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第144話
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「私は “導き手” だから、蕃神の眷属を排する役目は負ってないし、学院の括りだと同輩のアンダルス教授や、彼のお師様とも懇意にしているわ」
「また知らない単語が出てきたな、説明して貰えるとありがたい」
「むぅ、君を推薦してきた戦闘狂に聞いてないの?」
どうしたものかと悩み、数秒ほど物思いに耽ったヴァネッサは少しだけ伏せていた瞼を開き、しょうがないと言った様子で語り始める。
彼女の話を纏めれば旧人類が滅びる契機となった次元振動兵器? の弊害により、外部から干渉されやすくなった地球で怪異を屠る “討ち手” に対して、“導き手” は人々が破滅的な過ちを繰り返さないよう、文明の育成を担う仕事があるらしい。
「そこはかとなく面倒そうなので、続きを聞くのは止めておこう」
「こちらも巻き込みたくないけど… 聡い士官が帝国にいて火力発電所の遺構から、精緻なタービン式の心臓部は到底模倣できずとも、蒸気の有用性に気づいたのよ」
このまま傍観すると、十数年後くらいには単独で “実用的な動力源” を開発した帝国のみ、様々な分野で生産力を突出させる事態となり、近隣諸国のパワーバランスを崩壊させて大きな戦争を引き起こし兼ねない。
さらに海を越えた先まで影響する可能性も高いため、次善策として他国にも同系技術の種を蒔いて釣り合わせるのだと嘯き、彼女は不服そうに愁眉を曇らせた。
「仕方なく教えてやるから、協力者として素地を作れと?」
「ご明察、派手にやり過ぎないでね」
仮に外燃式の機関で大規模な出力を得ようとするなら、必然的に大型化せざるを得ず、燃費の悪さも相まって歯止めは利くようだが、抜け目なく釘を刺されてしまう。
あくまでも、現時点に於ける情報開示はイレギュラーな状況への緩和措置であり、蒸気機関の発展や普及は “帝国側と足並みを揃えなければならない” との事だ。
「グラシア王国だけ、抜きんでた優位性を持っても荒れるのは一緒だろうな」
「ん、本末転倒、その時は遠慮なく妨害させてもらうわ」
酷薄な冷笑など湛え、国力の均衡こそが一番と主張するヴァネッサに触発されて、思わず脳裏を掠めた疑問に言及する。
「数機しかないものの、帝国の装甲騎兵は許されるのか、破格の戦力だぞ?」
「うぐっ、高密度核電池を搭載した強襲型歩兵甲冑のこと?」
“あれは保存状態さえ良ければ二千年以上が経っても動くし、平時は帝都の最深部に機密扱いで保管されているから、手出しできない” と嘆いた彼女が臍を嚙む。
しかも、現状では希少な石油の残量に縛られて、只のオブジェになっている戦車や自走砲と異なり、動力上の制約が無さそうなのは厄介極まりない。
「誰か、戦場で殲滅してくれないかしら」
「幸運に恵まれて “鋼鉄の聖騎士” を斃した最後の記録、半世紀も前だったな……」
そっと現実より目を逸らしながら、あてどなく泳がせた研究室の主はアルコールランプを視界に捉えて掴み、ずいとこちらに突き出してくる。
少なくない既視感を感じつつも、ミニチュアサイズの蒸気機関を実働させてくれるようなので、本日二度目の生活魔法による火種を指先へ灯した。
「また知らない単語が出てきたな、説明して貰えるとありがたい」
「むぅ、君を推薦してきた戦闘狂に聞いてないの?」
どうしたものかと悩み、数秒ほど物思いに耽ったヴァネッサは少しだけ伏せていた瞼を開き、しょうがないと言った様子で語り始める。
彼女の話を纏めれば旧人類が滅びる契機となった次元振動兵器? の弊害により、外部から干渉されやすくなった地球で怪異を屠る “討ち手” に対して、“導き手” は人々が破滅的な過ちを繰り返さないよう、文明の育成を担う仕事があるらしい。
「そこはかとなく面倒そうなので、続きを聞くのは止めておこう」
「こちらも巻き込みたくないけど… 聡い士官が帝国にいて火力発電所の遺構から、精緻なタービン式の心臓部は到底模倣できずとも、蒸気の有用性に気づいたのよ」
このまま傍観すると、十数年後くらいには単独で “実用的な動力源” を開発した帝国のみ、様々な分野で生産力を突出させる事態となり、近隣諸国のパワーバランスを崩壊させて大きな戦争を引き起こし兼ねない。
さらに海を越えた先まで影響する可能性も高いため、次善策として他国にも同系技術の種を蒔いて釣り合わせるのだと嘯き、彼女は不服そうに愁眉を曇らせた。
「仕方なく教えてやるから、協力者として素地を作れと?」
「ご明察、派手にやり過ぎないでね」
仮に外燃式の機関で大規模な出力を得ようとするなら、必然的に大型化せざるを得ず、燃費の悪さも相まって歯止めは利くようだが、抜け目なく釘を刺されてしまう。
あくまでも、現時点に於ける情報開示はイレギュラーな状況への緩和措置であり、蒸気機関の発展や普及は “帝国側と足並みを揃えなければならない” との事だ。
「グラシア王国だけ、抜きんでた優位性を持っても荒れるのは一緒だろうな」
「ん、本末転倒、その時は遠慮なく妨害させてもらうわ」
酷薄な冷笑など湛え、国力の均衡こそが一番と主張するヴァネッサに触発されて、思わず脳裏を掠めた疑問に言及する。
「数機しかないものの、帝国の装甲騎兵は許されるのか、破格の戦力だぞ?」
「うぐっ、高密度核電池を搭載した強襲型歩兵甲冑のこと?」
“あれは保存状態さえ良ければ二千年以上が経っても動くし、平時は帝都の最深部に機密扱いで保管されているから、手出しできない” と嘆いた彼女が臍を嚙む。
しかも、現状では希少な石油の残量に縛られて、只のオブジェになっている戦車や自走砲と異なり、動力上の制約が無さそうなのは厄介極まりない。
「誰か、戦場で殲滅してくれないかしら」
「幸運に恵まれて “鋼鉄の聖騎士” を斃した最後の記録、半世紀も前だったな……」
そっと現実より目を逸らしながら、あてどなく泳がせた研究室の主はアルコールランプを視界に捉えて掴み、ずいとこちらに突き出してくる。
少なくない既視感を感じつつも、ミニチュアサイズの蒸気機関を実働させてくれるようなので、本日二度目の生活魔法による火種を指先へ灯した。
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