで何で女装になるのか不思議なところだ。

理由を聞くと、晶は首を傾げた。

「多分、自分じゃない誰かになりたかったんだろーな。そしたらすげーしっくりきてハマった」

しかし、そんな晶を見た母親は卒倒する。

そんなの、晶ちゃんじゃない、と好きだった音楽のCDや、女装用の服、友達の連絡先まで捨てさせられた。

「本当は音大行きたかったけど、あのままババアに従ってたら、今頃何してるか分かんねーな」

結果的に、晶は母親の反対を押し切って音大に進学し、今の演奏家生活に繋がっている。

「そのお母さんは、どうしてるんだ?」

晶は肩を竦めた。

「知らね。親父と揉めて家を出ていったけど、まだ法的繋がりがあるのかも知らんしどーでもいい」

「親父さんは、何て?」

「親父はババアが俺にキレた時から、俺の好きなようにさせてくれてる。元々俺の教育方針も、ズレがあったみたいだし」

俺もその時に、女がダメなのはこのババアのせいだなって思った。そして、親父が救世主に見えた、と晶は遠い目をして語る。

自分のセクシャリティについて、家族と揉めるのはよくある話だ。

それでも本人は、存在価値を疑うほど自分を責めたり、自分を認められずに人間関係を壊してしまったりーーみんな、一筋縄ではいかない人生を送っている。

「晶は、強いな」

真洋は晶の頭をグリグリと撫でた。

リボンが取れる! と怒られたが、真洋は晶の強さを心底羨ましいと思った。

「で? 俺に聞いたからには、お前も話すんだよな?」

「……えーっと」

しまった、そこまで考えてなかった、と真洋は思った。

晶の言うことはもっともだし、かといって冷静に語れるほど、真洋は強くない。

「……」

なかなか話し出さない真洋に痺れを切らしたのか、晶は「じゃあ、俺から質問するわ」と手を挙げた。

「お前、男の趣味悪そうだし、それでトラブったから、特定の相手とは付き合わないって感じか?」

「……」

真洋はうなだれた。ぐうの音も出ないほど当たっている。

かろうじて頷くと、晶はため息をついた。

趣味の悪い男と付き合うからだ、とか言われるのだろうか。

「……それはしんどかったな」

思いがけない言葉に、真洋は晶を見る。

「何だよ?」

「いや、晶もそんなこと言うんだって」

そう言うと、晶は怒ったようにそっぽを向いた。

「本気で傷付いた奴に、塩を塗り込むような事はしねーよ」

口調からして、少し照れているらしい。

普段からそれだけ素直にすればいいのに、と思うが口には出さない。

少々露悪的な晶だけど、根本は良い奴だ。

そして、それ以上聞かれなかった事にも心の中で感謝した。

すると、ポケットに入れていたスマホが震えた。

確認すると、また迷惑メールにメールが入っている。

しつこいな、と思いつつもいつものように消去しようとすると、知らない相手から着信がくる。

「誰?」

「さぁ?」

晶が画面を覗き込んでくるが、その間も着信は切れる様子はない。

「貸せ」

「ちょっと!」

晶は素早く真洋の手からスマホを奪うと、勝手に通話ボタンを押した。

「もしもし?」

「晶、返せって!」

追いかける真洋から逃げる晶は、電話の相手と話しているようだ。

しかし眉間に皺を寄せて「俺は真洋の友達だけど?」と何やら喧嘩腰に喋っている。

「は? お前そんな見え透いた嘘でだまされると思ってんのか?」

「ちょ、誰と話してんだよ!?」

真洋が晶からスマホを取り戻すと、晶は不機嫌な声で言った。

芥川光あくたがわ ひかるとか言うアイドルの名前を騙る怪しいヤツ」

その名前を聞いて、真洋はどっと嫌な汗が出る。

それはもしかしなくても、ずっと真洋に着信やメールをよこしてきた人物だ。

真洋はスマホの通話を切り、電源を落とした。

「無視だ、無視」

「ああ、無視で良いそんな奴」

晶は珍しく怒っているようだ。飲んでいたお酒を一気に飲み干す。

「何か言われたのか?」

「別に! 真洋に友達なんかいるはずないとか言ってたけど、それ以前に俺の勘が『ムカつく奴』判定したから」

「何だそれ」

ムスッとしている晶に、真洋は不覚にも笑ってしまった。

どうやら友達云々の言葉に怒っているらしい。思った以上に、真洋は晶に気に入られているようだ。

真洋は密かに息を吐く。緊張していた身体から力が抜けると、早くなっていた心臓の鼓動も落ち着いてくる。

「あんな失礼な奴、本当に知り合いなのか?」

「知らない。イタズラ電話だろ」

真洋はそう言うと、席を立つ。

「どこ行くんだよ?」

「ん? 明日朝イチでスマホ解約するから、バックアップするわ」

思えばあの時から電話番号を変えていないから、連絡が来るのは当然だった。

迷惑メールフォルダを見て嫌な気分になるくらいなら、さっさとこうすれば良いと、何故気付かなかったのだろう?

仕事で使っていたのもあるし、番号はなるべく変えたくなかったが、仕方がない。

「……そっか。新しい番号、分かったら教えろよな」

「了解。またな」

真洋は店を出ると、賑やかな繁華街を歩き出した。
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