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第126話
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「あ、ダーリン発見♪」
朝方、眠気覚ましのため、製紙工場の敷地内を散歩していると、まだ成長途中で低い紅葉樹の下枝に腰掛けた半人造の少女と出会う。
白藤の髪を木漏れ日でまだらな銀色に染め、こちらが歩み寄るのを待っていた彼女は微笑み、斥候向けの指ぬきグローブに包まれた繊手を差し伸べてきた。
それを右掌で包み、引き寄せて地面へ降ろすと、嬉しそうに桜唇の端を緩める。
「ありがと、これあげる」
季節柄、綺麗な赤に色付いた葉を一枚、繋がれてない方の手で胸ポケットへ差し入れたかと思えば、くるりと半弧を描くような身のこなしで隣へ並び、こちらの左腕に自身の右腕を絡めてきた。
振りほどく理由もないので好きにさせて、秋服越しに伝わる人肌の暖かさを感じながら、真新しい工場の随所を見廻っていく。
「もう少しで一周だけどさ… これだけの土地、よく王都に用意できたね」
「将来的に国内の紙幣印刷を一手に引き受けることもあって、施設の増築を見据えた宰相閣下の裁量で、広めに確保してくれたと聞いている」
当然の如く、立ち退きに抵抗する住民もいたが、約二年間を投じた説得の継続や、法規に定められた強権の発動で近隣への転居に応じさせたようだ。
余計な恨みを買ってないこと、切に願うばかりである。などと、ご近所づきあいの心配をしていたら、住処が近づいたところでリィナに抱き締められた。
「家だとウルリカいるし、大っぴらにいちゃつくのも憚られるから」
「見掛けの年齢は変わらなくても、中身は相応に成長してるんだな」
「むぅ、当然じゃない、幼馴染の中では一番早く生まれたお姉さんだよ?」
そう言えば、誕生月を迎えるのは同い年のクレアやフィアよりも、少し早かったなと思いつつ、彼女の背に手を廻して受け入れる。
ふわりと漂う薫りに意識を向け、しなやかな身体の感触を数秒ほど堪能していたら視界の先にある扉が開き、水桶片手にメイド姿の人狼娘が出てきた。
優れた嗅覚で風に紛れる匂いを捉えたのか、こちらを目聡く探知して楚々と歩み寄り、両腕を広げて突き出してくる。
「ご主人、あたしも……」
「ふふっ、見つかっちゃったね」
くすりと笑った半人造の少女が身を離したので、だっこ待ちのウルリカを横抱きにして水場へ向かい、難なく飲み水を調達させるも… 木桶を両手持ちした人狼娘に帰りまで同様のことを求められて、二人とも衣服を濡らしてしまった。
さりとて被害は少なく、朝食を齧っている内に乾くだろうと放っておけば、素朴な疑念を持ったフィアの問い掛けにより、思わぬ方向に波及していく。
「つまり、ジェオ君とリィナが抱き合ってたから、貴女も?」
「ん… 天与の機は逃さない」
どや顔で答えられた司祭の娘はぎぎっと、潤滑油の切れたような動きで首を廻し、こちらに彩光の消えた黄金色の瞳を向けて、エプロン姿のまま両腕を広げた。
「玄関でやれと?」
「えぇ、私だけ除け者なのは神が許しません」
“皆の朝ごはん、美味しく作ってたのに…” と嘆き、負の感情を募らせる様子は怖いものがあるため、優しく抱き寄せて日々の感謝を伝えながら宥め透かす。
その一方で何故か “賢者の時間” が訪れて、まだ朝方なのに何やってるんだと思い至り、内心で自戒するように溜息を零した。
朝方、眠気覚ましのため、製紙工場の敷地内を散歩していると、まだ成長途中で低い紅葉樹の下枝に腰掛けた半人造の少女と出会う。
白藤の髪を木漏れ日でまだらな銀色に染め、こちらが歩み寄るのを待っていた彼女は微笑み、斥候向けの指ぬきグローブに包まれた繊手を差し伸べてきた。
それを右掌で包み、引き寄せて地面へ降ろすと、嬉しそうに桜唇の端を緩める。
「ありがと、これあげる」
季節柄、綺麗な赤に色付いた葉を一枚、繋がれてない方の手で胸ポケットへ差し入れたかと思えば、くるりと半弧を描くような身のこなしで隣へ並び、こちらの左腕に自身の右腕を絡めてきた。
振りほどく理由もないので好きにさせて、秋服越しに伝わる人肌の暖かさを感じながら、真新しい工場の随所を見廻っていく。
「もう少しで一周だけどさ… これだけの土地、よく王都に用意できたね」
「将来的に国内の紙幣印刷を一手に引き受けることもあって、施設の増築を見据えた宰相閣下の裁量で、広めに確保してくれたと聞いている」
当然の如く、立ち退きに抵抗する住民もいたが、約二年間を投じた説得の継続や、法規に定められた強権の発動で近隣への転居に応じさせたようだ。
余計な恨みを買ってないこと、切に願うばかりである。などと、ご近所づきあいの心配をしていたら、住処が近づいたところでリィナに抱き締められた。
「家だとウルリカいるし、大っぴらにいちゃつくのも憚られるから」
「見掛けの年齢は変わらなくても、中身は相応に成長してるんだな」
「むぅ、当然じゃない、幼馴染の中では一番早く生まれたお姉さんだよ?」
そう言えば、誕生月を迎えるのは同い年のクレアやフィアよりも、少し早かったなと思いつつ、彼女の背に手を廻して受け入れる。
ふわりと漂う薫りに意識を向け、しなやかな身体の感触を数秒ほど堪能していたら視界の先にある扉が開き、水桶片手にメイド姿の人狼娘が出てきた。
優れた嗅覚で風に紛れる匂いを捉えたのか、こちらを目聡く探知して楚々と歩み寄り、両腕を広げて突き出してくる。
「ご主人、あたしも……」
「ふふっ、見つかっちゃったね」
くすりと笑った半人造の少女が身を離したので、だっこ待ちのウルリカを横抱きにして水場へ向かい、難なく飲み水を調達させるも… 木桶を両手持ちした人狼娘に帰りまで同様のことを求められて、二人とも衣服を濡らしてしまった。
さりとて被害は少なく、朝食を齧っている内に乾くだろうと放っておけば、素朴な疑念を持ったフィアの問い掛けにより、思わぬ方向に波及していく。
「つまり、ジェオ君とリィナが抱き合ってたから、貴女も?」
「ん… 天与の機は逃さない」
どや顔で答えられた司祭の娘はぎぎっと、潤滑油の切れたような動きで首を廻し、こちらに彩光の消えた黄金色の瞳を向けて、エプロン姿のまま両腕を広げた。
「玄関でやれと?」
「えぇ、私だけ除け者なのは神が許しません」
“皆の朝ごはん、美味しく作ってたのに…” と嘆き、負の感情を募らせる様子は怖いものがあるため、優しく抱き寄せて日々の感謝を伝えながら宥め透かす。
その一方で何故か “賢者の時間” が訪れて、まだ朝方なのに何やってるんだと思い至り、内心で自戒するように溜息を零した。
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